「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2006・02・05

2006-02-05 08:30:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)と山本七平さん(1921-1991)の対談集から。

  「七平 だいたい『愛』という言葉は仏教用語じゃいい言葉じゃないんですよ。これは物集高見(もずめたかみ)さんというあの物好きが一生懸命集めたでしょう。あれを全部調べると、『愛』っていうのは仏教に関する限り、いい言葉ではない。むしろ煩悩なんです。だからあんなのは早く脱却しなくちゃいけないんで、『愛してるわ』なんて言われたら逃げなくちゃ危険だと言うんです。
     あれは煩悩のかたまりだと思ってね。儒教だとむしろ敬天愛人みたいな意味で、もうちょっと意味が違うんです。
     だから、キリシタンは『愛』という言葉を使ってないですよ、あの時代ですから。キリシタン文書には絶対出てない。

   夏彦 『慈悲』というのがありましたね。ちょっと違うけれど『おカミにもお慈悲があるぞ』と平次は言っています(笑)。

   七平 それから『御大切』です。

   夏彦 ああ『御大切』。

   七平 これはいい言葉。名訳でしょう?

   夏彦 素晴らしい言葉ですね。今でもまだ死んではいません。『御身御大切に』なんて女の人は辛うじてまだ使っていますね。あれはその名残なんでしょう。よく言っとかなくちゃ(笑)。
    西洋では男女の愛も神の愛も共にラブです。他人を自分のように愛するのがキリスト教の理想ですが、それはできない相談です。できなくてもあきらめないでなおつとめる、祈るところに神がいるのだと言います。愛するという言葉に神が欠けているのを若者は敏感にかぎとって、女がいくら言わせようとしても言わないのです。男が言わないのにはわけがあるのです。あしからず(笑)。」

  (山本夏彦・山本七平著「夏彦・七平の十八番づくし」中公文庫 所収)
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