江戸時代半ばの画家、伊藤若冲(1716-1800)が晩年に描いた屏風の大作が、北陸地方の旧家から見つかったことが20日分かった。象と鯨という巨大動物を対比させる奇想の画面で、専門家は晩年の傑作と高く評価している。
屏風は六曲一双(各縦159.4cm、横354cm)。波打ち際を隔てる形で、右隻(うせき)に鼻を空に向けて水辺にうずくまる白い象が座り、左隻には潮を吹き上げながら水中に潜ろうとする黒い鯨が水墨で描かれている。
北陸地方の旧家の納戸にしまわれていたのを今年8月、訪れた美術関係者が発見。石川県の美術関係者を通じて、「MIHO MUSEUM」(滋賀県甲賀市)の辻惟雄(のぶお)館長・東大名誉教授に鑑定の依頼があった。波の表現や署名、印などから80歳頃の若冲作と鑑定した。
▽波頭の独特な描写 ▽スケールの大きさ ▽ゾウを描いた他作品との酷似-などから真作と判断した。
確認された屏風からは若冲の号などを示す「米斗翁八十二歳画」の落款や「若冲居士」の印が読み取れる。箱書きはない。
図柄が似た屏風はの売り立て目録に掲載後に行方不明となった幻の作品がある。象の描写はともに、前足を腹の下に折り曲げて、長い牙と鼻を上に向け、耳は同心円(内側の円はくぼみであろうか)で大きく描いている。背景の部分が、今回の作品は渦巻く波の迫力が増し、象の尾やボタンの花が加わった点などが異なる。
辻館長は「前作の評判が良かったことからもう一枚描いたのでは」と話す
保存状態は比較的良好だが一部修復が必要で、公開は早くても2009年秋以降になる見通し。
[参考:共同通信、京都新聞、時事通信社]
伊藤若冲のびょうぶを発見 鯨と象を描いた晩年の傑作(共同通信) - goo ニュース
若冲の「最も奇抜な」作品発見=波打ち際で白象と黒鯨が対峙-北陸の旧家所蔵(時事通信) - goo ニュース
コメント:
若冲は象を見ていた。
若冲は、今回の発見で象の絵を5枚書いていたことになる。
①樹花鳥獣図屏風
②鳥獣花木図屏風
③白象群獣図
④象鯨図屏風1
⑤象鯨図屏風2
升目描手法を用いたものは①②③、象が立っているものは①②、座っているものは③④⑤、
耳は①②はやや大きいが、③④⑤は顔より大きく描かれている。
5点に共通しているのは牙が非常に長く白い象であることである。
「江戸名所図会」中野・宝仙寺の箇所で、江戸時代に2匹の象が貢献されてやって来たと書かれる。
将軍・吉宗の時代に、長崎から陸路で京都に至り天覧の後、江戸へ到着したのは長崎から出発して73日後であったという。そこで、脳裏をよぎったのは、伊藤若冲がこの象を見たか否か。
若冲は、1716年3月に京都・錦小路の青物問屋の跡取り息子として生まれ。先ほどの象は、1729年4月に大阪から京都・伏見に着いたとされるから、若冲が13歳の時にこの象を見た可能性が高いと推察する。少年の時に見たそのイメージが後年になって、これらの図に反映されたと考えると興味深いものがある。
写真は、おそらく若冲が少年時代に見たであろうと考える享保の象が、最後に飼われていた場所に掲げられる説明版「象小屋(象厩)の跡」。
参考:
前出:襖絵「鹿苑寺大書院障壁画」