今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日と同じ「模範家庭文庫」と題した昭和58年のコラムの一節です。
「『チップー、タップー。戸をたたくのはそりゃだれだ?』
『風。風。天の子供』
という件りもおぼえている。ヘンゼルとグレテルである。ヘンゼルは兄でグレテルは妹で二人は先妻の子で今の母はまま母で父は樵夫(きこり)である。もともと貧しかったがひどい飢饉で二人は森のなかに置きざりにされる。
兄妹は道に迷って魔法使のお婆さんの家にたどりつく。屋根は菓子でふいてあって窓は氷砂糖である。兄は屋根に妹は窓に手をのばして食べると、『戸をたたくのはそりゃだれだ?』と婆さんに問われて『風。風。天の子供』と答えたのである。」
(山本夏彦著「『戦前』という時代」文藝春秋社刊 所収)
「『チップー、タップー。戸をたたくのはそりゃだれだ?』
『風。風。天の子供』
という件りもおぼえている。ヘンゼルとグレテルである。ヘンゼルは兄でグレテルは妹で二人は先妻の子で今の母はまま母で父は樵夫(きこり)である。もともと貧しかったがひどい飢饉で二人は森のなかに置きざりにされる。
兄妹は道に迷って魔法使のお婆さんの家にたどりつく。屋根は菓子でふいてあって窓は氷砂糖である。兄は屋根に妹は窓に手をのばして食べると、『戸をたたくのはそりゃだれだ?』と婆さんに問われて『風。風。天の子供』と答えたのである。」
(山本夏彦著「『戦前』という時代」文藝春秋社刊 所収)