芥川龍之介の「父」という作品に出てくる、「割引の電車」について。※著作権がなくなっているので「青空文庫」サイトでも読めます。
秋田魁新報の高校入試対策連載「中学自習室」。2021年11月25日付の第186回・国語38回の問題文として、その前半が転載されていて、読んだ。
このコーナーの2016年辺りでは、漢字の読み書きにふざけた文がよくあった。その後、出題者もしくは方針が変わったのか、それはなくなって、魁の紙面(コラム「北斗星」や五木寛之「新・地図のない旅」の連載など)や著作権の切れた文学作品(芥川「トロツコ」)を掲載した上で、問題が続く形式が増えた。入試問題に近いとも言えるが、問題の分量は少ないと思う。「長文読解問題」としては難易度は低そう。まとまった文章を読ませることも狙っているのかもしれない。
「父」は、「自分が中学の四年生だった時の話」。
日光、足尾への修学旅行があって「午前六時三十分上野停車場前集合」で、自宅から「電車」で上野駅へ向かう。停車場でしばらく待っていると「そこへ割引の電車が来た。」。
「割引の電車」って?
よくあるように、本文中に※印を付けて、文末に難解な言葉の解説がある。中学4年が今の高校1年生に当たることなど。でも割引の電車の説明はない。分からなくても解答には支障はないが、気になる。
ネットで検索しても、誰も疑問に感じないのか、言及はなかった。
「父」は1916(大正5)年の作品。主要登場人物である「能勢五十雄」はモデルになった人物が実在したらしく、芥川自身の経験を綴ったものとする研究者がいるようで、だとすればその10年ほど前、明治末。
上野から今で言うJRで日光方面へ向かったのだろう。東武日光線は昭和に入ってから開通なので。なお、文中には「高架鉄道を汽車が通る」という描写がある。
「電車」とは、路面電車=都電、まだ東京市だったろうから市電か。東京市が運行するようになったのは1911年、それ以前は民営だったそうだ。
あと、芥川大先生に畏れ多くも申し訳ないが、上野駅のことを「上野停車場」、自宅近くの電車の乗り場のことも「停車場」としているのがまぎらわしい。※電車に乗る前に「停車場の赤い柱の前に立って、電車を待っている」とある。
当時の東京の人たちがどう呼んでいたかは知らないが、普通は路面電車の乗り場は停留所とか電停と呼ぶ。
今の、まして秋田の中学生は、こういうことは知らなくて当然。汽車と電車が両方出てくるし、停車場も2つありそうだし、と引っかかって悩んでしまわないだろうか。
で、割引の電車。学生専用電車とか修学旅行のために特発された電車のことかとも考えた。
しかし、車内では同級生1人だけ(それが能勢五十雄)と乗り合わせ、上野駅到着時点では「時刻が早いので、まだ級の連中は二三人しか集っていない」とあるので、そういうのでもなさそう。
「こみ合っている中を、やっと吊皮にぶらさがる」ともあるので、乗客は多いことになる。
「公益財団法人 交通協力会ホームページ(https://transport.or.jp/)」を見つけた。
その中に「鉄道辞典 上下巻・補遺版(デジタル復刻)(https://transport.or.jp/tetsudoujiten/)」があり、1958(昭和33)年に鉄道80周年を記念して刊行された鉄道関係用語の辞典を検索・閲覧できる。かなり貴重な資料かもしれない。
そしてその中に「わりびきでんしゃ 割引電車」があった!
「市内電車の中には朝早く乗車する旅客にかぎって、その運賃を割引する制度を採っているものがある。」それが適用されるのが割引電車。辞書の時点で東京都電など5事業者が採用。
「割引時間は始発電車から6時半または7時までの間に乗車した場合にかぎる」「普通往復旅客運賃の2割引程度(片道じゃないのはなぜ?)」「輸送力に十分の余裕のある時間帯に旅客を誘致して、つぎに来る朝の混雑時輸送を幾分でも緩和しようとする交通政策によるもの」
なるほど。辞書に載っているくらいだから、戦後でも鉄道業界や運行地域では、通用する言葉だったのだろう。【26日補足・辞典刊行当時は、秋田市電がまだ走っていたが、5事業者に含まれていないので、制度がなかったのだろう。】
今で言う「オフピーク」の優遇制度ことか。
今は、たいていは乗車券類を安く売って使える時間帯を制限する方式だったが、新型コロナ流行後はICカード乗車券へのポイント付与で実質割り引くものも出てきた。路線バスでは昔から昼間や休日を安くするものが多い(買物回数券など。秋田ではICカード導入で存亡の危機かも?!)が、コロナ流行で首都圏のJR東日本でも早朝などにポイントが付く。
一方、列車やバスの「便」を限定して、「これに乗ったら誰でも割り引き」というのは、あまり聞かない。イベントなどで、期間限定で値引くケースはあるけれど。専用のきっぷを作る必要なく、適用になるならないでモメたり混乱したりもなさそうで、簡単で分かりやすいかもしれない。
ただ、大都市を中心に運行される「深夜バス」では、誰でも、同区間の昼間の路線バスより運賃が高くなるので、割引電車と同じ手法と言える。
※「水曜どうでしょう」で言うところの深夜バスは、夜行バス(夜行高速バス)のことで違うし、間違い。本来の深夜バスは、一般路線バスの深夜に走る便を指す。
ということで解決。
それにしても、明治末~大正時代からオフピーク割り引きの概念があったのは、意外だった。そして、そのわりに混雑しているみたいだし。名称は分かりやすく「早朝割引電車」とかにしてくれれば良かったのに。
秋田魁新報の高校入試対策連載「中学自習室」。2021年11月25日付の第186回・国語38回の問題文として、その前半が転載されていて、読んだ。
このコーナーの2016年辺りでは、漢字の読み書きにふざけた文がよくあった。その後、出題者もしくは方針が変わったのか、それはなくなって、魁の紙面(コラム「北斗星」や五木寛之「新・地図のない旅」の連載など)や著作権の切れた文学作品(芥川「トロツコ」)を掲載した上で、問題が続く形式が増えた。入試問題に近いとも言えるが、問題の分量は少ないと思う。「長文読解問題」としては難易度は低そう。まとまった文章を読ませることも狙っているのかもしれない。
「父」は、「自分が中学の四年生だった時の話」。
日光、足尾への修学旅行があって「午前六時三十分上野停車場前集合」で、自宅から「電車」で上野駅へ向かう。停車場でしばらく待っていると「そこへ割引の電車が来た。」。
「割引の電車」って?
よくあるように、本文中に※印を付けて、文末に難解な言葉の解説がある。中学4年が今の高校1年生に当たることなど。でも割引の電車の説明はない。分からなくても解答には支障はないが、気になる。
ネットで検索しても、誰も疑問に感じないのか、言及はなかった。
「父」は1916(大正5)年の作品。主要登場人物である「能勢五十雄」はモデルになった人物が実在したらしく、芥川自身の経験を綴ったものとする研究者がいるようで、だとすればその10年ほど前、明治末。
上野から今で言うJRで日光方面へ向かったのだろう。東武日光線は昭和に入ってから開通なので。なお、文中には「高架鉄道を汽車が通る」という描写がある。
「電車」とは、路面電車=都電、まだ東京市だったろうから市電か。東京市が運行するようになったのは1911年、それ以前は民営だったそうだ。
あと、芥川大先生に畏れ多くも申し訳ないが、上野駅のことを「上野停車場」、自宅近くの電車の乗り場のことも「停車場」としているのがまぎらわしい。※電車に乗る前に「停車場の赤い柱の前に立って、電車を待っている」とある。
当時の東京の人たちがどう呼んでいたかは知らないが、普通は路面電車の乗り場は停留所とか電停と呼ぶ。
今の、まして秋田の中学生は、こういうことは知らなくて当然。汽車と電車が両方出てくるし、停車場も2つありそうだし、と引っかかって悩んでしまわないだろうか。
で、割引の電車。学生専用電車とか修学旅行のために特発された電車のことかとも考えた。
しかし、車内では同級生1人だけ(それが能勢五十雄)と乗り合わせ、上野駅到着時点では「時刻が早いので、まだ級の連中は二三人しか集っていない」とあるので、そういうのでもなさそう。
「こみ合っている中を、やっと吊皮にぶらさがる」ともあるので、乗客は多いことになる。
「公益財団法人 交通協力会ホームページ(https://transport.or.jp/)」を見つけた。
その中に「鉄道辞典 上下巻・補遺版(デジタル復刻)(https://transport.or.jp/tetsudoujiten/)」があり、1958(昭和33)年に鉄道80周年を記念して刊行された鉄道関係用語の辞典を検索・閲覧できる。かなり貴重な資料かもしれない。
そしてその中に「わりびきでんしゃ 割引電車」があった!
「市内電車の中には朝早く乗車する旅客にかぎって、その運賃を割引する制度を採っているものがある。」それが適用されるのが割引電車。辞書の時点で東京都電など5事業者が採用。
「割引時間は始発電車から6時半または7時までの間に乗車した場合にかぎる」「普通往復旅客運賃の2割引程度(片道じゃないのはなぜ?)」「輸送力に十分の余裕のある時間帯に旅客を誘致して、つぎに来る朝の混雑時輸送を幾分でも緩和しようとする交通政策によるもの」
なるほど。辞書に載っているくらいだから、戦後でも鉄道業界や運行地域では、通用する言葉だったのだろう。【26日補足・辞典刊行当時は、秋田市電がまだ走っていたが、5事業者に含まれていないので、制度がなかったのだろう。】
今で言う「オフピーク」の優遇制度ことか。
今は、たいていは乗車券類を安く売って使える時間帯を制限する方式だったが、新型コロナ流行後はICカード乗車券へのポイント付与で実質割り引くものも出てきた。路線バスでは昔から昼間や休日を安くするものが多い(買物回数券など。秋田ではICカード導入で存亡の危機かも?!)が、コロナ流行で首都圏のJR東日本でも早朝などにポイントが付く。
一方、列車やバスの「便」を限定して、「これに乗ったら誰でも割り引き」というのは、あまり聞かない。イベントなどで、期間限定で値引くケースはあるけれど。専用のきっぷを作る必要なく、適用になるならないでモメたり混乱したりもなさそうで、簡単で分かりやすいかもしれない。
ただ、大都市を中心に運行される「深夜バス」では、誰でも、同区間の昼間の路線バスより運賃が高くなるので、割引電車と同じ手法と言える。
※「水曜どうでしょう」で言うところの深夜バスは、夜行バス(夜行高速バス)のことで違うし、間違い。本来の深夜バスは、一般路線バスの深夜に走る便を指す。
ということで解決。
それにしても、明治末~大正時代からオフピーク割り引きの概念があったのは、意外だった。そして、そのわりに混雑しているみたいだし。名称は分かりやすく「早朝割引電車」とかにしてくれれば良かったのに。
著作権といえばクラシックコンサート。
作曲家の著作権が切れていると良いのですが未だ死後50年経っていないと著作権が切れておらず演奏すると結構お高い著作料を遺族に払わないといけなかったり。
有名どころではショスタコービッチやアラン・ペッテションなど。
(7月に東京都交響楽団がアラン・ペッテション交響曲第七番を演奏したと聞いて驚きました)
著作権が切れていないショスタコービッチが結構演奏されるのは凄いことなのです。
来年のミルハスのこけらおとしに新日本フィルが来ると聞いて胸が高まりますがやはりショスタコービッチは無理なのでしょうね。
好き嫌いも大きいですし。
此処はやはり聞かず嫌いの多いブルックナーの交響曲第8番か4番を期待。
生で聞くときっと虜になるかと。
2018年(?)のTPP発効により、その時点で没後50年経過していない人は70年に延長されています。三島由紀夫は11月25日で没後51年ですが、あと約20年伸びているわけです。
クラシックの作曲家は数百年前というイメージですが、まだ著作権有効で、かつそんな偉大な人もいるんですね。
何事もカネ次第、どのくらいかは知りませんが、ミルハスでは…