今日の「お気に入り」は、昨日と同じ山田太一さんの「断念するということ」と題した小文の中から。
「 大切なのは可能性に次々と挑戦することではなく、心の持ちようなのではあるまいか? 可能性があってもあるところで断念
して心の平安を手にすることなのではないだろうか?
私たちは少し、この世界にも他人にも自分にも期待しすぎてはいないだろうか?
本当は人間の出来ることなどたかが知れているのであり、衆知を集めてもたいしたことはなく、ましてや一個人の出来ること
など、なにほどのことがあるだろう。相当のことをなし遂げたつもりでも、そのはかなさに気づくのに、それほどの歳月は要
さない。
そのように人間は、かなしい存在なのであり、せめてそのことを忘れずにいたいと思う。」
「『可能性』という衝迫を逃がれて、あるがままの生を受け入れるばかりが善とはいわないし、私だってとてもそんな境地に
たどりつきようもない人間だが、絶えず自他への不満をかかえ、追い立てられるように生を終るのもみじめである。心して
『生きるかなしみ』に思いをいたしたい。ひとにではなく、自分にそういい聞かせている。」
(山田太一編「生きるかなしみ」ちくま文庫 筑摩書房刊 所収)