ロイター編集
[2月23日 ロイター] - 米電気自動車(EV)新興メーカー、ルーシッド・モーターズは特別買収目的会社(SPAC)のチャーチル・キャピタルIV(CCIV)との合併合意を受け、23日のCCIVの株価に基づく企業価値が620億ドルとなった。
ただ、同合併で株式を公開することになったものの、ルーシッドはまだEVの本格生産を始めていないため、同社の真の価値について一部で懸念がある。
23日の中盤時点で米ゼネラル・モーターズの時価総額は725億ドル、中国のEVスタートアップの上海蔚来汽車(NIO) は720億ドルとなっている。
大富豪のイーロン・マスク氏率いるテスラの株価は中盤時点で674ドルとなり、時価総額は6470億ドルに上った。株価は過去1年間で10倍以上に跳ね上がり、今年に入って約900ドルの高値を付けたが、この日は2日続落となった。
ルーシッドは当局への提出資料で、同社初のEVとなる高級EV「エア」の生産開始は2021年終盤と、当初予定の21年春より後ずれするとの見通しを示した。幹部らはまた、キャッシュフローがプラスに転じるのは2025年以降になるとしている。
CCIVの株価は、前日にルーシッドとの合併に合意したのを受けて下落し、23日中盤時点で32%安の39ドル。CCIVは非公開企業との合併を目指すブランクチェック・カンパニー(白紙小切手企業)と呼ばれるSPAC。
ルーシッドとCCIVの合併合意の一環としてプライベート・エクイティ会社が私募増資を引き受けており、その際の企業価値は240億ドルだった。テスラの時価総額には大きく見劣りするものの、SPACが関与する案件としては過去最大。
テスラの元エンジニアであるルーシッドのピーター・ローリンソンCEOはCNBCで企業価値評価額の大きさに動揺していないか問われ「当社は世界最良の技術を今年、米市場に投入する。評価額は当社の技術を反映していると思う」と述べた。
同氏によると、「エア」の価格を7万ドル未満に抑えたモデルの生産は2022年に開始する見込みで、23年には新しいモデルの生産も始まると語った。
ニコラやローズタウン・モーターズを含む複数の新興EVメーカーは本格生産を始めていない、あるいは大した売り上げがないにもかかわらず、株価がこのところ急伸しており、ドットコム・バブルを想起させるとの指摘もある。アナリストや投資家は近く調整に入ると見込む。
ロス・キャピタル・パートナーズのアナリスト、クレイグ・アーウィン氏は「EV部門は調整入りの様相となっており、ルーシッドのSPACを通じた株式公開は恐らく、負の循環を強める要因になっている」と分析した。
ルーシッド・モーターズ、SPAC合併の株式公開で合意近い-関係者
Crystal Tse、Edward Ludlow、Dinesh Nair
2021年2月21日 9:06 JST
合併後の価値は最大150億ドルに上る可能性、週明けにも発表か
EVのルーシッド・モーターズにはサウジの政府系ファンドが出資
米電気自動車(EV)メーカーのルーシッド・モーターズは、投資銀行家マイケル・クライン氏が設立した特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じた株式公開で合意に近づいている。事情に詳しい複数の関係者が明らかにしたもので、週明けの早い時期にも発表される可能性がある。
合併後の価値は最大150億ドル(約1兆5820億円)に上る可能性があると、関係者は非公開情報であることを理由に匿名で語った。
このSPACは取引に向けて10億-15億ドルを機関投資家から新たに調達することで協議中だと、関係者は付け加えた。バリュエーションや追加の調達額は投資家の需要次第でまだ変わる可能性がある。
ルーシッドを巡る取引は23日にも発表される可能性があると、関係者2人が話した。協議は継続中で、物別れに終わる可能性もまだある。
関係者によれば、元シティグループのクライン氏は自身のSPACの1社で、この取引のために既に20億ドル余りを調達したチャーチル・キャピタルⅣを使う方針。ルーシッドにはサウジアラビアの政府系ファンドが出資している。
ルーシッドの担当者はコメントを控えた。クライン氏の担当者にはコメント要請のための連絡が取れずにいる。
ブルームバーグ・ニュースが一連の協議について先月報道して以降、チャーチル・キャピタルⅣは5倍強上昇している。
ロイター通信は先週、今月中にも取引がまとまる可能性があると伝えていた。
テスラ出身者の新興EV、SPAC上場へ 企業価値2.5兆円
北米
2021年2月23日 13:51
ルーシッド初の市販車「エア」(企業提供)
【ニューヨーク=宮本岳則】米テスラの元幹部らが設立した新興の電気自動車(EV)メーカー、米ルーシッドモーターズは22日、特別買収目的会社「SPAC」との合併で株式を公開すると発表した。
合併時の企業価値は240億ドル(約2兆5000億円)となり、日産自動車の時価総額を上回る。投資マネーが高い成長を求めてEV業界に集中する構図が鮮明になった。
ルーシッドはテスラ元幹部のバーナード・ツェ氏らが2007年に設立した車載電池メーカーが母体で、16年ごろからEVの開発に乗り出した。
19年にテスラでモデルSの開発を指揮したピーター・ローリンソン氏が最高経営責任者(CEO)に就いた。過去にサウジアラビアの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)から10億ドル超の出資を受けた。三井物産も出資者の一社だ。
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今回の上場はSPACとの合併を通じて行う。SPACとは有力企業の買収のみを目的とした上場会社で、上場時は事業実態がない。合併後は買収先企業が存続会社となり、公開企業となる。20年からSPAC設立ブームが始まり、足元で約400社が上場する。通常の新規株式公開(IPO)に比べて上場までの準備期間が短くて済むことから、SPAC経由の株式公開を選ぶ新興企業が増えてきた。
ルーシッドはニューヨーク証券取引所に上場するSPAC「チャーチル・キャピタルIV」と合併する。株主の承認を得た上で、21年4~6月期中の合併完了を目指す。合併時にはサウジのPIFに加え、米資産運用大手ブラックロックやフィデリティ・マネジメント&リサーチなどが追加出資に応じる。ルーシッドはSPACの合併先として過去最大だ。
ルーシッドが22日公表した資料によると、同社は21年下半期から米西部アリゾナ州の工場で生産を始め、最初の納車を見込む。25年に年間13万5000台の生産を見込み、EBIT(利払い・税引き前利益)ベースで黒字に転換する見通しだ。初の市販車「エア」は6万9900ドルからで、独BMWや独ダイムラーのメルセデス・ベンツといった高級車メーカーと競合する。
米株式市場ではEVメーカーにマネーが集まっている。テスラの時価総額は6800億ドルを超え、トヨタ自動車の約3倍の水準だ。バイデン政権のEV振興策が追い風になるとの見方から、SPACや投資家は「第2のテスラ」探しに力を入れる。著名自動車デザイナーが創業したフィスカーやEVトラックのニコラなどSPAC経由で上場を果たした企業も多い。
株式公開時の売上高がほぼゼロにもかかわらず、期待先行で株価がついており、過熱感を指摘する声もある。