ただ、それに関連した調査や報道について、疑問に感じることがある。専門家ではないので、誤解しているのかもしれません。間違いがあればご指摘ください。
全国版の多くのマスコミが、「NTTドコモが、携帯電話の位置情報を元に各地の人出を算出したデータ」うんぬんとして、流行以前や緊急事態宣言前、もしくは前週と比べて、どのくらい街へ繰り出す人が減ったかというのを、主に週末~週明けによく報道している。
26日・日曜日15時の各地の状況は、(流行前である)1月中旬~2月中旬の休日の平均と比較して、
東京新宿で-81.9%、大阪梅田で-87.8%、
広島駅で-48.9%、秋田駅で-44.9%、青森駅で-30.4%、福島駅周辺で-20.2%。
などと報道された。
報道を見た印象としては、場所によってばらつきが大きい。特に特定警戒都道府県以外。
全国版報道では、政令指定都市レベルやブロックの拠点都市で比較することが多く、上記では「広島駅では48.9%の減少に留まりました」と言われることが複数あった。あとは「松山駅」なども。
報道を素直に受け取れば、広島や松山では外出自粛が進んでおらず、広島や松山の人たちは「コロナウイルス対策への意識が低い」とか「外出自粛に非協力的だ」と思ってしまうかもしれない。果たしてそうだろうか?
「松山駅」と聞いて思い出した。15年以上前、松山市を訪れた時のことを。
JR松山駅の周辺は、こじんまりとした殺風景気味な雰囲気で、県庁所在地かつ四国最大の50万都市の玄関にしては小さく感じた。
ところが、少し離れた所(歩けるが路面電車が便利)に、私鉄の伊予鉄道「松山市駅」があり、そこは地方都市としてはなかなかにぎやかな“繁華街”で、「『JRの駅=街いちばんの繁華街』ではない」街なのだと納得した。
広島や熊本も似たような造りの街だった。
となると、「松山駅」あるいは「広島駅」の周辺に、遊びに繰り出すような人はあまり多くないと考えられる。JRを利用する人は集まるにしても、乗り降するだけですぐいなくなる人も多いだろう。よく報道されるのは休日だから、周辺に勤務する人のことはあまり考慮していないと思われる。
ドコモ発表として報道される人出計測地点は、新宿とか梅田があるのだから、同様に各地の「繁華街」だととらえられるだろう。
ところが、広島市や松山市での計測地点であるJR駅周辺は、必ずしもそうとは言えない場所なのではないだろうか。
例えば松山市駅で測定すれば、また違った減少率(つまりもっと減る)になる可能性は低くないと思う【後述】。
この数値は、NTTドコモのホームページでも「緊急事態宣言前後における全国主要都市の人口変動分析」として公表されており、報道より多少詳しい。
ただし、データは毎日更新されるようで、更新されるとそれ以前のデータは見られなくなるようだ。
公式サイト(一部は報道より)で分かったこと。
・「モバイル空間統計」という技術を使っている。
・携帯機器の基地局を使って、500メートル四方の推計人口を算出。計測範囲内に居住している人数も含む。
・ドコモ利用者以外も含む人口を推計。
報道では「人出」や「人の流れ」という言い回しで伝えること多く、それではあたかも「よそからその場所に『やって来る』人数」の調査のように受け取れるが、正しくは「その場所に『いる』人数」を数えているのだった。※この点については、ドコモの発表では注釈がされており、マスコミが言い換えてしまっている形。この記事のタイトルはあえて「人出分析」としました。
新宿みたいな住人を大幅に上回る来訪者がいる(いた)土地ならともかく、地方都市では駅周辺にまとまった住宅やマンションがあることも珍しくない。しかも商店街は衰退して自粛以前から人が少ない街も珍しくない。
だから、ドコモ発表のパーセンテージの元となる数値には、「計測範囲内の自宅にいて外出自粛している人数」が計上されているはず。そして、来街者が減っても、その範囲内の自宅にいる人数が増えて、減少数(減少率)が相殺されているようなケースもあり得るのではないか。
そんな数値をもって「人出が減った/増えた」と論じるのは、適切なのだろうか。
国が「人の接触を8割減らせ」と言っているが、この数値を使って「8割減」がどうこうは関係がないことになる。【5月10日追記】それなのに、日本テレビなどでは、この数値を示した後「8割削減には届いていません」と伝えている。こじつけでしかない。
それに、調査地点によって来街者と在住者の比率が異なるのだから、A地点とB地点で同じ数値だったとしても、比較はできない。
そんなわけで、他と比べずに1つの地点において、以前からどのくらい増減したかを見ることにしか使えない数値なのではないだろうか。
ドコモのサイトでは、全国各地の計測範囲(500メートル四方の枠)を地図に示している。【5月1日補足・「分析対象エリア」と呼称。】
それを見ると、どうしてその範囲を選んだのか、疑問な土地も多い。枠の決め方には、基地局の配置など技術的制約はあるのは分かるが、その枠じゃなく、隣の枠のほうがいいのでは…と思えるような。
秋田駅。赤い枠内で計測
「秋田駅」とされるエリアは、東西方向が市民市場前の通り~東口アルヴェの半分。南北方向が仲小路・ぽぽろーど~南大通りのやや北まで。
「人出」につながる商業施設としては、フォンテAKITAは含むものの、北側にある西武、トピコ・アルス、オーパなどは範囲外。
JR東日本秋田支社(列車運行の指令部門や乗務員の待機場所も含む)や4月に移転して来た秋田放送で勤務する人たちは、カウントされていることになる。どちらも業種的に、このご時世でも土日も勤務している人は少なくないだろう。(ABSが移転して、その社員分は、確実に増えたのでは?)
15時の時点だから、市民市場の買い物客や、東横イン、アルファーワンの宿泊客はあまりいないだろう。
【29日追記】調査枠の北辺が駅東西自由通路ぽぽろーどと重なっている。ぽぽろーどを歩く人は、北(トピコ)寄りを歩けばカウントされないかもしれない。南側にあるスタバ(現在はテイクアウトのみ営業)や待合室は枠内。また、枠の南東にあるちょっと広めの児童公園・通称「こまち公園」こと拠点第一街区公園で遊ぶ人たちもカウントされる。
秋田以外も見ると、土地によって、駅がすっぽり含まれる所、一部しか含まれない所、駅近くだが駅自体はまったくかからない所とまちまち。地方では「駅裏」に当たる人が少なそうな場所も含まれる地点もある。オフィスやスーパーマーケットの有無、列車や道路の通過量(通過する乗り物の人員もカウントされるだろう)なども、人数に影響を与えそう。
これでは、鉄道に乗ろうと駅で待っている人、駅周辺で買い物する人、オフィスビルで仕事する人などが、含まれたり含まれなかったりまちまちになる。ほんとうに地点どうしで比較をしたいのなら、枠の面積を同じにするだけでは、不充分だ。
この点からも、地点どうしで多い少ないと比較するのは不公平になる。
【30日追記】秋田駅の場合、報道される写真や映像、また自分で訪れてみても、人の姿は40%減どころではない減り方に感じる。市街地衰退でもともと人出が少ないこともあるだろうが、在宅とビル内で勤務する人数が相当含まれた上での40%減なのではないかと思わずにはいられない。
他県をざっと見る。
減少率が極端に少なかった福島市は「福島駅周辺」という名称。
JR福島駅の南東、あづま陸橋付近。特に商業施設もなさそうで、お寺や小学校が含まれている。そんな場所では、減りようがないのでは?
と記事を準備していたら、どうも4月28日からは、1ブロック北西の「福島駅」という枠に代わっていた。告知はなく、ひっそりと調査地点を変える場合があるらしい。これにより、今後の数値が変わりそう。
鳥取市は「晩稲」という地点。ここも減少率は少なめ。
鳥取駅からけっこう北、中心市街地ではない場所で、工場とイオンモール(鳥取駅裏にも旧ジャスコのイオンがあるが、それとは別)が含まれる。イオンの専門店は休業のはずだけど、やはり買い物には来ないといけない。
鳥取だけどうして駅周辺でも中心市街地でもない場所なのか。だったら秋田などよそでも、イオンモール周辺ででも計測すればいいのでは?
冒頭で「広島駅」が日曜に-48.9%だった広島市。
実は、ほかにもう1地点「紙屋町」でも計測している。原爆ドーム近くの繁華街かつオフィス街といったところだろうか。
駅で-48.9%だった、同じ日曜の紙屋町は-74.5%。ほら、かなり減少幅が大きく、駅との差がかなりある。
こんな状態で「広島駅では48.9%の減少に留まりました」と、紙屋町に触れずに報道してしまうのは、乱暴でミスリードしていることになる。正しくすべてを伝えていることにはならない。
松山は「松山駅」だけの発表だった。しかし、ここも28日から「松山市駅東側」地点が追加されていた。
28日火曜15時の感染拡大以前との比較値
平日だが28日の両地点の数値を見ると、案の定差が大きい。
松山駅は-20.5%とあまり減っていない時、松山市駅は-38.8%と地方都市としては平均レベル。松山駅の数値では不適切という声が出て、追加したのだろうか?
高知、熊本、鹿児島では、駅周辺ではなく繁華街の「はりまや橋」「通町筋」「天文館」で計測している。これらはどうして駅を選ばなかったのか。
長くなりましたが、以上、
・ドコモによる計測箇所の選定基準が統一されておらず、地点どうしを比較するのには向かない。
・マスコミが表面的にしか伝えていない。この数値がマイナス80になるべきだと思わせる伝え方だが、そういう数値ではないのに。【29日追記】それ以前に、元データが「人口」と明記して発表されているのに、報道時に「人出」と間違った言い換えをしているのも問題。過剰な親切心なのか、単なる無知なのか。
・そうしたデータや報道では「地域で自粛の取り組みに差が出ている」ということを、必要以上に強調して伝えてしまっているように感じる。取り組みに地域差が出ていることは事実だと思うが、数値をひとり歩きさせミスリードさせているように見えてしまう。
という問題があると思う。
とにかく、今は外出は必要最低限にしたほうがいい。
他との比較、あるいは数字で一喜一憂せず、自分ができることをやるのがいちばんでしょう。
あと、コロナウイルスとは関係ないけれど、情報を見る時は、元のデータに当たったり、測定方法や根拠を知ったりした上で、少し考えてみるということが大事。
NTTドコモという、元国有企業(公社)であり大企業であるが民間企業の1つに過ぎないところの発表を、寄ってたかって同じように伝えるのはいかがなものか(ということを、そのグループ会社のgooブログで言っちゃってます)。なども考えてしまう一件。
【5月1日追記】土地勘がないことと、全国版ではほぼ報道されない都市のため本文では触れなかったが、滋賀県(大津駅?)と宮崎県(宮崎駅?)の減少率も少なかった。
しかし、公式サイトの4月30日の数値では、その2県も計測地点が(告知なしに)変更されていた。変更後は「滋賀県 草津駅西口」と「宮崎県 新別府町」。
滋賀では県庁所在地が調査地点から外れ、宮崎では鳥取と同じような中心市街地ではないイオンモール宮崎になった。
大津については、地元選出の国会議員が問題提起して、内閣官房だかに伝えたそうで、その結果なのだろう。ということは、ドコモはろくに考えず(現地の特性を把握せずに)に測定地を選び、国から言われればはいそうですかと素直に変更したということになるのだろう。
【5月10日追記】その後連休中以降は、新聞もテレビも、さほどドコモの数値は使わなくなったような感じ。大都市圏だけドコモのデータを示し、あとはソフトバンク系「アグープ」による観光地のデータを示すなどしている。
NHKでは広島駅でなく紙屋町のドコモのデータを示した(実はNHKに意見を送ったのだが、検討するとの返事を頂戴した)。上記の通り、日テレは5月10日でも接触8割減とこじつけて伝えている。