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廃校が決定したある地方都市の高校では、最後の卒業式があと2日後に迫っていた。卒業生代表で答辞を読むことになった、料理部部長の山城まなみ(河合優実)は、ある思いをどうしても彼氏に伝えられずにいた。一方、バスケ部の部長である後藤由貴(小野莉奈)は、進路の違いから彼氏と離れることを選択する。 |
昨年も書いたことだが、河合優実(サマーフィルムにのって)、小野莉奈、小宮山莉渚(三井ハウスCM)、中井友望さんたち、若手の注目人物の共演作で、かなり公開を待っていた作品だ。
廃校...なの?
僕は教師生活で、勤務校が廃校の経験はない。だから、学年が一つずつ減り、最後は3年生だけがいる学校というものが、わからない。そこで1年間を過ごす生徒たちの心のありようも、わからない。そんなことを考えたが、ちょっと違っていた。
「廃校」という言葉のイメージは、新入生募集停止、3年間で1学年ずつ卒業、廃校(閉校)になる。つまり、最後は3年生しかいない。でも、本作の舞台・島田高校には2年生1年生がいる。 ものがたりでは、卒業式後、校舎の取り壊しとされていた。しかし違う場面では、廃校でなく校舎移転ととれる部分もあった。これでは廃校舎(?)だ。2年生1年生は別の場所に建設された新校舎に転居、または他校と統合ということなのかな。原作未読の僕は少し困った。
ホントに3年生しかいない、どんどん不自由になる学校生活、そんな中の青春群像劇かと考えていたので、ものがたり世界に適応するのが難しく感じた。なお、原作では他校との統合とのことなので、何か一言ほしかったかな。
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でも、そんなこと、吹き飛ばすような秀作である。
登場人物・メイン4人
山城まなみ(河合優実)
料理部の部長。恋人の駿とは2年間交際している。
後藤由貴(小野莉奈)
バスケ部の部長。明るく元気に仲間(自分も)を鼓舞する生徒。男子バスケ部の寺田とは、高校卒業後の進路でケンカ状態。
神田杏子(小宮山莉渚)
軽音部の部長。中学校からの顔なじみ、森崎に思いを寄せている。
作田詩織(中井友望)
孤独な女の子。高校卒業を機に自分を変えたいと考えている。図書館担当の国語教師坂口を慕っている。
四者四様、卒業式前日と卒業式当日の別離、新しい未来への旅立ちが描かれている作品(で、いいと思う)だろう。
河合さん初主演作である。
「サマーフィルム...」の助演・ビート板役とはずいぶん印象が違う。駿と2人で調理室でお昼ごはんを食べるシーンはほのぼの。実は駿とは永遠の別れをしている。
小野さんをスクリーンでついに見た。スポーツが出来て、元気。でも、実はナイーブな役柄。なかなかいい感じ。体つき、制服の着こなし。こんな感じの生徒がいると思えた。
小宮山さんは4人の中では唯一の現役高校生。作品の中で存在が大きくて驚いた。
中井さんは全く知らない人。いかにも自信なさそうな女の子を演じている。
主演は間違いなく河合さん。しかしものがたりを回すのは、小野さんの演じた後藤、小宮山さんの演じた神田、そして駿だろう。
バスケ部の副部長倉橋洋子役の坂口千晴さん。彼女も初めて見た人。今後注目かもしれない。
男子生徒は...
窪塚愛流:山城まなみの彼氏、駿役。
宇佐卓真:後藤の彼氏、寺田役。
佐藤緋美:作田が思いを寄せる、森崎役。
みんなそれなりに「はまって」いる。これまでに見たことがあるのは佐藤さんだけ。彼は「ムーンライト・シャドウ」(’21年)で柊(ひいらぎ)というとても傷つきやすい青年を演じていた。
藤原季節:図書館担当国語教師の坂口役。すごくいそうな感じ。
何年かしたら-特に女優さんたちは-本作が出世作と言われるような気がする。そんなのメイン四人のそれぞれの青春群像劇である。
まなみは駿を亡くした現実と向かい合い、後藤は寺田との関係に区切りをつけ、神田と作田はそれぞれの未来に向かい歩みをすすめることになる。彼女たちの高校生活はハッピーエンドということではない。これからもいろいろ苦しむだろう。応援したい気分、不思議な感覚だった。
映像美に一言
山梨県立島田高等学校は山梨県上野原市の「旧島田中学校」で、現在は市の施設。CGではない本物の桜の花がとても美しい。本作の撮影は昨年3月29日~4月10日とのこと。
桜の季節は旅立ちの時。そんなことを象徴している。
文中一部敬称略