今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日と同じ「模範家庭文庫」と題した昭和58年のコラムの一節です。
「グリムお伽噺のなかでは、ほかに『忠義者のヨハンネス』『ラブンツェル』などをおぼえている。
『母さんが私を殺した、父さんが私を食べた、妹のマルジョリーが、私の骨を一つずつ拾って、ハンカチに包んで、巴旦杏の根元に置いた。
キューット キューット キューット。きれいな鳥になったでしょう』。
この恐ろしい歌だけおぼえているのは、何度も読んできかされたからである。巴旦杏という木を子供の私は知らない。けれどもこの子は母親に殺され父親に食べられ、骨になって巴旦杏の根元に置かれたという。もう一度この本を見てたしかめなければならないと、何年か思いつめていたのは我ながら道理である。」
(山本夏彦著「『戦前』という時代」文藝春秋社刊 所収)
「グリムお伽噺のなかでは、ほかに『忠義者のヨハンネス』『ラブンツェル』などをおぼえている。
『母さんが私を殺した、父さんが私を食べた、妹のマルジョリーが、私の骨を一つずつ拾って、ハンカチに包んで、巴旦杏の根元に置いた。
キューット キューット キューット。きれいな鳥になったでしょう』。
この恐ろしい歌だけおぼえているのは、何度も読んできかされたからである。巴旦杏という木を子供の私は知らない。けれどもこの子は母親に殺され父親に食べられ、骨になって巴旦杏の根元に置かれたという。もう一度この本を見てたしかめなければならないと、何年か思いつめていたのは我ながら道理である。」
(山本夏彦著「『戦前』という時代」文藝春秋社刊 所収)