スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

漱石追想&永遠と持続

2021-02-02 19:07:43 | 歌・小説
 以前に夏目漱石の評伝として,十川信介の『夏目漱石』を紹介しました。これは岩波新書版でしたが,十川は岩波文庫から,編者として『漱石追想』も出しています。
                                        
 これは十川が編者となっているものですから,十川自身が漱石を追想しているものではありません。漱石が生きていた頃に,漱石と一度でも出会って話をしたことがある人物が,漱石の死後に,漱石について書いたものあるいは話したことを聞き書きしたものをまとめたものです。全部で49人で,僕が初めて知った人も多いですし,きわめて有名な人物も含まれています。
 『漱石全集』の別巻には,『漱石言行録』というのがあって,そこにも漱石に対する回想録が収録されています。十川はこの文庫版では,なるべくそれとの重複を避けたそうです。また選別の規準としては,たとえ一度しか対面したことがない人物であっても,漱石の一面を捕えていると思われる文章が含まれていると十川が判断したなら,それを優先して掲載したとのことです。ですから著者は,家族やきわめて漱石と親しかった人も含まれていますし,意図せずに一度だけ漱石と同席したことがあったという,知り合いの中では最も疎遠な関係にある人物も含まれています。
 資料として貴重だと思われるのは,漱石がまだこともだった頃の同級生が,当時を回想しているものが含まれている点です。僕は作家論と作品論では作品論の方を重視しますから,必ずしもそうした事柄によって漱石のテクストを理解しようという意図は持ち合わせていませんが,それでも漱石が学校でどのようなことをしていたのかというようなことは,その当時の漱石のクラスメイトでなければ知り得ない事柄ですから,少なくとも希少価値という点では,漱石の大学時代や社会人時代の追想よりも高いといえるでしょう。とくに漱石は1867年産まれで,その翌年が明治維新です。したがって明治初期の小学生のありようを示しているものとしての価値もあると思います。

 因果性の原理を神Deusに適用することは不可能であるとするアルノーAntoine Amauldの意見opinioを,スピノザの哲学との関連で考察します。
 神がなぜ存在し続けるのかを問うことは背理であるということの理由として,そこには以前と以後,あるいは過去と未来が包含されているとアルノーはいっています。アルノーがこのようにいうということは,神がなぜ存在し続けるのかという問いを,スピノザの哲学に照合させていえば,神はなぜ存在existentiaを持続するdurareのかという問いであるとアルノーは把握していることになります。そしてそうしたことが,無限infinitumである存在者すなわち神の概念notioからは排除されなければならないとアルノーはいっているのです。
 もし持続duratioという概念が神に適用されてはならないという点だけに注視するなら,スピノザはこの見解opinioに賛同するでしょう。『エチカ』でその中心となるのは第一部定義八説明です。ここでスピノザがいっているのは,永遠aeterunusであることは持続や時間tempusによっては把握され得ないということです。いい換えれば永遠という概念と,永続的な持続という概念は異なるのです。第二部定義五では,持続が存在の無限定な継続Duratio est indefinita existendi continuatioだといわれていますが,無限定な継続と永遠は異なったものなのです。したがって,神の存在というのは無限定に継続するものではなく永遠なものですから,神のうちには以前とか以後,あるいは過去とか未来といった概念は含まれません。永遠から永遠に渡って存在する神は,いつからとかいつまでといった時間の概念によって説明することはできないのです。
 ですから,永遠であるものに持続を適用することはできないというのであれば,スピノザの思想とアルノーの見解は一致しているとみなければならないでしょう。ですが,アルノーが大前提としている部分,すなわち,因果性の原理そのものが,以前とか以後あるいは過去や未来を内包しているという点には,スピノザは同意しないでしょう。というのもこの考え方自体が,別個性条件を前提としているといえるからです。さらに,神がなぜ存在を維持し続けるのかという問いは不条理ですが,神はなぜ永遠から永遠に渡って存在するのかと問うなら,この問いは不条理ではありません。

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