読書案内 「悼む人」
天童荒太著 文芸春秋2008年刊
悼む人=静人は親友を失い、その命を救ってやれなかった自責の念からか、悼む人としての旅に出かける。
全くの見ず知らずの人の死を悼み、手を合わせ、独特のポーズで祈る。
死者が生前、誰を愛し、誰に愛されどんなことで感謝されたかを聞き、
そのことを忘れない様に悼みの祈りをささげる旅。
坂築静人の母巡子:
がんの末期症状で余命を自宅療養に切り替え悔いを残すことなく、明るく前向きに生きていこうとしている。
巡子の夫鷹彦:
対人恐怖症のように、人と接し話をすることが不得手だが、妻の巡子には誠実で優しい夫。
静人の妹・美汐:
静人の理解しがたい行為に、破談になる。それでも、子どもを産もうとする。
巡子の残された命と、生まれ来る新しい命が坂築家の中で対比されていく場面に感涙の涙。
後半、旅を続ける静人に寄り添うように同行する倖世もまた、
愛するがゆえに夫を殺してしまったつらい過去を引きずって生きている。
『親友の死はつらかったろうし、命日を忘れたことで自分を責める気持ちはわかるが、
人の死を求め歩いて、どんな慰めになるのか、何の意味があるのか』と問う巡子に、
『何になるかなんて、今はわからないよ。それを知るためにも、(旅を)つづけたいんだ』と答える静人。
彼の「悼む人」としての旅は、私には最後まで理解できなかった。
年老いて、病み、次第に運動機能を失い、家族の手助けなしには生きていけない巡子。
それでも気丈に、死が訪れるまで、自分を失わずに生きる静人の母・坂築巡子の生き方は、
共感と感動をもって読むことができた。
心に傷を持ったまま生きる登場人物たちに、
「優しさ」というスパイスを振りかけ、
この暗くうっとうしく感じる長い小説を最終章まで読者を惹きつけていく手腕は素晴らしい。
評価☆☆☆+1/2☆ 2015.3.10