旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

今回の旅で読んだ三冊

2023-07-26 18:30:00 | 図書館はどこですか



先の北海道旅行・夏編で読んだ本は、「夜歩く/横溝正史著」「白と黒/横溝正史著」
「殺意の盲点/森村誠一著」の三冊でした。


夜~は横溝さんの代表作のひとつで映像化もされていて、金田一ものの有名作品ですね。
それでも、ストーリー自体は全く記憶になく、ただ、犯人役がちょっと特殊な設定と
なっているのでそれははっきりと覚えていて、なので、この作品を読み返すことは、
半永久にあり得ないだろうと以前は考えていました。

ところが近年、もっと有名作品で、犯人やトリックを鮮明に覚えているようなものでも、
まったく気にすることなく読み直せることに気がつきました。著者が、犯人役をいかに
容疑者圏内から遠ざけるかなど、苦心している様子を別の視点からじっくり読み解く
面白さなどがわかったのです。なので、夜~も新鮮味を失うことなく楽しめました。


白~は夜~の倍くらい分量のある大長編作です。こちらは、金田一耕助登場作としては
それほど有名作品ではないかもしれませんが、代表作のひとつに挙げていいでしょう。
犯人やトリック、ストーリーなど、ほぼ内容は忘れ去ってはいましたが、杉本一文氏が
描くエロチックな表紙絵と共に、タイトルでもある『白と黒』が印象強く頭に残って
いました。同性愛的嗜好が「異常」だとされ、それが事件の発端となりえた当時の
時代背景が、現代とはまるで違っているのが興味深いです。

「都会を舞台にした作品でいいものを残したい」との作者の熱意が、この膨大な
ページ数に表れていて、新興団地の人間関係を絡めながら起こる殺人事件といい、
意表を突く犯人設定といい、のちに森村誠一さんが何度も取り上げ挑んだ世界観と
相通ずるものが散見されるのが意外な発見でした。森村さんは、横溝さんの全盛期から
入れ違うように登場、作風が大きく違っていて、共通項はないと思っていたのです。


そして、狙ったわけでなく、次に用意していたのがその森村作品の殺意~でした。
短編にも満たない、掌編と言っていいショート作品が11も収められています。
ごく初期の作品集ということで、文章や筋書きなどがややぎこちないように
感じるのが、かえって初々しく思えます。都会、サラリーマン世界などの社会派
から山岳ものに至るまで、のちのち森村さんが好んで取り上げたテーマが早や出て
いるし、『団地戦争』なんてそのものずばりなタイトルもあれば、『増悪集中橋』も
新興団地が舞台で、偶然とはいえ、あまり接点がないと思っていた、横溝作品と
森村作品が交わった瞬間でした。

この文章を執筆中、森村さんがご逝去されたとのニュースを聞きました。ご冥福を
お祈り申し上げます。私は膨大な作品群のほんの一端しか読めてなくて、これから
折に触れて新旧作品に接することができればと思います。長い間お疲れさまでした。

コメント
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