磯田 道史 (著)
一級の歴史家が、平安の史書、江戸の随筆、百年前の政治家や文豪の日記などから、新たな視点で、感染症と対峙してきた日本人の知恵に光をあてる。
新型ウイルスに対するワクチン、治療薬も確立していない今だからこそ、歴史を見つめ直す必要がある。
「給付金」も「出社制限」も「ソーシャル・ディスタンス」もすでにあった! 今こそ歴史の知恵が必要だ!
【目次より】
第一章人類史上最大の脅威 牧畜の開始とコロナウイルス/ペリー艦隊が運んできた感染症/スペイン風邪は波状的に襲ってきた ほか
第二章 日本史のなかの感染症――世界一の「衛生観念」のルーツ
「最初の天皇」と疫病/奈良の大仏は天然痘対策?/疫神を歓待する日本人/江戸の医学者の隔離予防論 ほか
第三章江戸のパンデミックを読み解く
すでにあった給付金/薬をただで配った大坂の商人たち/上杉鷹山の患者支援策 ほか
第四章はしかが歴史を動かした
「横綱級」のウイルスに備えるには/都市化とパンデミック/麻疹が海を渡る ほか
第五章感染の波は何度も襲来する ――スペイン風邪百年目の教訓
高まった致死率/百年前と変わらない自粛文化/「「感染者叩き」は百害あって一利なし ほか
第六章患者史のすすめ――京都女学生の「感染日記」
日記が伝える「生きた歴史」/ついに学校が休校に ほか
第七章皇室も宰相も襲われた
原敬、インフルエンザに倒れる/昭和天皇はどこで感染したか?/重篤だった秩父宮 ほか
第八章文学者たちのスペイン風邪
志賀直哉のインフルエンザ小説/〝宮沢賢治の〝完璧な予防策〟/荷風は二度かかった? ほか
第九章歴史人口学は「命」の学問 ――わが師・速水融のことども
数字の向こう側に/晩年に取り組んだ感染症研究 ほか
内容(「BOOK」データベースより)
歴史上、最も多くの命を奪ってきた脅威がパンデミックだ。新型コロナウイルスのワクチン、治療薬も確立していない今、歴史を見つめ直す必要がある。一級の歴史家が、平安の史書、江戸の随筆、百年前の政治家や文豪の日記などから、新たな視点で日本人の知恵に光をあてる。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
磯田/道史
1970年岡山県生まれ。国際日本文化研究センター准教授。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(史学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
今回のコロナ禍も、ほとんどの人にとって<道の事態>だったために、さまざまな混乱が生じた。
正確な情報がゼロに等しい状況下で、対処法を選択するためには、過去の事例から類推するしかない。
その時、長い時間軸をもって物事を捉える歴史学の視点が役に立つわけだ。
今回のコロナ禍を考える上でも、20世紀前半に発生したスペイン風邪の事例が<参考例>となった。
1918年から20年にかけて流行したスペイン風邪は、世界で4000万人以上もの命が奪われたとされている。
日本では、3、4回の感染があり、約45万人が亡くなった。
「感染=悪」という異様な雰囲気が強まれば、感染の隠ぺいを促し、さらなる感染を助長する恐れもる。
まさに「百害あって一利まし」だ。
不思議なことに、日本ではその後、人々は忘れさられてしまった。
スペイン風邪が収束後の1923年に発生した関東大震災によって、日本の風景は一変した。
そのインパクトがあまりに大きく、スペイン風邪は人々の記憶から消え去ってしまったのだ。
ゆえに、残念ながら、日本は感染症の教訓を十分に学ぶことができなかった。
そのこと自体が、一つの教訓といえる。
わたしは、歴史学者tおして、「誰から見た歴史なのか」を大切にしてきた。
一般に「歴史」と聞くと、政治史や外交といった為政者や権力者の歴史を連想しがちだが、私は、それらの歴史から抜け落ちた「庶民」に光を当ててきた。
<歴史は細部に宿る>といわれるが、当時の一庶民が何を考え、どのような生活を送っていたかを探求するなかで、その時代の普遍的な本質を見いだせる場合があるからだ。
今回のコロナ禍で、今日のグローバル社会には「他人事」は存在しないtおうことが分かったと思う。
感染症の場合、一部の地域に、医療の空白が生じれば、その分、抑制が難航する。
世界各国が、自国優先主義にだけに傾かず、コロナ禍とう共通の課題に連帯できるかどうかで、パンデミックを克服する上で鍵になる。
人は価値観が揺らぐと、どうしても極端な考えに傾く。
集団の運用や指導も荒くなり、丁寧な説明や対話を省いて、物事を強引に進めようとする。
そこに陥らず、バランスを保って進むためには、平和と人権に対する「尊敬心」と、他者を思いやる「共感性」が社会の根底にあることが求められる。
磯田先生の本は毎回さすがの一言です。
誰にでも読める形で、まとめられている本です。歴史好きな方、またそうでない方も楽しめる一冊だと思います。タイムリーな話題なので、読んで、改めて「なるほどなぁ」と、思えます。
要するに、
(1)乾燥、
(2)寒さ(風に吹かれる)、
(3)疲労、
(4)寝不足、
(5)混雑(会合、宴会、雑踏、学校の教室など)、
…という、おおむね5点の条件が重なれば、
必ずと言ってもよいほど、感染してしまうことを、
庶民(例えば、遠方の孫娘に会いに来た祖父)
から著名人(政治家、文学者、皇族など)までの
様々な実例から確認できるのが、本書の特長です。
(6)さらに、その人に持病がある場合は、とりわけ要注意。
著者の磯田さんご自身は、髪の毛にウィルス等が
付着するのを防ぐために、大きめの帽子を目深(まぶか)に
かぶってから外出しているそうです。いわば、頭にも
マスクを掛けているのでしょう。
海外諸国での極めて深刻なコロナ禍のニュースも参考に
なりますが、やはり、日本人にとっては、日本史上の
症例を知りたいものです。
そうしたニーズに応(こた)えてくれる優れた歴史感覚の
持ち主として、磯田さんは、まさに適役。
「好きこそものの上手なれ」を体現したような人物が
著わしたものは、読者をも堪能させてくれます。
コロナ禍をネタにひと儲けしようとする類書(玉石混交!)
に混じりながらも、キラッと光る、ひと粒の天然石みたいな
一冊です。
気になったので購入、読了しましたが個人的内容が残念でした。
なので、良かった点悪かった点を踏まえてレビューを書かせていただきます。
○良かった点
・日本における感染症の歴史が知れたこと。
タイトル通りの内容ではありますがこの本においては
日本における集団としての流行の歴史(中世・明治・大正時代の感染症の流行歴)と
個人としての感染歴(明治・大正時代の天皇、総理大臣、作家など)を大きく取り上げています。
その時の統治機構がどんな対策を打ったのか、庶民・個人の間でどんな情報が出回っていたかなどが
詳細に記載されており、日本人の感染症に対する対応の歴史を学ぶことができます。
○悪かった点
・リファレンス不足
本書の中には古今の感染症に対する対応に対して賛辞や批判が述べられていますが
歴史学者である著者に判断できることなのでしょうか。
本書には医療に関する知識についてどなたかに相談して執筆した、
知識に関して本を参照した等のリファレンスがほぼありません。
感染症への対応について医学者もしくは感染症専門医等に査読等を行ってもらったのでしょうか。
特に現在のコロナウイルス対応に関してもかなり詳しく意見が記載されております(P.132)が
これに関してもリファレンスがほぼなく、情報の信頼性について著者を信じるしかない状態となっています。
また、文中に一次資料の名前は記載がありますが巻末に参考文献の記載はありません。
・考察不足
本書では数多くの例を挙げる代わりに考察不足なのか著者の説明不足なのか、よくわからない箇所が多々存在します。
例を挙げると「上杉鷹山の対応に対する著者の考え(P.90~)」、「天皇への感染対策の方法や感染症が攘夷を加速させたなど(P123~)」など
前者に関しては一次資料、先行書に対してエビデンスが示されない状態で筆者独自の考えを述べています。
後者に関しては「(天皇への感染対策は)社会的距離を最大にとる方法で~感染防止がなされていた。」
とありますがその具体的方法こそ説明していただきたい所なのですが罹患者の出仕停止以外特に記載がありません。
また、攘夷に関する記載に関しても結び付けの根拠が弱いと思われます。
これでは歴史学ではなく歴史小説と思います。
・主張過多
主に政府に対する批判や速水融先生の書の引用・思い出話が多いです。
著者にも政治に関する主張する権利はありますが現状では評価の分かれるコロナ対応について、
もしくは関係のない防衛関係の施策に対してたびたび一方的な主張があり、
その文章を記載するなら上記のエビデンスの部分を補強しべきだと思います。
また、たびたび登場する速水先生の本の引用や最後の一章を割いて行う速水先生との思い出話は蛇足かと思います。
まとめると知識としては得るものがあったため☆2としましたが
基本的には歴史学者?の真偽不明な蘊蓄話といった感じで読んでいて面白さは感じませんでした。
いつもお世話になっております。
未だ読んでいる途中ですが、面白いです!!磯田道史先生の著書はやはり外れがありませんね。感謝して読んでおります。テレビに著書に大忙しですが、感染症だけは(私も)心配しております。
兎に角、歴史は面白い!!有難うございました。
この本を読んで、これまでの長い歴史に何度も未知のウイルスが海外よりもたらされ、薬も科学的知識もない当時の人たちが、試行錯誤しながら善処した事柄は、現在科学的知見のもと行われていることと、それほどずれてはいないことにまずは驚きました。そのような事柄が文献から読み取れるということ、今世の中で起こっていることを記録しておくことの重要性を感じました。今後必ず現実となるであろうコロナの再燃、さらには新しい未知なるウイルスの上陸に備え、子孫のためにも「記録と検証」の大切さを痛感しました。すばらしい本です。でも、このままコロナは終息しないということを歴史は語っているようで怖くなりました。