旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

黄土館の殺人

2024-08-24 18:59:00 | 図書館はどこですか



今回図書館でお借りしたのが、「黄土館(こうどかん)の殺人/阿津川 辰海
(あつかわ たつみ)著」です。朝日新聞紙上で紹介されていたのを、早い
タイミングで予約できたためか、早期に手にすることができました。

地震により閉じこめられた空間(芸術一家の大きな館)で起こる連続殺人事件。
大仕掛けで繰り広げられる殺人手法など、スケール感たっぷりな大長編作品で、
とても面白く拝読しました。しかし、細々とした点がいくつか気になりました。

まず、内(館内)と外(館近郊の温泉旅館)で同時進行で物語が展開するさまが、
綾辻行人さんのとある作品を連想させます。この作品が阿津川さんの「館四重奏」
の三作目にあたるらしくて、「館」をテーマにしているところなど、明らかに
綾辻作品を意識しているのはいいとして、既視感を覚える展開にはやや興醒め
しました。ところで、物語の舞台となる大邸宅は荒土館(こうどかん)のはずが、
なぜタイトルのみ黄土館なのでしょうか? 過去作品が「紅蓮館=炎」「蒼海館
=水」と色付けされていたので、「黄土館=土」でそろえたのでしょうけど、文中
特に説明がなされておらず(私が読み飛ばしていなければ)、唐突なんですよね。
館名は、最初から黄土館で良かったのではないでしょうか?

さらに、館の大掛かりな仕掛けはスペクタクルであるものの、あんな大きなものが
動くとなると、振動とか音とか半端なくて、誰もがすぐにからくりに気がつくと
思うのです。犯人や一部の人しかその秘密を知らないというのは、ちょっと無理が
ないでしょうか?

しかも、細々したトリックまでは解読できなくとも、犯人らしき人物は、かなり
早い段階でうすうすわかってしまいました。かなりフェアに経緯などを説明して
くれている裏返しともいえるけど、さすがにこれではいくらなんでもミスリードに
引っかかりません。

シリーズ第三作で、この作品は第一作の「続編」的な位置づけでもあり、遡って
それを読んでみたいと考えている身には、ネタバレがないかヒヤヒヤしましたよ。
さすがに「犯人」の名前をズバッと記載される場面はなかったけど、修羅場を
乗り越え、誰が生き残ったのかはわかっちゃいますよね。でもそれは、シリーズ
ものを逆算して楽しもうとすると、避けては通れない宿命なのです。

大掛かりなエンターテイメントとしては面白く楽しめたし、力作であることは
確かで、細かなマイナス点(上記の理由のほか、登場人物の性格付け不足とか、
霧がいつまでも晴れない等の都合のいいやや強引な設定など)が足を引っ張った
のが惜しいです。でもやはりそこは乗り掛かった舟、シリーズ第一作を読んでみる
しかなさそうです。そちらが、いい意味で期待を裏切る完成度の高い作品だったら
と思います。


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