「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

寄せては返す波の音 2006・02・23

2006-02-23 06:15:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「 私有財産は盗みだとプルードンは言った。これを奪い返して持たざる者に公平に分配するのは正義で

  ある。これ以上若者を魅する言葉はない。社会主義には正義があるが、資本主義にはない。だが正義と

  良心ほど忌むべきものはない。五・一五、二・二六の青年将校は正義と良心のかたまりだった。『問答

  無用撃て』と彼らは犬養毅や高橋是清以下を殺した。レーニンのあとをついで独裁者になったスターリ

  ンは、革命の功労者ジノヴィエフ、ブハーリン、ラデック以下を皆殺しにした。毛沢東は文化大革命で

  何千何百万人を殺したか数知れない。金日成、ポル・ポト以下あげて数うるべからず。

   悪は転じて善と化す。資本主義は産業革命以来のものである。はじめは搾取の限りを尽したが、資本は

  生産したものを買わせなければならない、買わせるには買えるだけの賃銀を与えなければならない。結

  局競争してより安いものを提供しなければならなくなる、こうして今わが国は値下げ競争をするにいた

  っている。

   邪悪な資本主義のおかげで、人は冬暖く夏涼しい極楽にいる。テレビは百害あって一利ないと納得させ

  ることはできても、取上げることはできない。食いものを捨て助平の限りを尽す王様は昔は革命家に滅

ぼされたが、今は滅ぼすものがいない。人類はまるごと滅びる瀬戸際にいる。私は社会主義早わかりを

『室内』平成十一年十一月号に四ページで書いた。粗筋は右の如くだからこれで分った人は見るに及ばない。」


   (山本夏彦著「寄せては返す波の音」新潮社刊 所収)

  
   山本夏彦さんが創刊し、半世紀以上続いたインテリア雑誌「室内」が、通算615号目の2006年3月号で

  休刊(廃刊ではない)することになったそうである。
コメント
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