遠花火
遠ざかる花火
地方の小さな小さな花火大会だ。
手作りの花火大会は、地域に住む人たちの小さな善意で成り立っている。
「家族の健康を祈って」
「初孫万歳!!」
「今年も元気に過ごすことができました。ありがとう」
等々、個人の幸せを祈って打ち上げる人が多い。
打ち上げ総数2000発。
地域の皆さんの寄付がなければ成り立たない花火大会だが、
10年以上も続いてきた。
喧噪の中で、夜空いっぱいに広がる花火を川岸の土手に座って眺める。
ドーンという音に続いて、少しの間があり、パッと夜空に広がる色鮮やかな花火
一瞬の命の瞬き。
感動と同時に、枝垂れ柳のように消えていく。
華やかさの頂点と、消えゆく儚さがほぼ同時に存在する。
ここ近年、私は会場から遠く離れたところから眺めるようにしている。
「遠花火」を眺める位置が、年ごとに遠くなっている。
かすかな音と共に、
遠くの夜空に消えていく花火を眺めるのも、いいもんだと自負しながら
夏の一夜を過ごしている。
遠花火 人生を想う
〇 あれやこれ過ぎし日のこと遠花火 …… 池下よし子
〇 これからの生き方問はれ遠花火 …… 稲嶺法子
〇 悔いなしと言へぬ半生遠花火 …… 久保田雪枝
〇 遠花火記憶の端をつなぎけり …… 佐久間由子
遠花火 逝きて帰らぬ人を想う
〇 遠花火今宵は逝きし人のこと …… 中島昌子
〇 母逝きし日の静かなる遠花火 …… 松田明子
〇 臨終に音一つ無し遠花火 …… 鳳蛮華
〇 遠花火征きて還らぬ人の供華 ……
遠花火 命の音が聞こえる
〇 一秒の命を尽くす遠花火 ……蒔元一草
〇 遠花火心の底に音はじけ ……高橋美智子
遠花火 花火に託す恋
〇 初恋は儚く消えし遠花火 ……茂木とみ
〇 握る手を握り返せず遠花火 ……永田 勇
(2018.8.14記) (昨日の風 今日の風№89)