谷山浩子さんのベスト盤的な企画アルバムは、そろそろ発売されつくした感があったので、
次に出るとすればシングルコレクション的なものかなというある程度の予測はありました。
やっぱりといった感じで、このたび3枚組みで過去のシングル曲A面・B面をすべて網羅したCDが
「45周年記念」として発売されることが決まったようです。私もさっそく予約しましたよ。
これまでデジタル化されていない幻の音源が初CD化されるということで、うれしい限りですよねえ。
と思いきや、意外に初ものは少なくてたったの3曲のみです。そのうちA面扱いは1曲だけで、
あまりに気の毒なその曲は『ごめんね』。これまでの理不尽な扱いを許してや、待たせてごめんね。
でもかえって今回一躍脚光を浴びることになったかも。確かごめんねは、のちのシングル曲
『サーカス』と対になるような曲で、同じ「別れ」の場面を男の側(ごめんね)と女の立場(サーカス)
から描いたものだったと思います。違ったかな?ずいぶん長いこと聞いていないから記憶が曖昧…
今までの未収録曲が3曲だけと、この結果だけみたらシングル曲が厚遇を受けてきたかのようですが
これが逆で、ベスト盤などに重ねて選曲されることが谷山さんの場合かなり少ない状況でした。
CD化されたオリジナルアルバムにだけ収録されているものがあるのと(たとえば『忘れられた部屋で』
とか『ラ・ラ・ルウ』『夕焼けリンゴ』などなど)、加えて、年代別ベスト・80年版(上の写真)が企画色の
強いアルバムで、シングルやそのB面を多数含んだ構成なので、このCDの恩恵で唯一CD化
されている曲も少なくありません。そういう意味でも'80S(あるいは'70Sも近い趣向だったか)は、
貴重な価値のあるベスト盤でありましたが、逆に今回のコレクションの登場でほぼその役割を終えた
ともいえます。私の好きなシングル曲の『たんぽぽ』はこのベスト盤にしか収録されていなかったので、
それを聞きたさにこのCDをしばしばトレイに乗せてきたものです。
さらに邪推すれば、谷山さんはシングルとして発売された曲をご本人としてはあまり評価していない、
ぶっちゃけ嫌っているとさえ思えてきます。繰り返しベスト的なアルバムに選曲される楽曲が、あまりにも
少ないように思うからです。これには様々要因があるのでしょうが、ひとつには、ご自身のシングル曲に
対して、嫌な思い出、トラウマみたいなものがあるからじゃないのかしら?
当時はシングル崇拝が強く、シングル曲がヒットすることが人気を計る一番のバロメーターで、
シングルがヒットする→人気が出る→アルバムが売れる→コンサートの動員数も増える…
みたいなサイクルが一般的だったように思います。売れるシングル曲をつくるために多くのアーティストが
頭を悩ませ、ヒットを飛ばせとの上からの至上命令・圧力に耐えて、それは自身が本来望んでいた
創作活動とは大きくかけ離れていたことがあったかもしれません。これは私の勝手な憶測だけでなく、
当たらずとも遠からずではないでしょうか?
谷山さんは『夜のブランコ』以降17年間もシングル曲を発表しなくなりましたが、この間に
発売されたアルバムはそれまでにも増して完成度の高いものが続出しましたから、これは「シングル制作の
呪縛から解き放たれたからこそ」とも推察できます。ご自身もコンサートで述べられていますように、
「出しても売れないからシングルやめちゃった」とあっさり見限ったのが奏功したのもしれませんし、また、
そうとはいえ、大ヒット曲に恵まれたわけではないのにここまで長く続けてこられたのも考えればすごいことです。
これは歌い手以外にもマルチな才能を発揮したのと、地道なコンサート活動を続けた賜物なのでしょう。
セールス的には『カントリーガール』が一番の出世曲なのかな。私の感覚としては、ポプコン(テレビ版)の
「今月の歌?」に使われ毎回流れていた『忘れられた~』とか、オールナイトニッポンでしょっちゅう
かかった(テーマ曲だった?)『てんぷら☆さんらいず』などのほうがもっとヒットしていた気がするんですよね。
『忘れられた~』などは私的にはとてもいい曲だと思うのにご自身の評価はさほどでもないのか、かろうじて
オリジナルアルバムに入っているだけで、それ以外にCDで聞けるのはこのコレクションが初めてです。
作った側の事情も様々、聞いてきた側も勝手に思い出を重ねたりしてそれぞれが好きな曲に対して
強い思い入れがありますから、みんな違ってみんないいのでしょうかね。
'70S&'80Sがなかったとしたら、このシングルコレクションの価値はさらに絶大であったでしょうが、
まあいろいろ歴史的な経緯もあるでしょうからねえ。シングル集が登場する今となっては、逆に
70&80の存在はかなり中途半端になるのも事実でしょうし、あらためて70&80年代のベスト盤を
編み直すことも考えられるでしょう。しかし、シングル集=究極のベストとも限らないのが難しいところで、
結局は、昔々、好きな曲だけ集めて自分だけのベスト集(マイベストみたいな)をカセットテープに収録して
楽しんでいたように、「自己流ベスト」を選ぶしかないのかもしれません。シングルコレクションなどは
そのためのいい素材を提供してくれているということなのでしょう。
このたびはこれら「隠れた名曲」というか、本来華やかなシングルA面だったはずなのに、哀しいかな
ぞんざいな扱いを受けてなぜか日陰者っぽい印象の楽曲たちが、再び日の目を浴びる機会を得たようです。
あっちのベスト、こっちのオリジナルアルバムにと散逸していたシングルが、これだけの曲数を並べて
続けざまに聞けるのもこの企画ならではの楽しみですし、カーステレオのハードディスクにダビングして
ドライブのお供に聞くにもいいでしょう。「谷山浩子ってまだ歌ってるの!?」と驚かれた方々がまず手始めに
聞いてみるのにも手を出しやすいベスト盤かもしれませんね。