今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)と山本七平さん(1921-1991)の対談集から。
「七平 だいたい『愛』という言葉は仏教用語じゃいい言葉じゃないんですよ。これは物集高見(もずめたかみ)さんというあの物好きが一生懸命集めたでしょう。あれを全部調べると、『愛』っていうのは仏教に関する限り、いい言葉ではない。むしろ煩悩なんです。だからあんなのは早く脱却しなくちゃいけないんで、『愛してるわ』なんて言われたら逃げなくちゃ危険だと言うんです。
あれは煩悩のかたまりだと思ってね。儒教だとむしろ敬天愛人みたいな意味で、もうちょっと意味が違うんです。
だから、キリシタンは『愛』という言葉を使ってないですよ、あの時代ですから。キリシタン文書には絶対出てない。
夏彦 『慈悲』というのがありましたね。ちょっと違うけれど『おカミにもお慈悲があるぞ』と平次は言っています(笑)。
七平 それから『御大切』です。
夏彦 ああ『御大切』。
七平 これはいい言葉。名訳でしょう?
夏彦 素晴らしい言葉ですね。今でもまだ死んではいません。『御身御大切に』なんて女の人は辛うじてまだ使っていますね。あれはその名残なんでしょう。よく言っとかなくちゃ(笑)。
西洋では男女の愛も神の愛も共にラブです。他人を自分のように愛するのがキリスト教の理想ですが、それはできない相談です。できなくてもあきらめないでなおつとめる、祈るところに神がいるのだと言います。愛するという言葉に神が欠けているのを若者は敏感にかぎとって、女がいくら言わせようとしても言わないのです。男が言わないのにはわけがあるのです。あしからず(笑)。」
(山本夏彦・山本七平著「夏彦・七平の十八番づくし」中公文庫 所収)
「七平 だいたい『愛』という言葉は仏教用語じゃいい言葉じゃないんですよ。これは物集高見(もずめたかみ)さんというあの物好きが一生懸命集めたでしょう。あれを全部調べると、『愛』っていうのは仏教に関する限り、いい言葉ではない。むしろ煩悩なんです。だからあんなのは早く脱却しなくちゃいけないんで、『愛してるわ』なんて言われたら逃げなくちゃ危険だと言うんです。
あれは煩悩のかたまりだと思ってね。儒教だとむしろ敬天愛人みたいな意味で、もうちょっと意味が違うんです。
だから、キリシタンは『愛』という言葉を使ってないですよ、あの時代ですから。キリシタン文書には絶対出てない。
夏彦 『慈悲』というのがありましたね。ちょっと違うけれど『おカミにもお慈悲があるぞ』と平次は言っています(笑)。
七平 それから『御大切』です。
夏彦 ああ『御大切』。
七平 これはいい言葉。名訳でしょう?
夏彦 素晴らしい言葉ですね。今でもまだ死んではいません。『御身御大切に』なんて女の人は辛うじてまだ使っていますね。あれはその名残なんでしょう。よく言っとかなくちゃ(笑)。
西洋では男女の愛も神の愛も共にラブです。他人を自分のように愛するのがキリスト教の理想ですが、それはできない相談です。できなくてもあきらめないでなおつとめる、祈るところに神がいるのだと言います。愛するという言葉に神が欠けているのを若者は敏感にかぎとって、女がいくら言わせようとしても言わないのです。男が言わないのにはわけがあるのです。あしからず(笑)。」
(山本夏彦・山本七平著「夏彦・七平の十八番づくし」中公文庫 所収)