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南海の孤島インファント島で発見された2人の小美人(ザ・ピーナッツ)は、ロリシカ国の悪徳ブローカー一味に拉致され、日本で見世物にされてしまう。新聞記者の福田(フランキー堺)、カメラマンの花村(香川京子)、言語学者の中条(小泉博)は、2人を島に帰すようよう世論に訴えかけるが、その間にも小美人たちの危機を知った島の守護神モスラが海を渡って日本に上陸。都内を破壊し尽したモスラの幼虫は東京タワーに巨大な繭を作る。1961年公開。
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美しく壮麗な特撮ファンタジーが4Kデジタルリマスター版で初上映。ゴジラ、ラドンに次ぐ人気怪獣のデビュー作。2人の小美人とテレパシーで結ばれたモスラは、それまで人類の敵として描かれてきた怪獣の概念を覆す平和の守護神。卵から孵った幼虫が繭を作り、巨大な成虫へと変貌する過程が精緻を究めた特撮技術で描かれる。
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これだけは雪でも雨でも出かけて見る。絶対見る。そう決めていた。事前にYouTubeで公開された「『モスラ』4K復活プロジェクト ~デジタルリマスター作業完全密着~」も予習済みである。
「モスラ」...僕は本作を劇場で見ていない。本作公開は1961年(昭和36年)7月30日である。見た記憶のあるシーンは、おそらくTVによると思うが、確信はない。モスラは別作品にも多数客演した。それを見て、本作を見たつもりになっているかもしれない。いずれにしても、SF怪獣特撮ファンならば、ゴジラ第1作同様、万難を排して見るべき作品である。
...と思う。
孤島から連れてこられるのはキングコングへのhomageかな
でも、こちらは人(妖精,小美人)さらい。悪徳ブローカ-・ネルソンのふるまいは、たちが悪い。
キングコングは髑髏島から見知らぬ場所(ニューヨーク)に連れてこられた。コングはエンパイアステートビルによじ登った。モスラは小美人を追いかけて日本に来た。東京の破壊は小美人やモスラに責任はそもそもない。1958年(昭和33年)12月23日開業の東京タワーが倒壊した。仕方がない。見る前は色々考えていた。
ストーリーはWikipedia日本語版「モスラ」の記事を参照されたい。僕は作品全体の感想をいくつか。
60年前の特撮怪獣映画
2021年のSFファン・英語教師の目で見ると、社会の変化・進化がわかる。
現在ではたぶんNGの台詞がある。モスラを神聖視するインファント島の人々を「原住民」としたり、彼らを含む南洋諸島の人々の言葉を「土語(土人の言語)」とするのは、現在ではありえないだろう。
インファント島の人々も、薄茶色のドーランで肌の色を変えているのが分かる。踊りの様子も、何か未開部族視していると揶揄されそうだ。当時はそれは問題視されなかった。現在ならば、こうはしない。理解がそれなりに進み、過去をしっかり見れたからだと思う。だから本作がダメと言うことではない。
よくもこんなに人がいたものだ
悪徳ブローカーにさらわれて、小美人は東京で見世物になる。大きなホールへの入場者の列、ホールの座席は満員御礼状態。まさに、黒山の人だかりである。見ていてどこにこんなにエキストラさんがいたのだと思えた。CGでもマットペインティングでもない。隅から隅まで動いている生身の人間がでている。
モスラは瞬間場所移動をする
小美人を追いかけてモスラ(幼虫)が太平洋を東京湾に向かい泳いでくる。途中防衛隊の攻撃を受ける。モスラは姿を消して、退治されたと見なされる。
その後、モスラは内陸の「第三ダム」に突然現れ、ダムを破壊する。太平洋から東京湾に向けて北上していたのに、陸地のダム湖に突然現れることについて、説明はない。ここはさすがにプロットに無理があるように思えた。
たくさんの手間
モスラはダムを破壊し、横田基地へ向かう。防衛隊の攻撃も、平気なモスラ。同基地から都心に向けて進む。色々攻撃されても、ものともしない。そしてあの有名な東京タワー破壊、繭作り、羽化のシーンにつながる。印象的なのは、街、防衛隊の装備、普通の自動車等の車両が基本動くミニチュアであること。ミニチュアなのが悪いわけではない。あまりの数の多さ、それを準備したであろう人々の労力に圧倒された。クライマックスで、ネルソン一味がが小美人をロシリカ国のニューカーク市に連れ去り、そのため同市がモスラに襲われ、破壊されるシーンでも同じである。
60年前だなあ
時代にもよるだろうが、ロリシカ国人のブローカー・ネルソンは非常にイヤなやつである。小美人を「資料」と言い繕うところなど、ジェリー藤尾さん。悪役に徹していた。
ロリシカ国はアメリカが、ニューカーク市(New Kirk)はニューヨークとサンフランシスコがモデルとのこと。まあ、ロリシカ国のフラッグキャリア航空会社が Pan American だから、言わずもがなだけど。
60年後の現在では
あんなに生身の人間は出演しないよな。
ミニチュアの街並みは ”CGで作る” だろうなあ。
防衛隊のメカもCGかな。モスラの幼虫は ”着ぐるみ” はない。成虫はフルCGだろう。
色々なことを考えさせてくれる作品。間違えてはいけない。僕は本作がダメだなんて考えていない。正反対である。本作があったから、後の時代の進化、進歩である。The ORIGINの価値は普遍的だろう。本作もThe Classic Masterpieceと呼べる一本だ。
僕は誰だろう
無人島だと考えられて核実験場にされたインファント島。でも、そこには先住民がいた。小美人のような妖精と、モスラを神聖視する小さいが独自の文化集団が存在した。小美人を誘拐したことから起こる破壊。避けることができたあらそいが描かれているとも見れる。異文化、少数者への態度を考えると、自分はネルソンにはならないと言いきれるか。小美人を見物に出かける人にはならないと言いきれるか。そんなことを劇場からの帰路考えた。
1,100円は安い。午前10時の映画祭に大感謝。(文中一部敬称略)