読書案内「喜びは悲しみのあとに」上原 隆著 (4)
一生懸命生きて
悲しみのあとに喜びは訪れるのか。
努力が報われる日が訪れることを願いながら読んだ。
実演販売の男
孤独な商売である。
実にいろいろなものを売る。
ちょっとした発明品などで一般に販売されていないものが多く、
数量限定販売品が多い。
歩合制だから、売れなければ惨めなものだ。
一日声を枯らして頑張っても4個しか売れなかった日もあると
実演販売の男・山口は苦笑いする。
これでは生活そのものが成り立たない。
しかし、売れれば結構な収入になる。
例えばある日の山口の収入(売り上げ)を見ると、84人の客に売り、売り上げからデパートに支払う分や、問屋などに支払う分を除くと、山口の手に残るのは4万2千円だ。更にその中から野菜などの材料費が消える。
一見はなやかそうな雰囲気を醸し出しているが、どこかに孤独感が漂っている。
あの孤独な感じは何だったのだろう?
口八丁手八丁で客を集め、
如何にして人垣を作り、
その人垣を散らさないようにするかが腕の見せどころなのだろう。
いったん気力が切れちゃうとね、もうだらしがない。同じことをやっても、ぜんぜん客に伝わらなくなっちゃうんですよね。
それ故に、集めた客は絶対に散らさない。
秘訣はない、その日のノリで決まる場合が多い。
だから一期一会で行き交う人々をとらえるのだろう。
デパートやスーパーという大きな組織の中で働いていても、
その組織に属さない山口を襲ってくるのは、
堪えがたい寂寥感なのではないだろうか。
大河を流れる一枚の木の葉のように、
先行きが見えず、
ただ流れに身をゆだねて流されていくような孤独感が
きっと山口を覆っているのだろう。
著者はそれを次のように表現している。
山口は川の流れに立っている一本の孤独な杭(くい)のように見えた。
「頑張れ!!」と私は読みながら彼に応援のエールを送っていた。
(2017.9.2記) (つづく)
(読書案内№106)