蓄音機のラッパに向かっておすわりして首をかしげる犬のロゴマークの、「Victor」「ビクター」というブランドはどの程度認知されているだろうか。
このマーク
犬と蓄音機の下には「“HIS MASTER'S VOICE”」と書いている。元々は同名の絵画で、亡くなった飼い主の声の録音を聞いた時の状況を描いたもの(引き取った新たな飼い主は、元の飼い主の弟であり絵の作者。兄弟とも画家だった)。
犬の名は「ニッパー(Nipper)」で、テリア系の雑種だそうで、雌雄は明確には分からないが「His Master's Voice」だからオスなんだろう。日本では、知っている人は「ニッパーくん」と呼ぶことが多い。
ビクターは、元はアメリカの企業で、戦前から日本で展開しているが、事業内容や提携先がさまざまで、時代や世代によって、印象は違うかもしれない。
今なら、レコードレーベル・音楽ソフトブランドである「ビクターエンタテインメント」がよく知られているのかもしれない。
あと、恥ずかしながらつい先日まで知らなかったのだけど、レコード販売店「HMV」も関係があり、「His Master's Voice」の頭文字だったのか!(ただし、現在はビクターとの関係は薄いようで、ニッパーは使っていない。)
しかし、20世紀末もしくは昭和でビクターといえば、音響機器(AV機器)メーカー「日本ビクター」ではなかっただろうか。
最近、ニッパーくんの置き物が、例えば飲食店とか一般家庭とか、ビクターと関係ない所に飾られているのをたまに見かける。今は(小さいのとか)単品で販売されている【各種販売されている。末尾の追記参照】のかもしれないが、元は日本ビクターが、小売店(街の電気屋さんの一部でも扱い店があった)の装飾用に配布していたものだと思う。【11月4日追記・コメントで教えていただいたように、ステレオなど商品購入者におまけとして配っていたこともあったとのこと。】
日本ビクターは、昭和の初めに設立され、日産や東芝系列だったこともあるそうだが、戦後は永く松下電器産業(現・Panasonic)グループ。
高柳健次郎らがテレビの開発に力を入れ、さらに世界標準となったビデオテープの規格「VHS」を開発した(これは松下の力添えもあったかな)。
海外輸出時に「Victor」ブランドは使えなかったようで、そのために「Japan Victor Company」の略である「JVC」ブランドも併用(もっと昔は「NIVICO」も使っていたらしい)。国内向けでも広告ではVictorとJVCを併記していた。
個人的には、ビクターが松下系列というイメージはあまりなかった。小さい頃は、ビクターというブランド名すら知らなかった。
1980年代後半、家電量販店のチラシでビクターのラジカセ(外国工場製の安いダブルラジカセなど)を見かけるようになり、さらに小学校の体育館の放送機器がビクター製に更新された(マイクスタンドにも、ちゃんとニッパーくんがいた)ことで、認知したと思う。
小学校のウエストミンスターチャイムも、古い(1960年代製かも)ビクター製だった。棒を叩いて演奏するアコースティックなもので、文字のロゴが違って全部大文字の「VICTOR」だった。【31日補足・チャイムは、接続された時計からの指令により演奏し、接続されたアンプに出力して校内放送される仕組み。昭和末には電子音のものが登場し、現在はリアルな音色のデジタルシンセサイザー方式が多いが、当時の母校のものはお寺の鐘で演奏しているようなひときわ重厚な音色だったと記憶している。】
「victory」の英単語の綴りも、ビクターのおかげで覚えた。
やがて、VHSのビデオテープ、そしてビデオデッキも安くなってビクターが身近になった。VHS-Cの家庭用ビデオカメラも、シェアは高かったと思う。
1996年頃にたしか1万5千円で購入したVHSデッキの箱。左上にロゴ。「ビデオはビクター」が自信の現れ
ビクターはテレビ受像機も作っていた。
1990年代初めの中学校の社会科・公民分野の授業で、独占と寡占を習った時、先生が寡占の例としてテレビを挙げ、クラスの生徒の自宅のテレビのメーカーがどこか、手を挙げさせた。ナショナル/パナソニック(当時は過渡期)、東芝、シャープ、三菱、日立、サンヨー、ソニーなどと先生が示すのに応じて手が挙がったと思うが、手を挙げられない生徒が1人がいた。
それがビクター製で、先生は「おおっ。ビクターな…」と微妙な反応をされていた。
1990年代中頃になると、家電量販店で21インチのステレオテレビが3万円ほどで売られるようになる【2日補足・国内著名メーカーの海外工場製が多かったはずで、お得感が大きかった】。チラシに載るのはサンヨーと三菱が多かったが、たまにビクターのものもあったはず。
2000年代に入ると、家電業界全体の衰退もあるのだろうが、経営が悪化。テレビ受像機は2008年で撤退。【末尾リンク先の製品一例も参照】
ケンウッドとの提携が進み、2011年に「JVCケンウッド」が発足し、日本ビクターは消えてしまっていた。ニッパーくんも使われなくなった。
さて、秋田市八橋、秋田テレビの近所にある建物。
今年1月
企業名の表記は見当たらないのでよく分からないが、かつての日本ビクターを思わせる「ニッパー・Victor・JVC」が、建物の壁面にいまだに残っていた。冒頭のロゴマークもここのをズーム。
VictorとJVCの間は「・」
調べると、セキュリティシステム、音響・映像システムなどを扱う「株式会社JVCケンウッド・公共産業システム」という企業の「秋田営業所」と「北日本エンジニアリング部 秋田グループ」だった。営業部門と修理部門のようだ。
修理部門の所在地は「TMビル1F」となっている。そういう名前の建物なんだろうけれど、出入り口が1つだし、おそらく2階も使っていそうだけど。
ちなみに、この辺にはメーカーの営業所がちらほらある。お隣はノーリツだし、少し離れた所にクラリオン、昔はオリンパス(医療分野)もあった。
ケンウッドから引き継いだものもあるのだろうが、内容は多岐にわたり、それこそ学校の放送機器などもここが扱っていそう。
昔のビデオデッキなどを持っていっても、直してはくれないだろう(そもそも部品保有期限は過ぎている)。
本当なら、ニッパーロゴとビクターの名を消し、ケンウッドの名を加えないといけないはずなのに、8年経ってもそのままということになる。
Googleストリートビューで、近県の同社の営業所をざっと見てみた。
すると、JVCケンウッドの看板が出ているところもあれば、「KENWOOD」と「ニッパー・Victor・JVC」を並べているところもあった。大急ぎで変更しているわけでもないが、当然、いずれは変わることになると予想した。
秋田では、おそらく今年の初夏くらいまでは、変わらず。久しぶりに10月に通ると、
なくなっている
なんか外壁の色合いが変わったような気もするが、「ニッパー・Victor・JVC」はきれいになくなっていた。
代わりのロゴも看板も一切なく、引っ越したかと思いそうだが、営業はしているみたいだし、前に駐まっている車が以前と同じようなので、移転はしていない(ホームページも変わっていないし)。
業務用機器だから、持ちこんで修理に来る人とか来客はいないのだろうけど、いくらなんでも看板くらいあったほうがいいのではないでしょうか。
秋田のニッパーくんは、建物2階上の中央に、立体的にどっしりと構え、なかなか立派だった(他の営業所では、平屋に平面的な看板を掲げたものが多そう)。いなくなってしまったのが惜しい。【31日追記】そして、「日本ビクター」が消えてしまったのも惜しい。
【11月2日追記】
JVCケンウッドやビクターエンタテインメントの公式オンラインストアで、ニッパーくんの置き物、ぬいぐるみなどのグッズを売っていた。あれも公式商品だったのか。【11月4日補足・ただし、多くは蓄音機なしのニッパーだけの商品で、本来とは印象が違ってしまう。ただの犬の像だ。】
また、JVCケンウッドのヘッドホンなどの上位機種では、今もビクターブランドでニッパーロゴ入りで製造販売されていた。ニッパーとVictorロゴが完全に消滅したわけではなかった。昔のような高級感が戻ったような感じだろうか。
それから、ほとんどのメーカーのテレビや録画機器のリモコン信号をプリセットしてある、共通リモコン(汎用リモコン)を単独商品として発売したのは、日本ビクターが早かったと思う。1990年代中頃かそれ以前。今もJVCブランドで発売。
※日本ビクター製品の一例。
このマーク
犬と蓄音機の下には「“HIS MASTER'S VOICE”」と書いている。元々は同名の絵画で、亡くなった飼い主の声の録音を聞いた時の状況を描いたもの(引き取った新たな飼い主は、元の飼い主の弟であり絵の作者。兄弟とも画家だった)。
犬の名は「ニッパー(Nipper)」で、テリア系の雑種だそうで、雌雄は明確には分からないが「His Master's Voice」だからオスなんだろう。日本では、知っている人は「ニッパーくん」と呼ぶことが多い。
ビクターは、元はアメリカの企業で、戦前から日本で展開しているが、事業内容や提携先がさまざまで、時代や世代によって、印象は違うかもしれない。
今なら、レコードレーベル・音楽ソフトブランドである「ビクターエンタテインメント」がよく知られているのかもしれない。
あと、恥ずかしながらつい先日まで知らなかったのだけど、レコード販売店「HMV」も関係があり、「His Master's Voice」の頭文字だったのか!(ただし、現在はビクターとの関係は薄いようで、ニッパーは使っていない。)
しかし、20世紀末もしくは昭和でビクターといえば、音響機器(AV機器)メーカー「日本ビクター」ではなかっただろうか。
最近、ニッパーくんの置き物が、例えば飲食店とか一般家庭とか、ビクターと関係ない所に飾られているのをたまに見かける。今は(小さいのとか)単品で販売されている【各種販売されている。末尾の追記参照】のかもしれないが、元は日本ビクターが、小売店(街の電気屋さんの一部でも扱い店があった)の装飾用に配布していたものだと思う。【11月4日追記・コメントで教えていただいたように、ステレオなど商品購入者におまけとして配っていたこともあったとのこと。】
日本ビクターは、昭和の初めに設立され、日産や東芝系列だったこともあるそうだが、戦後は永く松下電器産業(現・Panasonic)グループ。
高柳健次郎らがテレビの開発に力を入れ、さらに世界標準となったビデオテープの規格「VHS」を開発した(これは松下の力添えもあったかな)。
海外輸出時に「Victor」ブランドは使えなかったようで、そのために「Japan Victor Company」の略である「JVC」ブランドも併用(もっと昔は「NIVICO」も使っていたらしい)。国内向けでも広告ではVictorとJVCを併記していた。
個人的には、ビクターが松下系列というイメージはあまりなかった。小さい頃は、ビクターというブランド名すら知らなかった。
1980年代後半、家電量販店のチラシでビクターのラジカセ(外国工場製の安いダブルラジカセなど)を見かけるようになり、さらに小学校の体育館の放送機器がビクター製に更新された(マイクスタンドにも、ちゃんとニッパーくんがいた)ことで、認知したと思う。
小学校のウエストミンスターチャイムも、古い(1960年代製かも)ビクター製だった。棒を叩いて演奏するアコースティックなもので、文字のロゴが違って全部大文字の「VICTOR」だった。【31日補足・チャイムは、接続された時計からの指令により演奏し、接続されたアンプに出力して校内放送される仕組み。昭和末には電子音のものが登場し、現在はリアルな音色のデジタルシンセサイザー方式が多いが、当時の母校のものはお寺の鐘で演奏しているようなひときわ重厚な音色だったと記憶している。】
「victory」の英単語の綴りも、ビクターのおかげで覚えた。
やがて、VHSのビデオテープ、そしてビデオデッキも安くなってビクターが身近になった。VHS-Cの家庭用ビデオカメラも、シェアは高かったと思う。
1996年頃にたしか1万5千円で購入したVHSデッキの箱。左上にロゴ。「ビデオはビクター」が自信の現れ
ビクターはテレビ受像機も作っていた。
1990年代初めの中学校の社会科・公民分野の授業で、独占と寡占を習った時、先生が寡占の例としてテレビを挙げ、クラスの生徒の自宅のテレビのメーカーがどこか、手を挙げさせた。ナショナル/パナソニック(当時は過渡期)、東芝、シャープ、三菱、日立、サンヨー、ソニーなどと先生が示すのに応じて手が挙がったと思うが、手を挙げられない生徒が1人がいた。
それがビクター製で、先生は「おおっ。ビクターな…」と微妙な反応をされていた。
1990年代中頃になると、家電量販店で21インチのステレオテレビが3万円ほどで売られるようになる【2日補足・国内著名メーカーの海外工場製が多かったはずで、お得感が大きかった】。チラシに載るのはサンヨーと三菱が多かったが、たまにビクターのものもあったはず。
2000年代に入ると、家電業界全体の衰退もあるのだろうが、経営が悪化。テレビ受像機は2008年で撤退。【末尾リンク先の製品一例も参照】
ケンウッドとの提携が進み、2011年に「JVCケンウッド」が発足し、日本ビクターは消えてしまっていた。ニッパーくんも使われなくなった。
さて、秋田市八橋、秋田テレビの近所にある建物。
今年1月
企業名の表記は見当たらないのでよく分からないが、かつての日本ビクターを思わせる「ニッパー・Victor・JVC」が、建物の壁面にいまだに残っていた。冒頭のロゴマークもここのをズーム。
VictorとJVCの間は「・」
調べると、セキュリティシステム、音響・映像システムなどを扱う「株式会社JVCケンウッド・公共産業システム」という企業の「秋田営業所」と「北日本エンジニアリング部 秋田グループ」だった。営業部門と修理部門のようだ。
修理部門の所在地は「TMビル1F」となっている。そういう名前の建物なんだろうけれど、出入り口が1つだし、おそらく2階も使っていそうだけど。
ちなみに、この辺にはメーカーの営業所がちらほらある。お隣はノーリツだし、少し離れた所にクラリオン、昔はオリンパス(医療分野)もあった。
ケンウッドから引き継いだものもあるのだろうが、内容は多岐にわたり、それこそ学校の放送機器などもここが扱っていそう。
昔のビデオデッキなどを持っていっても、直してはくれないだろう(そもそも部品保有期限は過ぎている)。
本当なら、ニッパーロゴとビクターの名を消し、ケンウッドの名を加えないといけないはずなのに、8年経ってもそのままということになる。
Googleストリートビューで、近県の同社の営業所をざっと見てみた。
すると、JVCケンウッドの看板が出ているところもあれば、「KENWOOD」と「ニッパー・Victor・JVC」を並べているところもあった。大急ぎで変更しているわけでもないが、当然、いずれは変わることになると予想した。
秋田では、おそらく今年の初夏くらいまでは、変わらず。久しぶりに10月に通ると、
なくなっている
なんか外壁の色合いが変わったような気もするが、「ニッパー・Victor・JVC」はきれいになくなっていた。
代わりのロゴも看板も一切なく、引っ越したかと思いそうだが、営業はしているみたいだし、前に駐まっている車が以前と同じようなので、移転はしていない(ホームページも変わっていないし)。
業務用機器だから、持ちこんで修理に来る人とか来客はいないのだろうけど、いくらなんでも看板くらいあったほうがいいのではないでしょうか。
秋田のニッパーくんは、建物2階上の中央に、立体的にどっしりと構え、なかなか立派だった(他の営業所では、平屋に平面的な看板を掲げたものが多そう)。いなくなってしまったのが惜しい。【31日追記】そして、「日本ビクター」が消えてしまったのも惜しい。
【11月2日追記】
JVCケンウッドやビクターエンタテインメントの公式オンラインストアで、ニッパーくんの置き物、ぬいぐるみなどのグッズを売っていた。あれも公式商品だったのか。【11月4日補足・ただし、多くは蓄音機なしのニッパーだけの商品で、本来とは印象が違ってしまう。ただの犬の像だ。】
また、JVCケンウッドのヘッドホンなどの上位機種では、今もビクターブランドでニッパーロゴ入りで製造販売されていた。ニッパーとVictorロゴが完全に消滅したわけではなかった。昔のような高級感が戻ったような感じだろうか。
それから、ほとんどのメーカーのテレビや録画機器のリモコン信号をプリセットしてある、共通リモコン(汎用リモコン)を単独商品として発売したのは、日本ビクターが早かったと思う。1990年代中頃かそれ以前。今もJVCブランドで発売。
※日本ビクター製品の一例。