開かぬ「パンドラの箱」地位協定 米兵犯罪遺族の痛み

2020年06月02日 15時13分25秒 | 事件・事故

【平成の事件】横須賀・米兵強盗殺人事件

米海軍横須賀基地
米兵犯罪
平成の事件
日米地位協定
社会 神奈川新聞  2019年04月16日 09:30
 日米安全保障体制を象徴する街、横須賀。日米両国の部隊が重要拠点を構えるこの地で、2006年に米兵が市民を惨殺する事件が起きた。米軍との共存路線を歩む街に暮らし続けながら、遺族はこの13年間、被害や日米関係にどう向き合ってきたのか。(高橋 融生)

米兵による犯罪の撲滅を訴える山崎さん=横須賀市内
米兵による犯罪の撲滅を訴える山崎さん=横須賀市内
 横須賀港を臨むマンションに暮らす山崎正則さん(71)のもとには年に2回、刑務所からの封書が届く。

 被害者支援のために導入された制度に基づく通知。内縁の妻=当時(56)=を殺害した罪で服役している米兵の受刑の様子を伝える内容だ。

 「仮釈放されないか、今はそれが不安でね」

 あの事件から、13年が過ぎた。2人で生活し始めたばかりだった家から、今も離れられない。山崎さんの亡母のためにと妻が選んでくれた仏壇に、今は妻自身の遺影が立ててある。

地位協定「運用改善の機能を示す」

起訴前に身柄が神奈川県警に引き渡された米兵=2006年1月、横須賀署
起訴前に身柄が神奈川県警に引き渡された米兵=2006年1月、横須賀署
 京急横須賀中央駅に近い雑居ビルの階段踊り場に、妻が倒れていたのが見つかったのは、2006年1月3日の早朝だった。肋骨は折れ、内臓は破裂。財布から現金が抜き取られていた。

 街頭の防犯カメラには、彼女に近づく外国人の男の姿が映っていた。1キロほど離れた場所には、米海軍横須賀基地がゲートを構える。神奈川県警は米軍に照会した。既に基地に戻っていた空母「キティホーク」乗員の男が、米軍当局の捜査に、事件への関与を認めた。

 日米地位協定では、米軍関係者による公務外の犯罪の1次裁判権は日本側にあるが、容疑者の身柄が米軍側にある場合は、起訴まで米軍が拘禁を続けるとも規定されている。ただ、1995年の日米合同委員会合意で、殺人や強姦に関しては、米側が日本への起訴前の身柄引き渡しに「好意的な配慮を払う」とする地位協定の運用改善がなされていた。

 元米国務省日本部長のケビン・メア氏は当時、東京の在日米大使館で安全保障部長を務めていた。事件の連絡を受けて「すぐ日本側に引き渡すべきだ」と主張したという。

 「証拠もあり、本人も関与を認めている。軍内部からは運用面での前例となることに慎重な意見も上がったが、『これが起訴前引き渡しの対象に当てはまらないなら、何が当てはまるのか』と言った」

 議論はワシントンに移り、最後には起訴前引き渡しに応じるとの結論に至る。日米合同委員会が開かれ、外務省からの引き渡し要請に、在日米軍は即座に応じた。メア氏は「地位協定の運用改善が機能していることを示す必要もあった」と回想する。

米軍の重要拠点、共存路線を歩む街

 米軍の世界戦略にとって、横須賀は極めて重要な拠点だ。西太平洋からインド洋までを担当区域に収める第7艦隊の旗艦「ブルーリッジ」や巡洋艦、駆逐艦の実質的な母港でもあり、艦船の修繕や補給の役割を担う。

横須賀基地に配備されている米軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」
横須賀基地に配備されている米軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」
 1973年からは空母が配備されている。現在の原子力空母「ロナルド・レーガン」は5隻目。米空母機動部隊の拠点のうち、米本土の外にあるのは世界に横須賀だけだ。2006年の事件で米軍が対応を急いだのも、原子力空母の配備を控えて地元世論に敏感になっていたためといわれる。

 市民も米軍関係者と多層的な関係を築く。旧日本海軍が「横須賀鎮守府」を構えた明治時代から軍港として刻んできた歴史とも、無縁ではない。

「どぶ板通り」で毎月開かれている日米合同のパトロール=3月15日夜
「どぶ板通り」で毎月開かれている日米合同のパトロール=3月15日夜
 3月15日の深夜。基地の近くに米兵相手のバーが連なる「どぶ板通り」に、総勢80人の行列がやってきた。

 米軍や地元住民会などがゴミ拾いを兼ねて、日米合同のパトロールを続けている。200回を超えた恒例行事。隊員に交じって基地司令官も掃除に汗を流す。

 地元町会の上田滋会長が、活動の意義を強調する。「どぶ板で飲んでいる軍人と、ボランティアで住民と一緒に掃除をしている軍人が互いに姿を見せ合うことは、事件の抑止にもなるはずだ」

 新たに横須賀に赴任してきた米軍人や家族には、生活の基礎を学ぶオリエンテーションの受講が義務づけられる。初歩的な日本語から生活上のマナーまで内容は幅広い。最終日には、集団での鎌倉観光が受講者を待つ。自力で乗車券を買って電車に乗り、横須賀まで帰ってくることが“検定試験”だ。

日本での生活について学ぶオリエンテーションに参加する米軍関係者=横須賀基地
日本での生活について学ぶオリエンテーションに参加する米軍関係者=横須賀基地
「米軍にも事件の痛みが伴うように」

 だが、こうした地道な活動とは裏腹に、被害回復を巡る制度の実情に、遺族は今も不信感をぬぐえないでいる。

 刑事事件の判決から半年後、山崎さんは日米地位協定に伴う民事特別法に基づいて、加害者の米兵と日本政府を相手に民事訴訟を起こした。「公務外」の犯罪ではあっても、「米軍当局に監督責任があったことを認めさせたい」という点にこだわった。

 2009年の横浜地裁判決は米兵への請求は認めた一方、国への請求は退ける。控訴や上告も退けられ、判決は確定した。

 公務外で事件を起こした米兵本人に支払い能力がない場合、米政府が慰謝料を支払う制度が、地位協定にある。山崎さんの妻の殺害事件を巡り、米側は2015年に示談を申し入れた。

 だが、山崎さんは内容に目をむいた。提案額は、訴訟認定額の4割。加害者の米兵を免責することも、支払い条件に盛り込まれていたからだ。

 「日本をばかにしている」。日本政府の担当者にも、思わず声を上げたという。「あなたたちは『被害者に寄り添う』と言っていただろう。だったら、アメリカに言ってくれ」

 交渉は難航した。最終的に山崎さんは2017年、示談を受け入れる。米側からの慰謝料と確定判決の認定額の差額は、日米特別行動委員会(SACO)の合意に基づいて、日本政府が見舞金の形で肩代わりした。

 山崎さんも、すべての米軍関係者に憎しみを抱いているわけではない。

 事件後、英文の短い手紙が届いたことがある。「私たち全員が申し訳なく思い、憤っています」。加害者の米兵と同じ空母の乗員という男女3人の名が添えられていた。

 それでも遺族として、日米地位協定の改定を願う思いは強い。「米軍は事件が起きるたびに綱紀粛正を言うが、運用改善では事態が戻ってしまうかもしれない。事件が、米側にとって痛みを伴うものでなければならない」

「基地・反基地の問題ではない」

 全国の都道府県知事でつくる全国知事会は、地位協定の抜本的見直しを求める提言書を2018年に日米両政府に提出した。米軍人の事件に対しては「具体的かつ実効的な防止策を提示し、継続的に取組みを進める」ことを求めた。

 だが日米地位協定の条文は1960年の締結後、今に至るまで一度も改定されていない。

 「“パンドラの箱”を開けることになってしまうからだ」。事件後、日本政府当局者が明かしていた。規定が多岐にわたる協定を巡って関係各機関が主張を始めたら、収拾がつかなくなる―。「それなら運用改善で対応する方がよい」。元米国務省のケビン・メア氏も断言する。

 しかし、米兵犯罪の被害者でもあるオーストラリア人女性のキャサリン・ジェーン・フィッシャーさんも、地位協定改定の訴えを曲げない。「在日米軍の兵士による犯罪が、70年以上もなくならない。協定を改定しないのは、こうした犯罪を許容するのと変わらない」

暴行を加えた元米兵との民事訴訟で、1ドルの賠償で和解したことを発表するフィッシャーさん=2013年、東京の司法記者クラブ
暴行を加えた元米兵との民事訴訟で、1ドルの賠償で和解したことを発表するフィッシャーさん=2013年、東京の司法記者クラブ
 2002年、横須賀で米兵から暴行された。警察に被害を訴えたが、加害者は起訴されず、民事訴訟の審理中に帰国して除隊した。その後に自力で加害者の所在を突き止め、米国で提訴。加害を認めることと引き換えに、2013年に加害者と和解した。「お金より正義が欲しかった」。賠償額は1ドルだった。

 フィッシャーさんは訴える。「日本政府が本来やるべきことを、私は自力でやらなければならなかった。米兵の事件は、基地に賛成か反対かという政治的な議論ではない。犯罪を許すか、許さないかという問題だ。日本政府は立ち上がるべきだ」

 ◆横須賀・米兵による強盗殺人事件 ​2006年1月3日、神奈川県横須賀市で、会社員の女性を殺害し、現金を奪ったとして、当時横須賀に配備されていた空母「キティホーク」の乗員だった米兵が強盗殺人容疑で神奈川県警に逮捕された。2008年3月にも、横須賀市内でタクシー運転手が刺殺される事件が発生し、4月に駆逐艦乗員だった米兵が強盗殺人容疑で逮捕された。いずれの事件でも、米軍側は日米地位協定の運用改善に伴う容疑者の起訴前身柄引き渡しに応じている。
連載「平成の事件」
 この記事は神奈川新聞社とYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。「平成」という時代が終わる節目に、事件を通して社会がどのように変わったかを探ります。4月8日から計10本を公開します。


特権を問う 地位協定60年 06年横須賀 女性強盗殺人 「米兵痛み伴わず」

2020年06月02日 15時03分32秒 | 事件・事故

毎日新聞

2006年、米兵に妻を殺された男性が神奈川県横須賀市にいる。出勤中だった妻は金を奪うのが目的だった米兵に殴られ、踏みつけられ、人生を絶たれた。「同じような被害が二度と起きてほしくない」。男性は、日本に基地を置きながら事件を防ぐことができない日米両政府の責任を問い続けている。

佐藤好重さんの遺影と、ネックレスをかけた位牌(いはい)を手にしながら話す山崎正則さん。ネックレスには事件当時の血痕が残っていた=神奈川県横須賀市で2020年3月3日

 男性はバス運転士だった山崎正則さん(72)。清掃担当の佐藤好重(よしえ)さん(当時56歳)と職場で出会い、離婚や死別など互いの苦労を理解しあった。内縁の妻となり、定年退職後は婚姻届を出して日本一周旅行をしようと約束していた。

 事件が起きたのは2人で買ったマンションに暮らし始めて3カ月の頃だ。「ご飯を作ってあるよ。行ってきます」。06年1月3日早朝に出勤した佐藤さんは近くの路上で米海軍兵の男(36)に襲われた。道に迷ったように装って近づいてきた男に殴られ、内臓が破裂するほど踏みつけられた。飲酒して散財し、金を奪おうとしたのが動機だった。

この記事は有料記事です。


米兵から性暴力被害を受けた豪女性 安倍首相あてに日米地位協定の改定要望

2020年06月02日 15時01分28秒 | 事件・事故

毎日新聞

在留米軍の特権を認めた日米地位協定の調印から今月で60年を迎えたことを踏まえ、米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)で働く米兵による性暴力被害にあったオーストラリア人のキャサリン・フィッシャーさん=東京都=が20日、地位協定の改定を求める要望書を安倍晋三首相あてに提出した。


米兵性犯罪被害、占領期から現在まで 有志が県内事案集計

2020年06月02日 14時52分18秒 | 事件・事故

日米地位協定

社会 神奈川新聞  2019年09月09日 05:00

 敗戦後の占領期から現在まで続く県内の米兵らによる女性への性犯罪を記録しようと、県内の女性有志らがリストを作成した。県警察史や書籍、新聞記事などを調べてまとめたといい、特に多発した米軍中心の連合国軍による占領開始直後から近年まで、被害は絶えない。メンバーの一人、大木清子さん=横浜市港北区=は「神奈川は被害が多いが知られておらず、不起訴も多い」と指摘。泣き寝入りを招く日米地位協定の改定に向けた動きが出てくることも期待する。

 まとめたのは、県内の女性史の掘り起こしを行うグループ「港の会」。日本基督教団神奈川教区性差別問題特別委員会の有志メンバーで構成される。敗戦直後に県内にも設置された占領軍向けの「慰安所」や戦後の女性たちの歴史を学ぼうと、2018年7月から活動を始めた。

 リストづくりは、沖縄の市民団体「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」が作成した沖縄での同様のリストを手本にした。神奈川の実態を調べるため、同グループは図書館に通って資料を探したほか、県基地対策課に情報公開請求を行い、表にまとめた。

 リストは1945年8月から2018年12月まで。情報公開を請求しても過去をさかのぼることには限界があり、資料が見つからない時期があるなど、全ての時期を同じ水準で掲載はできていない。だが16年11月まで、ほぼ毎年のように女性を対象にした犯罪が発生している。

 これによると、敗戦の年である1945年は12月末までに50件の強姦(ごうかん)や強姦未遂が発生するなど、性犯罪が多発している。また、最近では2010年から15年までの6年間でも、不起訴を含め女性が被害に遭う事件が11件発生。付きまとい、暴行のほか、痴漢や強姦未遂もあった。

 調査の過程では、驚くことも多かったという。例えば02年に横須賀市で米兵に強姦されたとして大きく報道されたオーストラリア出身の女性の事件は、県基地対策課に記録はなかった。警察で門前払いをされたり、在日外国人が被害者となったりした事件などは掲載されず、行政の支援も受けられないでいるという。

 また08年から12年までの5年間で、神奈川での米兵による事件の起訴はわずか5%にとどまり、性犯罪はすべて不起訴だったとの新聞報道があった。在日米軍施設の7割が集中する沖縄では同時期の起訴は20%を超えたといい、「神奈川では『重要な事件以外、日本は裁判権を行使しない』という地位協定の密約がずっと踏襲されている。基地問題を巡る市民運動が必ずしも盛んではないこともあるのだろう。実態を知り、地位協定を改定しなければならないという動きになれば」と大木さんは力を込める。

 まとめた印象を大木さんはこう語る。「県内で米兵らによる性犯罪がいかに多いか知られていない。被害を受け、苦しみを抱えたまま生きている女性は今も多いだろう。沈黙を続けている被害者のことを忘れてはいけない」

 リストは、希望者には実費で送付するという。問い合わせは大木さん電話090(5540)8344。

「訴えられない女性も多い」

 沖縄で1996年から米兵らによる性犯罪のリストを作成している「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」の共同代表、高里鈴代さんは、神奈川でのリストづくりについて「米軍基地があり続け、戦後も早い時期から(性犯罪の)問題が存在しただろう。過去から現在までの調査に取り組むことは大事だ」と評価する。


現場にブレーキ痕なし 三春・ひき逃げ「はねたこと気付いた」

2020年06月02日 14時48分49秒 | 事件・事故

配信

三春町の国道288号で清掃作業中の男女2人が死亡したひき逃げ事件で、事故現場に目立ったブレーキ痕がなかったことが1日、捜査関係者への取材で分かった。田村署は中型トラックが十分減速せずに男女2人に衝突した可能性があるとみて、詳しく調べている。  

同署などによると、自動車運転処罰法違反(無免許過失運転致死)などの容疑で逮捕された住所不定、無職、容疑者男(50)が運転していたトラックが事故現場付近でブレーキをかけたとみられる形跡は確認できていないという。亡くなった三春町の会社員、男性(55)と、同町の会社員、女性(52)に気付かなかった可能性があるという。  

トラックはフロントガラスが割れ、左前部の損傷が激しかった。容疑者は職に就いておらず、私用目的で現場を通行したとみられる。同署によると、容疑者は容疑を認め、「人をはねたことに気付いたが、逃げた」という趣旨の供述をしているという。田村署は1日、容疑者を送検した。

 

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元同僚・年下男性へ1日複数回の電話やメール 44歳女がストーカー行為の疑いで逮捕<福島県>

2020年06月02日 14時46分55秒 | 事件・事故

配信

元同僚の男性に執拗にメールや電話を繰り返した疑いで44歳の女が逮捕された。 逮捕されたのは仙台市の会社員・菊池麻奈美容疑者 警察によると菊池容疑者は5月、恋愛感情を満たそうと元同僚の年下の男性の携帯電話に連続で電話を掛けたり、メールを送信したりしてストーカー行為をした疑いがもたれている。 菊池容疑者は1日に複数回、1週間で20回以上執拗に電話やメールを繰り返していたという。 警察の調べに対し菊池容疑者は「ストーカー行為はしていない」と容疑を否認している。

福島テレビ

 

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裸の王様・安倍晋三の"電撃辞任"で「公明・山口那津男総理」が急浮上だ

2020年06月02日 14時41分17秒 | 事件・事故

6/2(火) 9:16配信
プレジデントオンライン

■毎度国民、記者の失笑を誘う総理会見

 新型コロナウイルス対応に国民の厳しい視線が向けられる安倍晋三政権は、内閣支持率が急降下し、もはや政権末期の様相を見せている。政界の関心はすでに「ポスト安倍」に移り、公然と政権批判する声も自民党内から出るようになった。こうした中、存在感を高めているのが公明党だ。政権への従順ぶりから「下駄の雪」と揶揄された同党だが、今や「政権のブレーキ役」だけではなく、コロナ危機で国民目線に立った「アクセル役」も担っている。安倍総理が民の信頼を失う中、自民党を救う「救世主」として公明党の山口那津男代表を暫定総理に推す声も聞こえてくる。

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 「わずか1カ月半で今回の流行をほぼ収束させることができた。まさに、日本モデルの力を示したと思う」。安倍総理の常識離れした「手前味噌」はかねて知られているが、緊急事態宣言の全面解除を表明した5月25日の記者会見で語った言葉の数々には、国会担当の記者たちからも冷笑が漏れた。だが、そんなことはどこ吹く風よと「我が国では、人口あたりの感染者数や死亡者数をG7の中でも圧倒的に少なく抑え込むことができている。私たちの取り組みは確実に成果をあげており、世界の期待と注目を集めている」と悦に入る姿は、まさに「裸の王様」状態そのものだ。

■一国の宰相に苦言を呈すのは自粛したいが、現実は厳しい

 一国の宰相に苦言を呈すのは極力自粛したいところだが、現実は厳しい。朝日新聞が5月23、24日に実施した世論調査で内閣支持率は29%に低下し、不支持率は52%に上った。この傾向は、毎日新聞と社会調査研究センターによる23日の調査でもあらわれている。前回調査(5月6日実施)から13ポイントも急落した内閣支持率は27%で、不支持率は19ポイント増の64%に達している。

 安倍総理は「一喜一憂しない」との姿勢を見せるが、自民党内は動揺が隠せない。その理由は、朝日新聞の調査で自民党の政党支持率が前回調査(5月16、17日)から4ポイント低下。毎日新聞などの調査でも前回から5ポイント減の25%に落ち込んだことがある。かつて「参院のドン」と呼ばれた自民党の青木幹雄元参院議員会長は、内閣支持率と政党支持率の合計が50を下回ると政権が倒れるとの「青木の法則」を残している。それに基づけば朝日で「55」、毎日新聞などで「52」となり、すでに危険水域に入っているのは間違いない。

■「安倍おろし」をするだけの余裕が自民党にないのが実情

 現在の衆議院議員の任期は来年10月までで、安倍総理は自身の自民党総裁任期満了が約1年4カ月後に迫る中、レームダック化を避けるための解散総選挙を模索する。だが、ここまで政権や自民党の支持率が低下した今、「竹槍で戦はできない」(自民党中堅議員)と安倍総理・総裁の下での総選挙に難色を示す声は徐々に高まりつつある。コロナ危機到来で、さすがに目立った動きは見られないものの、石破茂元幹事長が「けじめがついたら職を辞すのも1つのあり方だ」と辞任を求めたのは、そうした議員心理を反映したものだろう。

 とはいえ、現下の状況では「安倍おろし」を画策し、自民党総裁選を実施するだけの余裕がないのが実情でもある。そこで与党内の一部から囁かれ始めたのが、公明党の山口代表を「暫定総理」に据えるウルトラCだ。コロナ収束が見えた段階で安倍総理に辞任を促し、自民党の支持率が回復するまでの間は「暫定内閣」として山口氏に総理の座を委ねるというプランである。


時速146キロ車を走らせタクシーに衝突し“5人死傷”…初公判で57歳男“危険運転致死傷罪”成立しないと主張

2020年06月02日 14時38分07秒 | 事件・事故

6/2(火) 11:35配信

一昨年12月、三重県津市で車を時速146キロで走らせタクシーと衝突し、5人を死傷させた罪に問われている男は、初公判で「制御ができなかったとは思わない」と述べ、危険運転致死傷罪は成立しないと主張しました。  

末広雅洋被告(57)は一昨年12月、津市の国道23号線で乗用車を時速146キロで走らせタクシーと衝突し、乗客ら4人を死亡させ1人に大ケガをさせた、危険運転致死傷の罪に問われています。  

「危険な運転行為」だったのか、被告に危険な運転をしている認識があったかどうかが裁判の争点です。  2日、裁判員裁判の初公判で末広被告は、事故を起こしたことは認める一方、「進行の制御ができなかったとは思わない」と述べ、危険運転致死傷罪は成立しないと主張しました。

 続く冒頭陳述で検察側は、「時速146キロで走行し、思い描いたとおり制御できず、わずかな操作で事故を起こす状況だった」と指摘。

 これに対し弁護側は「車線変更もして、制御が困難な状況ではなかった」と訴えました。

東海テレビ

 

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ガーゼや布の手作りマスクではコロナから自分を守れない インナーマスク検討を

2020年06月02日 14時34分09秒 | 医科・歯科・介護

配信

新潟大学大学院の榛沢和彦特任教授(血管外科)がインナーマスク開発

マスクだけで新型コロナウイルスの感染は防げるのか。自分から他人にうつすことを防ぐのには有効だとされるが、外部から自分への感染を防ぐには、マスクだけでは不十分との指摘もよく聞く。感染予防のために何か補う物はないかと探していると、マスクの内側に付けて使うインナーマスクの存在を知った。

制菌加工で菌捕集機能、洗濯耐久性などが期待できるものだ。開発に携わったのは新潟大学大学院の榛沢和彦特任教授(血管外科)と新潟のスポーツウエアの製造販売会社のオンヨネ。榛沢氏に開発の理由と期待できる効果を聞いた。

【写真】「美人マスクですか?」「オードリーヘップバーンかと思っちゃいました」と大反響…デヴィ夫人が披露した実際のマスク姿  

榛沢氏はマスクの開発にも携わっているが、なぜインナーマスクの開発もしようと考えたのか。榛沢氏は「ガーゼのマスクは、人に(ウイルスを)うつさないということはあるかもしれないが、自分が感染しないという点では、まったく意味がないんです」と切り出した。  また「たとえば無料で配布されたガーゼマスクを使うのは高齢者の方が多いかなと、感染するリスクは高いかなと思って作りました」と高齢者を心配していたとも説明した。  

インナーマスクのウイルスに対する具体的な効果は、まだ数値で明示できるまでは分かっていないと控えめだが、サージカルマスクと同等の効果を期待できるという。それではインナーマスクの内側と外側の各面の効果はどのようなものか。

「ガーゼマスクや布マスクを使っている高齢者の方たちに使ってほしい」

榛沢氏は「内側は酸化チタンなど約10種類の金属を練りこんだ半導体繊維で、紫外線などが当たると繊維にOHラジカルなどができ、繊維に触れた病原体の捕集、不活性化が期待できます」とウイルスの低減効果を説明した。  

続いて表側については「表は制菌加工をしています。菌を殺すという意味でなく増殖させない機能を持っています。元々、防塵繊維で、簡単な言い方をすると繊維がツルツルで菌がつかない仕組み。埃がつかない材質です」と説明した。

 最後に榛沢氏にインナーマスクをどういう人に使ってほしいか聞くと「ガーゼマスクや布マスクを使っている高齢者の方たちに使ってほしい。ガーゼマスクや布マスクで自分は守られていると勘違いする方がいます。自分を守っているわけではないです」ときっぱりと語った。

 さらに、他にも効果のあるインナーマスクは世の中にあるだろうと語ると「マスクと2重にして使えば効果はサージカルマスク以上も期待できると思います。検討してほしい。ただ暑くて熱中症には気を付けて」とこれからの季節に向けて心配していた。  販売情報はオンヨネのホームページで確認できる。商品紹介欄には100回洗濯しても効果は80%ほど維持できるとあった。価格は1200円(税別)。これから夏に向けて涼しげで薄い生地の手作りマスクも増えそうだが、ウイルスや抗菌の対策は十分か、しっかり考えておく必要がありそうだ。

ENCOUNT編集部

 

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最終更新:
ENCOUNT

検出のアルコール量に“辻褄合わず”逮捕…事故後に“コンビニで酒を買って飲む 酒気帯び運転で事故起こした容疑の男

2020年06月02日 14時31分41秒 | 事件・事故

配信

 愛知県東海市の県道で1日未明、酒を飲んで車を運転し普通乗用車と衝突事故を起こしたとして、45歳の男が逮捕されました。 男は「事故後に酒を飲んだ」などと話していて、容疑を一部否認しています。  

逮捕されたのは、南知多町の自営業・照井元美容疑者(45)です。  照井容疑者は1日午前5時ごろ、東海市加木屋町の「中平地」の信号交差点で酒を飲んで車を運転し、右折しようとした際、反対車線から走ってきた20歳の男子大学生が運転する普通乗用車と接触した道交法違反の疑いが持たれています。  

男子大学生が110番通報し警察が駆け付けましたが、照井容疑者はその間に現場近くのコンビニで買った酒を飲んだということです。  

警察に対し、照井容疑者は「事故後に車を止めてから酒を飲んだので逮捕状の内容は一部違っている」と酒気帯び運転について否認しています。  しかし、照井容疑者から検出されたアルコール量はコンビニで購入した酒を飲むだけでは足りない数値で、警察は事故の前にも酒を飲んでいたと判断し、逮捕しました。

東海テレビ

 

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「電通では直接受注しないのが原則と聞いている」 持続化給付金の再委託について梶山経産相

2020年06月02日 14時27分08秒 | 社会・文化・政治・経済

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新型コロナウイルスの緊急経済対策として売り上げが減少した企業に最大200万円を支給する「持続化給付金」について、大部分の業務が受託した一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」から電通などに再委託されていた問題。 【映像】記者に質問に答える梶山経済産業大臣
 2日の会見で「直接発注すればよかったのではないかとの指摘もある」との質問された梶山経済産業大臣は「いろんな業務が混じっている。また、ウェブでの申請に限っているので、その中でどういう人材をどういったところに張り付けて、どういう手順を踏んで、というところで、こういう形を取らせていただいた。過去に電通が補助金・給付金の交付事務を直接受託した際に、個々の事業者に電通から公的資金が振り込まれる形になるので、受け取り者が“国の制度で応募したんだけどな”ということになり、そういう問い合わせが集中したこともあり、電通では直接受注しないことを原則としていると聞いている。
それで振り込みは一般社団法人からということになって、業務はそれぞれに分けているということだと思う」と回答。  
また、会見を終えようとした梶山大臣に、記者席からは「この件について、担当の方のメディアへの説明の機会を設けていただけないか。この問題の発覚以来、我々が担当の方に連日のように連絡しているが、ほとんどコミュニケーションが取れていない。しかし野党ヒアリングの中で担当の方は“一部の報道に誤報がある”とおっしゃった。我々の報道内容は批判される一方、説明の機会が設けられていないのはすごくバランスが悪いので、早急にお答えいただきたい」との声が飛ぶと、梶山大臣は「言えることは皆さんに開示していきたい。対応します」と応じた。(ANNニュース)
 

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君たちはどう生きるか | 吉野源三郎著

2020年06月02日 13時54分09秒 | 社会・文化・政治・経済

内容(「BOOK」データベースより)

著者がコペル君の精神的成長に託して語り伝えようとしたものは何か。それは、人生いかに生くべきかと問うとき、常にその問いが社会科学的認識とは何かという問題と切り離すことなく問われねばならぬ、というメッセージであった。著者の没後追悼の意をこめて書かれた「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」(丸山真男)を付載。
 
 
「君たちはどう生きるか」について、二つの本を読みました。ひとつは本書で、吉野源三郎原作の岩波文庫本です。もうひとつは、漫画本で、羽賀翔一/原作・吉野源三郎です。どちらも、極めてよくできた社会倫理・道徳の本だと思いました。物語(または漫画)と解説(おじさんのノート)という構成になっていて、若者にわかりやすく理解できるように配慮されています。そして、大切な内容のことですが、“社会の不正に対し勇気を持って立ち向かう”“大切なことは他人の意見に惑わされず自分で納得できるまで考える”ことを教えています。このような本こそ何よりも “正統的=まともな” 道徳のテキストとなりうる本だと思いました。
本書を読まれた方は、ご自分より若い方には、漫画本と、もうひとつの本(前書き・池上彰、“1000人以上の先生に聞いた中高校生に一番読んでほしい本”と表紙に記された「君たちはどう生きるか」)を薦めて欲しいと思います。平易に書かれていて、理解しやすいからです。
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ところで、本書で一番大切で、読んで欲しいのは、最後の“解説”のところです。そこに書かれている要旨は次の通りです:
「君たちはどう生きるか」は、1935年、小説家・山本有三(代表作:路傍の石)が『日本少国民文庫』シリーズの中の一巻として書く予定でしたが、重い目の病気で書くことができなくなったので、児童文学者・吉野源三郎が代わって書くよう依頼されたとのことです。1935年といえば、1931年の満州事変より4年経ち、日本の軍国主義が日ごとに勢いを強めている時期でした。それとともに言論や出版の自由が制限され、自由な執筆が困難になりつつある中で、山本有三氏は、少年少女を時勢の悪い影響から守りたい、偏狭な国家主義・ファシズムの思想に惑わされず、少年少女に自由で豊かな文化を伝えておきたいという気持ちを込めて書こうと思い立ったそうです。
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そういった意味で、この本は、我が国でも、国家主義的な動きが進む恐れがある場合、若い人たちがこれに惑わされず、正しく生きて行くための指針として読んで欲しい本だと思いました。権力者、特に国家主義者は、自分の都合のよいように道徳を作ろうとするから注意が必要です!
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更に、本書を読まれた方に是非とも読んで頂きたい本があります。それは私が最近読んだ本で、「尊ぶべきは、小さな社会と細やかな心~Small is Beautiful~」(ブックトリップ)と言う本です。本書で述べられた若い人達への訴えと同様なことが、今日的な事例を使って書かれている、人生論ともいえる素晴らしい本だと感じたからです。
 
 
今更ながら、『ソフィーの世界』的な雰囲気をあとがきや書き出しに感じて購入。

結果、

夏の課題図書を読まされた気分になって終わった。

ひねくれた中学生以上にはうけず、大の大人が読むのもあんまりな内容。

この本からは特に某かの教養が得られる等の効用はない。

文学性もない。
何せこれは倫理と言う名の道徳(修身?)教育本だから。方法として物語形式であるだけ。(だからこそ『ソフィーの世界』的な面白さがあると思った)

(ついでに期待した面白さとは、複雑な専門知識を物語形式で主人公の実体験と絡ませつつ紹介する、教養本的なもの。ニアミス感凄い)

まっすぐな大人や子供には大層響くのだろう、と曲がりくねった根性の大人は思った。

【追記】
共産主義宣伝本にすぎない、的なレビューがあり、そらはそれで非常に勉強になるが、そんなことは気にせずに読めばいいし、共産主義自体はそれほど間違った考えではない。
共産主義の悪用が目に余るので、イメージ最悪なだけ。
 
 
 本書はコペル君という青年が、学校生活や友人関係で起こる様々な出来ごとを通して、叔父さん(スターウォーズのヨーダのようなメンター)に導かれながら成長する物語です。特に印象に残ったシーンは、コペル君が友人と交わした約束を裏切ってしまい(意図的ではない)、裏切ってしまった罪悪感と自己嫌悪、後悔などのネガティブな感情が湧き出て現実逃避しているシーンです。
 私も中学の頃、友人と喧嘩やイザコザで険悪な関係に陥ってしまった時は、学校に行くことが嫌で嫌で仕方なかった記憶があります。「風邪ひかないかなぁ」、「明日にならなくていいのに」、「隕石が降ってきて学校が崩壊しないかなぁ」など様々なネガティブな感情が沸いてきて、少年だった僕は夜遅くまで寝つくことができませんでした。その時の僕は、今思うと険悪になった友人と正面から真摯に向き合う勇気がなかったと改めて思います。10代の時の私は、頭の中では「良い事・悪い事」、「正しい事・間違っている事」を十分に理解していた場合でも、いざ当事者になると最適で的確な行動ができず自己嫌悪に陥てしまったことを思い出しました。
 大人になるにつれ、忘れてしまった道徳的な大切な事を改めて再認識できます。特に、毎日が仕事漬けで、少年だったころの事を忘れてしまった社会人の方に息抜きとしてお勧めの本です。
 
昭和12年初版の十代半ば向けの本である。
軍事色が強くなった日本で、軍部の監視をかわしつつ、子供に語るべき倫理観を示した作品とも言えよう。
時代背景を考慮すると、どの部分を軍部に配慮していたかを考えるのも興味深い。
主人公のコペル君と対話する年長者たちは実に真摯に自分の考えを語る。「大人は子供に何を語るべきか」という1つの見本を呈示した作品ともいえる。ただ、子供の周囲にいる大人としては、語るべきことをこの本に託するのもよいが、丸投げするのはいかがなものか、という気はする。大人は自分の言葉で子供に向き合うべきではないのか。

マンガ版は筋立ても設定も変わっているので、原作を先に読むのをお薦めする。
 
 
 

80年前の児童書が今もなお支持される理由

2017年8月の発売後、爆発的な勢いで売れ続ける『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)。わずか半年で、漫画版と原作の新装版と合わせて200万部を超える大ベストセラーとなった。原作は1937年に出版された吉野源三郎の同名小説。これを昨年漫画化して大きな反響を呼んだ。原作のファンも少なくなく、スタジオジブリの宮崎駿監督が「次回作のタイトルは『君たちはどう生きるか』にする」と発表したことでも話題をさらった。
なぜ、少年向けに描かれた古典が80年も読み継がれているのか。また、なぜ今、世代を問わず多くの人たちの共感を得ているのか。5月1日(火)にTBSテレビ系で放送される3時間特番『教えてもらう前と後 池上彰と日本が動いた日「君たちはどう生きるか」SP』(制作:毎日放送=MBS)でも取り上げる池上彰氏の解説を軸に真髄を探る。

生きるために本当に大切なことはなんなのか

「この本は生きるために本当に大切なことはなんなのかを考えさせてくれる名著です」

池上氏はそう語る。原作は第2次世界大戦の始まる2年前に出版され、著者である吉野源三郎は雑誌『世界』初代編集長としても知られる人物だ。

「ざっくり言うと子どもに向けた哲学書です。今は現代版の道徳の書として読まれているのではないでしょうか」(池上氏)

主人公は加藤清史郎さん演じる旧制中学2年生のコペル君こと本田潤一、15歳。銀行員だった父親を早くに亡くし、父親に代わって相談役を買ってでたのが母親の弟で"無職でインテリ"の叔父だった。インテリで無職であるのには理由がある。『大学は出たけれど』という映画があるように、原作が出版された第2次世界大戦直前の日本は不景気だった。東京帝国大学を出ても就職先がないという人が当時はたくさんいたのだ。

「おじさん」は、潤一の鋭い視点に感心し、「コペル君」というあだ名をつけた。天文学者のコペルニクスからとった名前だ。

「こんな立派な人と同じ名前だなんてなんだか恥ずかしいよ。でも心のどこかで願ってるんだ。周りの人にどんなに間違っていると言われても自分の考えを信じ抜く立派な人間に僕もなってみたい」(コペル君)

物語の中心は「いじめについて」。主な登場人物は物静かな水谷君、男らしくガッチンと呼ばれる北見君、豆腐屋の長男で家業を手伝いながら幼い弟や妹の面倒を見ている浦川君、そしていじめっ子の山口君だ。同番組では、物語を要約した形でドラマ化しお届けする。

浦川君は、山口君からいじめの標的にされていた。豆腐屋のせがれであったことからお弁当のおかずがいつも油揚げだったからだ。山口君は浦川君の貧しい境遇をさげすむように「アブラアゲ」と呼んでからかった。

クラスメートは山口君の愚行をどう見ていたのか。実は「いじめられている浦川君を助けたい」というのが本音だった。しかし山口君には乱暴な男兄弟がいた。「文句のある奴は兄貴に言いつけてやる!」そう豪語する山口君にクラスメートはおびえ、抗うことができなかった。


時代は変われど、いじめの根っこの部分は変わらない。『教えてもらう前と後 池上彰と日本が動いた日「君たちはどう生きるか」SP』(TBSテレビ系、毎日放送制作)は5月1日(火)よる7時から3時間特番で放送します

いじめの背景にあったのは貧困や格差だ。現在、中学校は義務教育だがコペル君が通う旧制中学とは現在の高校にあたり、受験という難関を突破したエリートが通う狭き門だった。同級生の多くは有名な実業家や役人などの子どもばかり。そんな中、浦川君の存在は異色だった。家庭が貧しかったのだ。時代は変われど、いじめの根っこの部分は変わらない。

「今でいう『空気を読む』という同調圧力の概念は80年前にも存在した。読者は作中に描かれる『いじめっ子』『いじめられっ子』、当事者になろうとせずはたから黙って眺めているだけの『傍観者』のいずれかに自分を投影し、物語を自分ごと化するのではなかろうか。だからこそ世代を問わず、多くの人が共感するのではないでしょうか」(池上氏)

弱者と強者は一瞬にして入れ替わる

ある日、山口君のいじめを見るに見かねたガッチンが、いじめっ子に食ってかかる。

「誰が何と言ったって、もう許さん!」

それを見たクラスメートらはどう出たのか。ガッチンに賛同し次々と援護にまわったのだ。山口君とガッチンの力関係は一瞬にして逆転した。

ところが、「ガッチンに同調する流れ」にただ一人抗う者がいた。殴り合いのケンカを必死になって止めたのは、被害者であるはずの浦川君本人だった。

 

物語の中心は「いじめについて」。主な登場人物は物静かな水谷君、男らしくガッチンと呼ばれる北見君、豆腐屋の長男で家業を手伝いながら幼い弟や妹の面倒を見ている浦川君、そしていじめっ子の山口君だ。同番組では、物語を要約した形でドラマ化しお届けする。

浦川君は、山口君からいじめの標的にされていた。豆腐屋のせがれであったことからお弁当のおかずがいつも油揚げだったからだ。山口君は浦川君の貧しい境遇をさげすむように「アブラアゲ」と呼んでからかった。

クラスメートは山口君の愚行をどう見ていたのか。実は「いじめられている浦川君を助けたい」というのが本音だった。しかし山口君には乱暴な男兄弟がいた。「文句のある奴は兄貴に言いつけてやる!」そう豪語する山口君にクラスメートはおびえ、抗うことができなかった。


時代は変われど、いじめの根っこの部分は変わらない。『教えてもらう前と後 池上彰と日本が動いた日「君たちはどう生きるか」SP』(TBSテレビ系、毎日放送制作)は5月1日(火)よる7時から3時間特番で放送します

いじめの背景にあったのは貧困や格差だ。現在、中学校は義務教育だがコペル君が通う旧制中学とは現在の高校にあたり、受験という難関を突破したエリートが通う狭き門だった。同級生の多くは有名な実業家や役人などの子どもばかり。そんな中、浦川君の存在は異色だった。家庭が貧しかったのだ。時代は変われど、いじめの根っこの部分は変わらない。

「今でいう『空気を読む』という同調圧力の概念は80年前にも存在した。読者は作中に描かれる『いじめっ子』『いじめられっ子』、当事者になろうとせずはたから黙って眺めているだけの『傍観者』のいずれかに自分を投影し、物語を自分ごと化するのではなかろうか。だからこそ世代を問わず、多くの人が共感するのではないでしょうか」(池上氏)

弱者と強者は一瞬にして入れ替わる

ある日、山口君のいじめを見るに見かねたガッチンが、いじめっ子に食ってかかる。

「誰が何と言ったって、もう許さん!」

それを見たクラスメートらはどう出たのか。ガッチンに賛同し次々と援護にまわったのだ。山口君とガッチンの力関係は一瞬にして逆転した。

ところが、「ガッチンに同調する流れ」にただ一人抗う者がいた。殴り合いのケンカを必死になって止めたのは、被害者であるはずの浦川君本人だった。

しかし、「おじさん」から返ってきたのは意外な答えだった。

「コペル君、君の考えは間違っているぞ! 君は勇気を出せずに大事な約束を破ってしまった。苦しい思いをしたから許してもらおうなんてそんなことを言える資格はないはずだ」

さらに「おじさん」はコペル君にこんな言葉を送る。

「コペル君、今君は、大きな苦しみを感じている。なぜそれほど苦しまなければならないのか。それは君が正しい道に向かおうとしているからなんだ」

コペル君は自分の過ちを受け入れ手紙を書いて謝罪することにした。

本がメンター役を担ってくれる

「おじさん」はコペル君に多くのヒントを与え、コペル君もまたそれらを素直に受け取る。「それは、『おじさん』とコペル君が「斜めの関係だからにほかなりません。『おじさん』の言葉はどれも『まっとう』ですが、親子という近い関係で、親から『まっとう』なことを言われたところで、子は聞く耳を持つでしょうか」(池上氏)

池上氏は、同作は「親から子へのプレゼントとしても売れている」と分析する。まずは大人が読んでみて大きな気づきを得る。そしてわが子にこそ読んでほしいと願う。しかしメッセージがあまりに「まっとう」であるために、面と向かって伝えるのは難しいと考える。だからこそ本をプレゼントして、「読んでほしい」とだけ伝える。


コペル君はおじさんには本音を話せた。『教えてもらう前と後 池上彰と日本が動いた日「君たちはどう生きるか」SP』(TBSテレビ系、毎日放送制作)は5月1日(火)よる7時から3時間特番で放送します

実は、池上氏が原作と出会うきっかけをつくってくれたのも父親だったという。

「ある日、父親が『読め』と言って買ってきてくれたんです。親が薦める本など……と最初は反発しました。しかし当時はテレビゲームなどない暇な時代です。なんとなく読み始めるとこれがすごく面白くて、すぐに夢中になりました。父も私に伝えたいことがあったからこそ、本を託してくれたのではないでしょうか」

社会でも同じことが言える。たとえば上司と部下の関係だと本音で話せないことも、利害関係のない隣の部署の先輩になら腹を割って語り合えることがある。「斜めの関係」は精神的な指導者、つまりメンターの役割を担ってくれるのだ。

作中に、池上氏が印象に残っている一節があるという。

“僕たち人間は、自分で自分を決定する力を持っている。だから誤りを犯すこともある。しかし、僕たち人間は、自分で自分を決定する力を持っている。だから、誤りから立ち直ることもできるのだ”

私たちは不透明な時代を生き抜かなければならない。世界中のあちらこちらで戦争や紛争が起きており、そしてシリア内戦は今なお解決の糸口が見えていない。

しかし争いを決めたのも始めたのも人間であり、また人間だからこそ誤りから立ち直ることもできる。では、世の中のために今私たちにできることとは何だろうか。

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 

 


識者実名アンケート「日本をダメにした10人の総理大臣」

2020年06月02日 10時43分32秒 | 社会・文化・政治・経済

2018.8.7

 9月の自民党総裁選は、総理・総裁の資質、政権運営の是非を問う重要な機会になる──はずだったが、党内は早くも安倍首相の3選確実のムードで、そうした議論はまるで盛り上がっていない。しかし、ついに在任期間歴代最長の総理となる安倍晋三首相の評価は先人たちと比べてどうなのか──本誌は政治記者・評論家・学者52人に実名アンケートで「戦後歴代最低の総理大臣」を調査。“失格総理”の顔ぶれと評価基準からは、「宰相に求められる資質」が浮かび上がってきた。

 アンケートはワースト3位まで選んでもらい、1位3ポイント、2位2ポイント、3位1ポイントとして集計した。その結果、「日本をダメにした10人の総理大臣」は以下の順となった。

1位:菅直人、2位:安倍晋三、3位:鳩山由紀夫、4位:宇野宗佑、5位:森喜朗、6位:麻生太郎、7位:小泉純一郎、8位:野田佳彦、9位:村山富市、10位:羽田孜。

◆「歴代最低総理」の理由

 総理大臣は在任期間が長いからといって「名宰相」とはいえない。総裁選に3選すれば歴代最長の総理10年が視野に入る安倍首相は、「歴代最低」の菅直人氏に僅差のワースト2位にランクインした。

 安倍首相のどこが「日本をダメにした」と評価されたのか。元文部官僚の寺脇研・京都造形芸術大学教授の指摘だ。

「お友達・側近政治で官僚組織のモラルを崩壊させた。モリカケ問題で官僚の公文書改竄や虚偽答弁を招き、いまや与野党の国会議員も首相を忖度して異なる政策を打ち出せない。その結果、政界には次世代を担う政治家が育たず、日本の将来が見えなくなってしまった」

 政治家と官僚が国民ではなく上ばかり見るようになったら国の将来は暗い。

◆「総理に推したのは間違い」

 では、宰相にはどんな資質が求められるのだろうか。それを探るために、反面教師として他のワースト首相の顔ぶれを見ていこう。

 堂々の(?)ワースト1位は前述の通り、菅直人氏。問われているのは国民の命を守る「危機管理対応能力」だった。東日本大震災の際、菅首相は「俺は原子力の専門家だ」としゃしゃり出て指揮系統を混乱させ、あまつさえ事故直後の福島第一原発に飛び、国の最高責任者が官邸を留守にするという危機を自らつくりだした。

「ウルトラ警備隊の隊長気取りで、危機の中、自己満足の行動に終始した」(政治ジャーナリスト・安積明子氏)

 やることなすこと朝令暮改だった鳩山由紀夫氏の3位も予想通りである。

「政権交代に対する国民の期待を短期間で無残に打ち砕いた。この時の民主党政権へのトラウマが国民にはまだあるから、安倍政権や自民党がどんなバカをやっても支持率が下がらない」(岸博幸・慶応義塾大学大学院教授)
 政権交代可能な2大政党政治をぶち壊し、国民から政権の選択肢を奪ったことが最大の政治的責任だろう。

 自民党では、ワースト5位に森喜朗氏が登場する。

「小渕首相の急死によって密室の談合で選ばれた」(後房雄・名古屋大学大学院教授)と今も首相選出過程を疑問視され、その時の談合メンバーの1人、村上正邦・元労相も「総理に推したのは大間違いだった。神の国発言など空気が読めないし、辞めた後も恥知らずに大きな顔で五輪組織委員会会長をやっている」と突き放す。

 森氏に続く“失言王”麻生太郎氏(6位)は、「反知性主義が目に余る」(精神科医・香山リカ氏)と総理の品格が問題視され、7位の小泉純一郎氏は「聖域なき構造改革で格差社会を創り、貧富の格差を拡大させた」(上脇博之・神戸学院大学教授)と政策の結果責任を問われている。

◆「三角大福中」はなぜランク外か

 危機管理能力も品格も、総理には必要な資質だろう。しかし、「総理に不可欠の条件」はもっと他にある。最低総理に森氏、宇野宗佑氏、鈴木善幸氏を挙げた後教授の指摘だ。

「共通するのは、偶発的な緊急事態で本来は総理になるべきではなかった人が突然、総理に選ばれてしまったこと。それゆえ、資質も準備もなく、政権は大失敗になった。総理にならなかった方が政治家としての評価は保てたかもしれません」
コメント
 総理は1日にしては生まれない。かつての自民党では、総理になる前に十分な訓練を積んだ。

 ワースト10の多くは平成に入ってからの総理で、岸信介氏や佐藤栄作氏、田中氏はじめ「三角大福中」(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘の各氏)といわれた派閥政治全盛時代の総理はランク入りしていない。欠点がなかったわけではない。スキャンダルや国民の批判は今よりむしろ大きかった。

 岸氏は安保闘争のデモ隊に国会を十重二重に取り囲まれて退陣し、田中氏は刑事被告人となって金権政治を批判された。中曽根氏、竹下登氏、宮沢喜一氏らも数々の政治資金スキャンダルにまみれた。

“政界の暴れん坊”と呼ばれたハマコーこと故・浜田幸一氏は著書『日本をダメにした九人の政治家』の中で、中曽根、竹下、宮沢の3氏を名指しで批判している。

 だが、いずれの政治家も、毀誉褒貶はあっても、総理になるために研鑽を積み、権力の使い方を学びながら総理になる準備と覚悟をしたうえで就任した。政治ジャーナリスト・野上忠興氏が語る。

「昔の自民党では、総理総裁候補と呼ばれる政治家は権力の怖さ、正しい使い方を身につけていた。それは総理大臣の権力は国民のためにあるもので、抑制的に使わなければならないということ。権力を私物化するような政治家は総理候補にしない良識があった」
 ランキング上位の顔ぶれを見ると、民主党の3人を含めて、総理になる準備、権力の正しい使い方を身につけていたとは思えない政治家が目立つ。安倍首相に決定的に足りない総理の資質もそこだ。東京新聞の望月衣塑子記者が語る。

「モリカケ疑惑では行政の不正は明らかなのに、安倍首相は何も調査しようとしない。つまり、国民に向き合おうとしないのです」

 自民党総裁選で問われているのは、「総理大臣の権力の使い方」であり、国民は自民党議員たちが総理の権力をチェックすることができるかを注目している。

※週刊ポスト2018年8月17・24日号


石破氏「説明できぬ使い方許されぬ」 案里氏側に自民党本部1億5000万円

2020年06月02日 10時29分45秒 | 事件・事故

6/2(火) 7:00配信
中国新聞デジタル

幹事長の一存で10倍の差はできない

河井夫妻への1億5千万円の提供について、「幹事長の一存では決められないはず」と話す石破氏

 自民党の河井克行前法相(広島3区)の妻案里氏(参院広島)が初当選した昨夏の参院選の公示前、党本部から夫妻の党支部に入金された1億5千万円について、関係者は口を閉ざしたままだ。かつて幹事長として選挙実務を担った石破茂氏(鳥取1区)は「納税者や党員に説明できない金の使い方は許されない」と指摘する。事件によってあらわになった問題点や同党の資金支援の仕組みなどを聞いた。

【動画】案里氏、初当選で語った決意

 ―参院選広島選挙区を舞台にした公選法違反事件を、どう見ていますか。

 秘書が起訴された段階で断定的なことは言えない。明らかなのは新人の案里氏に対する党本部の応援が、落選した現職の溝手顕正氏に比べて手厚かったことだ。私も多くの選挙を見てきたが、物心ともに今までにない態勢だった。

 昨年の参院選で自民党は秋田や新潟、滋賀などで議席を失った。その中で案里氏にここまで肩入れしたのが正しかったのか。党は検証するべきだろう。

 ―安倍晋三首相(総裁)の下で2012年から2年間、幹事長を務められました。選挙の資金支援で10倍の差をつけたことがありますか。

 ない。10倍の差は幹事長の一存ではできない。「なぜあの人だけ」と党内に不満が充満し、統制が効かなくなる。二階俊博幹事長ほどの老練な政治家がそんな判断をするかな。そうするともっと上か、推測だが。

 ―資金の分配はどのように決めるのですか。

 自民党の選挙調査は非常に精密で年代別や男女別、地域や職業、支持政党別に実施する。候補者の優劣評価はAからDまであり、例えばAなら「Aプラス」「A」「Aマイナス」まで判定する。それに基づき効率的に金を分配し、応援態勢を敷く。

 ―10倍とは言わないまでも差を付けるのですか。

 多少の差は当然つける。当落のボーダーラインの人には特に。ただ倍までにはならない。

 ―安倍首相は党本部からの資金の支出について「全て党執行部に任せている」と国会で述べて関与を否定しました。

 だったら、なぜ案里氏の応援に秘書が山口県から入ったのか。首相の許可なしで秘書がやるのか。それなら、すごい事務所だ。

 ―検察当局は1億5千万円の一部が、買収に使われたと見ています。

 わが党の会計は(税金から支出される)政党交付金と党員からいただく党費で成り立つ。党費は市町村ごとや小学校区の支部長が自分の足で歩いて集める。

 私は鳥取県連会長。党員から「俺たちの金をああいうふうに使っていたのか」「もう払いたくない」と言われる。最前線で党のために尽くしている人々に申し訳ない。納税者や党員に説明できる金の使い方をしないといかんのだ。

 ―河井夫妻は首相と近い一方、溝手氏は首相との確執が伝えられました。

 首相に物申せばポストや金がもらえず、政権に近いと10倍の金が入るとなれば、なびく人もいるでしょう。私に「後ろから弓を引くな」と怒る人もいるが、言いたいことが言えないなら何のために政治家になったのか分からない。

中国新聞社

関連記事】


北九州市の「第2波」はなぜ起きた? 97人の感染状況から見えてきた“意外なシナリオ”

2020年06月02日 10時24分27秒 | 社会・文化・政治・経済

6/1(月) 11:00配信
文春オンライン
 福岡県北九州市で新型コロナウイルスの陽性者が急増している。

 4月末から23日連続で新規感染者の確認がゼロだったというのに、いきなりだ。病院や介護施設だけでなく、小学校でも集団感染が発生した。

【画像】新型コロナ「第2波」か? 感染者が急増する北九州市の写真を見る(7枚)

 北橋健治市長は「『第2波の真っ只中』にいると認識している」と述べたが、政府は菅義偉官房長官が「第2波が来たとは考えていない」と正反対の見方を示しており、「どうとらえていいのか」と困惑する人もいる。

本当にこれは“第2波”なのか?

北九州市の玄関口といえる小倉駅 ©iStock.com

 だが、明らかな点が2つある。症状が悪化し、救急搬送されるなどして感染が判明した高齢者の多さ。そして、症状が出てからかなりの期間が経過しているのに、ようやく感染が分かった人が複数いることだ。

「ということは既に市中でウイルスが広がっていた証拠だ。第1波は収束しきっていなかったのではないか」という声が市民から漏れる。「自分もいつ感染するかと思うと気が滅入る」(40代の男性)と話す人もいて、市内を得体の知れない不穏な空気が覆い始めている。

 人口約95万人の北九州市は、全国に20ある政令指定都市の中でも「ほどよく都会で、ほどよく田舎」と言われる。物価や家賃が安く、救急要請時の病院到着時間が早いのが市の自慢だ。かつては「ガラが悪い人が多い」とされ、ネットを中心に「修羅の国」とまで呼ばれたが、私が知る限り、政令市の中では最も人情味がある。市役所もフレンドリーな職員が多く、「暮らしやすいまち」を自称している。

「人と人のつながりが深いので、隣人や知人に迷惑をかけないようにしようという気持ちが他地区より強いと思います。だからこそ、新型コロナウイルスの流行が始まると、皆で一生懸命に行動を自粛し、感染を抑えようとしてきました。ようやくその成果が出たのだなと、ほっとしていた時でした」と、70代の女性は肩を落とす。

9日連続で計97人の患者を確認
 市職員の1人も「市役所本庁舎では、来客に会うのも事務室ではなく、1階フロアを使うほどの気の配り方でした。市内全体でも感染防止にかなりの神経を使ってきたと思います。それなのに、なぜ。この北九州で」と落胆する。

 市内の雰囲気が一変したのは5月23日だった。

 新型コロナウイルスの新たな感染者は4月30日から出ていなかったが、一度に3人もの陽性者が判明したのだ。その後も連日2~26人の感染が明らかになり、5月31日までに9日連続で97人の患者が確認された。

 市が公表した感染状況によると、いくつかの傾向があるように見える。
 まず目立つのが、症状が悪化して救急搬送された高齢者の多さだ。搬送先でCT検査(コンピュータ断層撮影検査)されて肺炎が分かるなどし、PCR検査に回された。

 例えば、5月24日に陽性と分かった60代の女性は、 同21日に寒気がし、翌22日には39度台の発熱があったという。同23日に意識を消失して、救急搬送された。搬送先で胸部CT検査をしたところ肺炎が見つかり、PCR検査が行われた。

老人ホームや小学校での集団感染
 5月25日には、6人の感染が分かったが、前々日に陽性と判明した患者の「濃厚接触者」が1人含まれていたため、まるきり新しいルートの感染者としては5人だった。このうちの1人は男子高校生で、彼を除いた4人は60~80代の高齢者だった。

 4人はそれぞれ、▽意識を失って救急搬送▽前日から40度台の発熱と腹痛があり、救急搬送▽前日から40度台の発熱や頭痛、倦怠感があり、救急搬送▽呼吸困難になり、救急搬送――とされており、かなり症状が悪化してから搬送されたことになる。

 この4人の高齢者のうち、2人がそれぞれ入院した病院では集団感染が起きた。搬送に携わった救急隊員も感染した。

 集団感染は特別養護老人ホームでも発生した。別の日に心肺停止で救急搬送され、陽性判明したものの亡くなった80代の女性が入所していた施設である。

 小中学生への広がりも次第に分かり、小学校で同じクラスの児童が集団感染していたと分かった。

「感染者確認ゼロ」は偶然だったのか?
 一方、5月25日に陽性判明した高校生は、感染が分かるまでにかなり長い期間を要した。同11日に下痢や腹痛があったといい、同17日には39度台の発熱のほか、咳、鼻水、全身倦怠感があった。こうした症状が続くため、同22日に医療機関を受診して、25日にPCR検査を受けた。もう少し受診が早ければ、「感染者確認ゼロ」の期間中に判明していた可能性はなかっただろうか。

「第2波初日」の5月23日に感染が判明した陽性者のうちの1人は無症状だったが、同20日に持病で病院に掛かった時の検査で分かった。それ以前に病院で検査していたら、もっと前に判明していたかもしれない。

 5月23日までゼロだったのは、たまたまだったのではあるまいか。

 北橋市長は「第1波の検査体制では、無症状の人が陽性と判明することはまれだった」と記者会見で話している。高熱が4日間続くなどという“基準”で判断され、PCR検査の体制も整っていなかったからだ。
北橋市長は「医師が診断を踏まえて『感染の疑いがあるので、ぜひ検査をしてくれ』と言っているのに、保健所に拒否されたという声をたくさん聞いた。市長としては看過できない重要な問題だと思った」として、5月のゴールデンウイーク後に、独自のPCR検査センターを稼動させた。

 その結果、「無症状の方が多数、陽性患者として判明するようになった。無症状の感染者は相当程度いる可能性が高いと考えている。PCR検査を早く広く行うことで、そうした一面が認識されるようになったということがあると思う。救急搬送される方にも念のために検査をしている」と、このところの陽性者急増の原因を分析している。市外からの転院者にPCR検査をして感染が判明した事例もある。

4月から症状があった人も
 ただし、医療機関を何度も受診したうえ、ようやくPCR検査で陽性と判明した感染者がいるのも事実だ。

 5月23日に感染が判明した大学生は、 同17日に39度台の発熱や呼吸困難、全身倦怠感、筋肉痛があり、翌18日にも発熱が続くなどしていたことから受診した。それ以降も発熱などの症状が続いたため、再受診して、22日に検体を採取した。

 さらに前から症状があった人もいる。5月26日に感染が分かった80代の男性は、16日も前の同10日に38度台の発熱や頭痛、倦怠感あった。症状が続くため、同12日に受診、この日は別の医療機関も受診した。同15日にまた受診。それでも改善せず、同25日に呼吸困難を起こして救急搬送され、胸部CT検査で肺炎が分かった。

 5月27日に陽性判明した70代の女性は、4月から症状があったようだ。4月26日に37度台の熱があり、5月8日になっても発熱が続くため、医療機関を受診した。その後、2つの医療機関を計5回受診し、26日になって別の医療機関で検体を採取された。

第1波と第2波がつながっていた可能性
 こうして見ると、第1波と第2波はつながっており、むしろ地下に潜っていた部分が最近のPCR検査などで見えるようになったとは考えられないだろうか。

「『感染者確認ゼロ』の23日間は、単に確認できなかったというだけではないのか」と話す市民もいる。

 専門家による検証を待ちたい。
「日本全国どこであっても他人事ではない」
「2月から感染が続く北海道のことは遠い世界の話だと思っていました。しかし実際には足元で感染が拡大していました。日本全国どこであっても他人事ではないと思います」と市内在住の40代の男性が語る。

 70代の女性は「現在の感染者の情報を聞いていたら、心配でたまらなくなりました。もしかすると、自分も知らず知らずのうちに感染し、人に移していたかもしれないのですから」と話す。女性は独居高齢者らの見守りボランティアをしている。「できるだけ会わないようにしてきた」とは言うものの、不安が拭いきれないのだ。

 女性は見守り対象の高齢者に会わないかわりに手紙を書くなどしている。「こういう時は文章の方が気持ちが伝わりやすいかもしれない」と考えたからだ。手紙を受け取った高齢者から電話をもらうこともあり、「新しい形のつながりができつつあります」と微笑む。

 北九州市は公害のまちと呼ばれた時代がある。洞海湾岸に建ち並ぶ工場から「七色の煙」が出ると言われ、煤煙が空を覆った。廃液が流れ込む洞海湾は、死の海とまで言われた。

「それを変えようと立ち上がったのが女性でした。北九州の女性はたくましさと慈愛に満ちています。あれほどの公害を克服できたのは、女性が先鞭をつけ、市民や行政が一丸となって活動したからでした。そうした歴史を持つ北九州市民だからこそ、今回の感染症には負けたくない。今は、市内全体がしゅんとしていますが、必ず皆で何かをつかんで立ち上がります」。70代の女性はそう力を込めた。

葉上 太郎

 

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