敗れてなお潔(いさぎよ)し リオ・オリンピック
陸上女子5000㍍予選
勝者のメダルを抱え、美酒に酔い満面の笑みを浮かべるメダリストたち。
だが、勝者の裏には多くの敗者が涙を呑んで去って行く。
映像にもとらえられることなく、インタビューもなくひっそりと場外に消えていく。
たった一人の勝者の裏に、数えきれないほどの敗者が存在する。
スポーツの歴史も常に、勝者の記録によって書き換えられる。
敗者はいつも、無念の涙を流す。
スタートラインは同じだ。
勝者の栄光を目指して、
孤独なアスリートの努力がまた始まる。
さて、敗れて潔しの話です。
それは、女子5000㍍予選2組で起こりました。
レース中、集団の中でニュージーランドの選手(ニッキ・ハンブリン)が転倒した。
後ろを走っていたアメリカの選手(アビー・ダゴスティノ)も巻き込まれて転倒。
先に立ち上がったのはダゴスティノだった。
ダゴスティノは先に転倒したハンブリンを見捨てなかった。
ハンブリンを助け起こし、こう言ったという。
「これはオリンピックだからゴールしなきゃ」(外電)
「立って立って。完走しなきゃ」(朝日)
ちょっとニアンスは違うが、ダゴスティノの言った言葉の直訳だと思われる。
「立って立って。完走しなきゃ」の方が臨場感が伝わってくる。
「オリンピックだからゴールしなきゃ」は、
オリンピックの意味を読者に解りやすく伝えるための意訳だと思える。
二人は互いに支え合いながらレースを続ける二人。
今度は、励まし声をかけたダゴスティノが足の痛みで、トラックに倒れる。
ハンブリンが励まし、互いにもつれるようにトラックを走る。
完走した二人。
結果は16人中15位と16位だった。
互いの抱擁が、どんな言葉よりも重い意味を持っている。
「助けたのは本能。私が助けたというより私の中の神様が助けた感じ。一瞬の事だったけど、
世界中で共感を呼ぶなんて」。
ダゴスティノの言葉がさわやかに世界を駆け巡った。
金色に輝くメダルよりも、輝きを放ち、かけがえのない貴重な行為は、
彼女たちにとって生涯の宝物になるだろう。
「 敗れてなお潔し」である。