映画「夜明け」
ちょうど東日本大震災のあった年に私は大学を卒業しました。
その頃、震災の影響で卒業式は行われず、就職先もまだ決まっていなかったこともあって、私自身社会との関わり方みたいなところで悩んでいたんです。
卒業してからも、半年間ほど悶々する日々が続きました。
その時に自分の中で抱いていた「世の中に対する憤り」であったり・・・・そんな言葉にできない感情が起点になって「夜明け」の脚本を書き始めました。
広瀬奈々子さん
是枝裕和・西川美和監督が立ち上げた制作者集団「分福」が満を持して送り出す新人監督、広瀬奈々子。
オリジナル脚本となる本作では、ごく普通の人々の人生を丹念に見つめながら、その奥にある複雑さ、人間の多面性を鋭く大胆な切り口で映し出す。
公開に先駆けてのプレミア上映となった東京フィルメックスでは、その才能を高く評価され、見事スペシャル・メンションを受賞。
韓国、ベラルーシ、アメリカ、フランス等各国の国際映画祭から招待が相次ぐなど、日本映画の新鋭として世界から熱い注目を集める存在だ。
地方の町で木工所を営む哲郎は、ある日河辺で倒れていた見知らぬ青年を助け、自宅で介抱する。
「シンイチ」と名乗った青年に、わずかに動揺する哲郎。
偶然にもそれは、哲郎の亡くなった息子と同じ名前だった。
シンイチはそのまま哲郎の家に住み着き、彼が経営する木工所で働くようになる。
木工所の家庭的な温かさに触れ、寡黙だったシンイチは徐々に心を開きはじめる。
シンイチに父親のような感情を抱き始める哲郎。互いに何かを埋め合うように、ふたりは親子のような関係を築いていく。
だがその頃、彼らの周りで、数年前に町でおきた事件にまつわる噂が流れ始める──。
秘密を抱えた主人公シンイチを演じるのは、『ディストラクション・ベイビーズ』『銀魂』シリーズ等、作品ごとに変幻自在の演技を見せ、役者としてさらなる進化を遂げる柳楽優弥。是枝裕和監督作『誰も知らない』でカンヌ国際映画祭史上最年少の主演男優賞に輝き、衝撃のデビューを飾った柳楽優弥が、14年の時を経て是枝監督愛弟子の作品に主演する、まさに“運命の映画”が誕生した!哲郎役には、圧倒的存在感を放つ小林薫。ほかYOUNG DAIS、鈴木常吉、堀内敬子と実力派俳優がしっかりと脇を固める。
たったひとりのふたりが寄り添った、人生の逃避行。
昨日を終わりにするために、新しい夜明けを迎えるために─。
弱くて切実で、たまらなく愛おしい人間の営みが観る者の心を震わせる、新たな時代の傑作が登場した。
歪んだ関係の中にある複雑な感情を紡いだ作品ですが、物語はとてもシンプルです。主人公のもどかしい道程を、どうか辛抱強く見守って下さい。
人と出会うことで救われ、人を乞うことで悩む。
誰にでもある不毛な時間を大切に描きました。
「ゴーイング マイ ホーム」(12年/関西テレビ・フジテレビ)、『そして父になる』(13年)、『海街diary』(15年)、『海よりもまだ深く』(16年)、西川美和監督『永い言い訳』(16年)に参加。
本作が映画監督デビュー作となる。
社会に出て挫折した弱い人間を主人公にしよう。
そう決めたのは30歳を迎えた頃、20代の自分を振り返ったことがきっかけでした。
震災直後に盛んに謳われた絆や、家族愛の風潮に対して懐疑的に捉えながら、自立できない若者の不安定な一時期を切り取りました。
他人に救いの手を差し伸べるというのは美談ではありますが、反面、優位な人間のエゴもどこかにあるのではないかと思います。
また、その救いに依存する側にも、権力に媚びる卑しさや、自分を見失う危険をはらんでいます。そんなふうに敢えて残酷で皮肉な目線を加え、家族と師弟の美しい部分と、闇の部分の両面を見つめていきました。
歪んだ関係の中にある複雑な感情を紡いだ作品ですが、物語はとてもシンプルです。
主人公のもどかしい道程を、どうか辛抱強く見守って下さい。
人と出会うことで救われ、人を乞うことで悩む。
誰にでもある不毛な時間を大切に描きました。