5/8(土) 20:47配信
産経新聞
厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館外観=東京都千代田区(納冨康撮影)
全国的に感染再拡大が鮮明になった4月以降、新型コロナウイルス患者のうち宿泊施設や自宅、福祉施設などで療養する人が急増している。入院できないまま自宅や高齢者施設で死亡するケースも相次いでおり、訪問診療の重要度が増している。
厚生労働省の集計では、5日時点の全国の療養者数は宿泊施設1万170人、自宅2万8823人、福祉施設342人。4月7日時点に比べ、宿泊は1・8倍、自宅は4倍、福祉は3・7倍に増えている。
東京都は今月7日時点の自宅療養者が2157人に上り、4月7日時点(611人)の3・5倍に増加。大阪府の自宅療養者は7日時点で1万3千人を超え、兵庫県でも6日に入院調整中の感染者、自宅療養者がいずれも過去最多になった。両府県では自宅で容体が急変し、亡くなる感染者も日増しに増えている。
大阪府門真市と神戸市の高齢者施設ではいずれも4月中旬以降、大規模なクラスター(感染者集団)が発生。門真市の施設では入所者13人、神戸市の施設では入所者25人が死亡した。神戸市の死者のうち23人は症状悪化後も入院先が見つからず、施設内で療養していたという。
■訪問診療、負担は限界…重症化も「受け入れ先見つからない」
新型コロナウイルスの「第4波」で、入院できない患者の自宅や高齢者施設を回る訪問診療の現場に重い負担がのしかかっている。感染力の強い変異株の流行もあり、重症化しても受け入れ先が見つからず、施設などで治療を余儀なくされるケースも目立つ。認知症などで入院が難しい高齢患者らの在宅死を防ぐとりでとしても奔走する。
「現場はすでに、限界にきている」。医療法人社団「日翔会・生野愛和病院」(大阪市)の渡辺克哉医師(46)は、第4波に直面する地域の医療提供体制の厳しさを痛感している。
大阪府内で高齢者施設にいるコロナ感染患者の訪問診療に追われる日々。7日現在、12~13人の担当患者の約半数が中等症以上の酸素吸入が必要な状態で、重症に近い患者もいる。
渡辺氏は「1分間に10リットル以上の酸素吸入が必要なケースもあった。病院だったら、いつ人工呼吸器を装着してもおかしくない状態だ。それでも、受け入れてくれる病院が見つからない」と訴える。
施設内で容体急変に対応するには限界もある。受け持った80代女性は当初、発熱はあるものの食事などを通常にとれる状態だった。しかし、発症3日目には酸素吸入などが必要な状態に。探し続けてきた入院先はついに見つからず、7日目に息を引き取った。
「第3波の時は施設で患者が出れば、軽症でも病院に受け入れてもらえた。第4波では救急車を呼んでも行く場所がない。特にこの2週間は救急車を呼んでも仕方がないという状況にまでなっている」(渡辺氏)。患者の家族には急変しても病院に搬送できないこともあると伝えている。
「保健所も要請があれば患者を病院に入れたいだろう。だが搬送先がない。それでも医師たちは日々の患者の病状をしっかりと把握し、保健所に伝えていくしかない」。渡辺氏はかみしめるように話す。
感染者の自宅への訪問診療を続ける医師もいる。京都府で2月に発足した訪問診療の専門チームで、中核を担うのが「よしき往診クリニック」(京都市)の守上佳樹院長(41)だ。
訪問診療の対象は、おおむね75歳以上。府の入院医療コントロールセンターから要請を受けて訪問し、治療に当たる。常時6~7人の患者を抱え、第4波に入ってからは「ほぼ毎日、新規の患者が入ってくる状態」(守上氏)だという。
無症状・軽症から酸素吸入が必要な中等症までを診るが、1人暮らしや高齢者同士で暮らす「老老介護」世帯が多く、容体急変の恐怖が常につきまとう。
当初は安定していても、数時間後に再訪問すると、血中酸素濃度が危険水域にまで低下しているといったことは珍しくない。訪問診療チームが症状悪化に気付き、入院につなげることができたケースは数多い。
認知症の症状が強く出てしまうなど、コロナ病床への入院が困難な患者の治療も担ってきた。病院では混乱して検査を拒否したり、看護師にかみついたりして入院継続が難しかった人も、在宅の訪問診療に切り替えることで、落ち着きを取り戻すという。
24時間体制で患者宅に駆けつけ、治療して容体を見極めて病院へつなぐ。「第3波のピーク時には入院できない患者があふれ、誰にも気付かれずに自宅で亡くなる人が相次いだ。そんな状況にしてはいけない、その思いでやっている」。守上氏は力を込めた。(三宅陽子)