この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

続々・なぜ『ガタカ』は誤読されるのか?

2020-01-27 21:40:42 | 旧作映画
 10年ぶりに兄ビンセントにガタカで再会したアントンは兄が生きていたことに驚き、それからすべてを諦め一緒に来るように言います。
 その提案をビンセントが受け入れられるわけもなく、二人は再び遠泳勝負をすることになります。

 遠泳勝負はビンセントの圧勝でした。
 アントンは前回同様引き返す途中で溺れ、ビンセントに助けられるのです。

 このシーンだけを見ると、「神の子」ビンセントが「適正者」アントンに実力で勝利したように受け取れます。
 ビンセントが遺伝子の鎖を引きちぎり、未来を切り開いた、そんなふうに受け止めた方も多いのではないでしょうか。
 しかし、残念ながらその解釈は間違っています。

 まず思い出して欲しいのはビンセントが心拍測定チェックの後、ロッカールームで倒れ込むシーンです。
 彼の心臓はたった20分ロードランナーで走っただけで限界を迎える、そんなボロボロの状態だったのです。

 さらに短いですが、無視しえないシーンがあります。
 それはアントンが流水プールで泳いでいるシーンです。
 そのプールがどこにあるか、自宅にあるのか、それともどこかの施設なのか、短いシーンなのではっきり断定は出来ませんが、間違いなく言えるのはアントンは泳ぎが達者だった、ということです。
 殺人事件の捜査中であるにもかかわらず泳いでいたということは普段から時間があれば泳いでいたと考えられます。
 普段から時間があれば泳いでいた人間が泳ぎが不得手だった、とは考えにくいですから。

 心臓がボロボロな状態のビンセントが「適正者」であり、泳ぎが得意なアントンに遠泳勝負で勝利することが果たしてあるでしょうか。
 ない、と断言してもいいですよね。
 アントン自身が勝ちを譲らない限りは。

 アントンが勝ちを譲ったのであれば、それはなぜでしょう?
 ここから先は自分の想像です。
 10年ぶりに兄ビンセントに再会したアントンは兄が生きていたことに驚きます。
 しかしそれ以上に驚いたのが、兄が子供のころからの夢である宇宙飛行士まであと一歩というところにまで来ていたことです。
 ただ、兄の様子はどこか精神的に不安定で、自信も無さげでした。
 兄に自信を取り戻させるにはどうすればよいのか?
 凡百なドラマであれば、「すごいよ、兄さん、夢だった宇宙飛行士まであと一歩じゃないか。兄さんなら絶対に出来るよ」というような陳腐なセリフをアントンは口にするでしょう。
 しかし『ガタカ』においてはアントンはビンセントにこう言うのです。
 俺がお前に負けるわけがない、と。
 アントンはビンセントが自信を取り戻す一番良い方法を経験で知っていたのです。

 ネットをざっと見回した感じでは、アントンのことをビンセントが宇宙飛行士になることを阻止しようとする妨害者だと思っている人が多いようです。
 自分の考えは違います。
 宇宙飛行士になるというビンセントの夢を最初に知ったのはアントンです。
 宇宙飛行士になるために努力するビンセントの姿を間近で見ていたのもアントンです。
 そのアントンが10年ぶりに会ったビンセントの夢を妨害するとはとても思えません。
 アントンこそがビンセントの夢の最大の理解者であったと自分は考えます。

 『ガタカ』について語り出せば止まらなくなるので今回はこれで手仕舞いとさせてもらいます。
 またの機会があれば、なぜジェロームが自ら命を絶ったのか、などについて語ってみたいと思います。
コメント
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