今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「 健康な人は本を読まない。そもそも本を必要としない。必要とするのは選ばれた人で、古典だけでいいのである。
デカルトの時代は読むべき本は少かったが、そのすべてを読んで加えるべきものはなかったという。奇思すでに古人に尽きたり、
妙想すでに西人に尽きたり、われまた何をか加えんと故人はいったけれども、同じことでも同時代人の口から聞くのはまた別格で
ある。だから本は出てもいいが、明治大正までの初版五百部か七百部でいい。版元も書店も家業でいい。
もともと本を読まない野次馬に読ませなければベストセラーにはならないのだから、彼らの気にいる本をつくらなければならない。」
「 人は済度しがたいほど醜聞が好きである。近ごろのヒットはダイアナ妃騒ぎである。もと王室の醜聞ならこれ以上の醜聞はない。
あれはマリリン・モンローに次ぐセックスシンボルである。マスコミの餌食である。わが皇室も開かれたものにせよというのは餌食
になったらさぞよかろうという願望である。
言論は醜聞ばかりではないというが、ソ連べったり中国べったり北朝鮮べったりもまた別派の醜聞である。灰谷健次郎も相田みつを
も一杯のかけそばも良心的という醜聞である。」
(山本夏彦著「『社交界』たいがい」文春文庫 所収)
「 健康な人は本を読まない。そもそも本を必要としない。必要とするのは選ばれた人で、古典だけでいいのである。
デカルトの時代は読むべき本は少かったが、そのすべてを読んで加えるべきものはなかったという。奇思すでに古人に尽きたり、
妙想すでに西人に尽きたり、われまた何をか加えんと故人はいったけれども、同じことでも同時代人の口から聞くのはまた別格で
ある。だから本は出てもいいが、明治大正までの初版五百部か七百部でいい。版元も書店も家業でいい。
もともと本を読まない野次馬に読ませなければベストセラーにはならないのだから、彼らの気にいる本をつくらなければならない。」
「 人は済度しがたいほど醜聞が好きである。近ごろのヒットはダイアナ妃騒ぎである。もと王室の醜聞ならこれ以上の醜聞はない。
あれはマリリン・モンローに次ぐセックスシンボルである。マスコミの餌食である。わが皇室も開かれたものにせよというのは餌食
になったらさぞよかろうという願望である。
言論は醜聞ばかりではないというが、ソ連べったり中国べったり北朝鮮べったりもまた別派の醜聞である。灰谷健次郎も相田みつを
も一杯のかけそばも良心的という醜聞である。」
(山本夏彦著「『社交界』たいがい」文春文庫 所収)