「コロナが死を喚起する。あなたの価値観の極化、悪いものも良いものも」-米アリゾナ大学のジェフ・グリーンバーグ教授の概念。
スポーツで勝つには「死の恐怖」をコントロール~「死を意識」すれば勝利できるを実証!
研究によれば、バスケットボールの試合前に「いずれは誰もが死を迎えること」をほのめかされた選手は、そうでない選手よりもシュートの成功率が高まり、多得点を稼いだ。死をほのめかされると、強いモチベーションが働くので、能力をより発揮できたのだ。
スポーツだけでなく、ビジネスや日常生活などのシーンでも応用できる可能性があるという。
死を意識するとパフォーマンスが一気にアップ
実験はどのように進められたのか?
研究チームは実験に先立ち、バスケットボールの選手を集め、ゼストコット教授と1対1の試合を2回続けた。1回目の試合後、被験者をランダムに2つに分け、アンケートを実施。半数は「試合の感想」を書かせ、半数は「自らの死についてどう考えているか」を書かせた。
その結果、「死に関するアンケートに答えた被験者」は、「試合の感想を答えた被験者」よりも、2回目の試合でのパフォーマンスが40%もアップしていた。一方、「試合の感想を答えた被験者」は、1回目と2回目の試合でパフォーマンスに特に変化はなかった。
2つ目の実験は、1分間にどれだけで多くのシュートが打てるかを競うゲームを実施。被験者はコイントスで2つのグループに分けられ、それぞれ30秒の個人指導とルールの説明を受けた。
半数は普通のT シャツの研究者が指導し、半数は「death」の文字と頭蓋骨をデザインしたTシャツを着た研究者が指導した。
その結果、「death」の文字と頭蓋骨をデザインしたTシャツを着た研究者に指導を受けた被験者は、別の研究者に指導を受けた被験者よりもシュートの成功率がおよそ30%も高かった。
ゼストコット教授は、「死をほのめかされると、その恐怖に対処する必要性が生じることから、ワークやチャレンジにより熱心に取り組むことが確認できた。さらに研究を重ねれば、死の恐怖を活用した新たなメソッドが開拓できるかもしれない」と期待している。
「自分の価値観」と「強い自尊心」で死の恐怖はコントロールできる
このような死のほのめかしによる激励の効果は、「恐怖管理理論(Terror Management Theory)」に基づいているとされる。簡潔に言えば、人間は文化的世界観と自尊心を盾に死の恐怖から身を守って生きているとする仮説――、それが恐怖管理理論だ。
人間は、本能的な自己保存欲求が強いため、不可避的な死に恐怖を感じる。だが、文化的世界観(人生を生きる自分の存在理由と価値観)と、その価値観によって得られる強い自尊心があれば、死の恐怖はコントロールできると考えるのだ。
自尊心は、自分をかけがえのない存在と自認する感情だ。自分に対する主観的な自己評価が高まるので、安定した心理状態が保たれる。高まれば高まるほど、自信が強まるため、積極的な行動が促され、社会適応力、問題解決力、目標達成力が強まる。
人間は高度な自己認識と予測能力を併せ持つ動物だ。人間は社会共同体に秩序・永続性・安定性があることを認識し、思想的・宗教的・文化的な価値観を共有できることを予測できるので、死の不可避性を回避しようと努める。
その帰結として、社会から認められる行動をとれば、賞賛や承認を受けるため、自分は重要で価値のある存在と感じる自尊心が自然と芽生える。それが恐怖管理理論を支える考え方だ。
したがって、今回の研究は、自尊心が強まれば強まるほど、死の恐怖が弱められるため、選手は優れたアスリートになろうと奮闘する事実を改めて実証したことになる。
セロトニンなどの神経伝達物質と、死の恐怖や自尊心との関係性の研究が深まれば、さらに興味ある知見が得られるにちがいない。
古今東西の先人たちの赤裸々な死生観
光陰矢のごとし。生者必滅。生あるものは必ず死を迎える――。如何に生きるかを悩み、如何に死ぬかを考え、強かに生きる道を手探りするほかない。最後に、古今東西の先人たちの赤裸々な死生観、その生声を幾つか紹介しよう。
「人が死ぬなんて思えない。ちょっとデパートに行くだけだ」――アンディ・ウォーホル
「死の準備。それは、よい人生を送ることだ。よい人生は死の恐怖を和らげ、安らかな死を迎える。崇高な行いを貫いた人に死はない」――トルストイ
「死は人生の終末ではない。生涯の完成だ」――マルティン・ルター
「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」――村上春樹
「日々生まれ変わるのに忙しくない人は、日々死ぬのに忙しい」――ボブ・ディラン
「どう生きたかではない。どんな人生を夢見たかだ。夢は死んだ後も生き続ける」――ココ・シャネル
「いつかは死ぬことを思い出せば、失うものなど何もない」――スティーブ・ジョブズ
「毎晩眠りにつくたびに、私は死ぬ。そして翌朝目をさますとき、生まれ変わる。死ぬ覚悟があれば、自由に生きられる。明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ」――ガンジー
「人の言うことなんて気にしちゃだめだよ。『こうすれば、ああ言われるだろう』。こんなくだらない感情のせいで、どれだけの人がやりたいこともできずに死んでいくのだろう」――ジョン・レノン
「死んだ後も、生き続けたい」――アンネ・フランク
偉人賢人の幾万言を重ねても、結論は1つではないか? ラテン語の警句に「メメント・モリ(memento mori)」がある。「死ぬことを忘れるな、今を楽しめ!」という気づきの教えだ。それは、よき人生にはよき死が待つという気づきでもある。(文=編集部)
存在存在管理理理の論のと跡と - J-Stage
(Adobe PDF)存在脅威管理理論では,自尊心とその基盤となる文化. 的世界観が死の不可避性という存在論的脅威を緩衝する. 装置(文化的不安緩衝装置;cultural anxiety buffer)とし. て機能すると仮定する。人はその生存本能ゆえに死を恐. れ,これらの装置で死の脅威を ...
存在脅威管理理論への誘い―人は死の運命にい
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自尊感情:文化的世界観に一致しているという感覚(存在脅威管理理論のもとではこのように理解できる)
土倉英志 Eiji Tsuchikura
ここは土倉の研究を紹介するサイトです。
存在脅威管理理論(terror management theory)
●理論的な前提
・存在論的恐怖:いつかは訪れる死に対する恐怖。死の不可避性の認識から生まれる。
・人は存在論的恐怖をやわらげる文化的不安緩衝装置をもつ。
- 文化的世界観:存在論的恐怖の予測不可能性を緩和する。不死の概念(直接的不死、象徴的不死)による死の超越。
- 自尊感情:文化的世界観に一致しているという感覚(存在脅威管理理論のもとではこのように理解できる)
↓
・これらの装置は、世界、死、自己の意味づけをとおして存在論的恐怖を低減。
存在論的恐怖⇔文化的不安緩衝装置
●理論的前提を踏まえた仮説
1.文化的不安緩衝装置仮説(cultural anxiety-buffer hypothesis:CAB仮説)
- 文化的不安緩衝装置が強化されている(自尊感情が高い、文化的世界観を信頼できている)とき、人は存在論的恐怖を感じにくい。
2.存在脅威顕現化仮説(Mortality Salience hypothesis:MS仮説)
- 存在論的恐怖が高まると、人は文化的不安緩衝装置を強化しようとする。
引用文献
脇本竜太郎 2012 存在脅威管理理論への誘いー人は死の運命にいかに立ち向かうのか(セレクション社会心理学27),サイエンス社.