「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2006・02・07

2006-02-07 06:25:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から昨日の続きです。

 「戦前の小学校の国語の教科書は『読方(よみかた)』といった。『読み書きそろばん』の読方である。一年生にはハナ ハト マメではじまる読本がながく使われていた。カラス ガ ヰマス スズメ ガ ヰマスと続く。
 初めカタカナから教え、平がなはあとから教えた。私は最後にオカネ ガ アリマスと書けと言った。
 教科書というものは同じことを繰返して教えるものである。歴史は小学生には簡単に、中学生にはややくわしく、高校生にはさらにくわしく教える。
 だから一年坊主にはオカネというものがある、これがこの世を動かしているという予感を与えるにとどめる。ここでいうお金は『現金』である。
 二年では『買物』はどうだろう。売り手がいます、買い手がいます、問屋があります、小売があります。
 三年になったら銀行があります、郵便局があります、預貯金があります、利息があります。銀行と郵便局のちがいは中学ですこし、高校で詳しく教えればいいだろう。
 今は義務教育は中学までということになっているから、一割以上の利息は元も子もなくす恐れがある、その覚悟ならいいが、そうでなければ手を出すな。出したのは欲で、元も子もなくしたからといって被害者ではないと教えよ。」

 
  (山本夏彦著「『社交界』たいがい」文春文庫 所収)
コメント
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