「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2006・07・15

2006-07-15 08:50:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日と同じ「模範家庭文庫」と題した昭和58年のコラムの一節です。

 「グリムお伽噺のなかでは、ほかに『忠義者のヨハンネス』『ラブンツェル』などをおぼえている。
 『母さんが私を殺した、父さんが私を食べた、妹のマルジョリーが、私の骨を一つずつ拾って、ハンカチに包んで、巴旦杏の根元に置いた。
  キューット キューット キューット。きれいな鳥になったでしょう』。
 この恐ろしい歌だけおぼえているのは、何度も読んできかされたからである。巴旦杏という木を子供の私は知らない。けれどもこの子は母親に殺され父親に食べられ、骨になって巴旦杏の根元に置かれたという。もう一度この本を見てたしかめなければならないと、何年か思いつめていたのは我ながら道理である。」

   (山本夏彦著「『戦前』という時代」文藝春秋社刊 所収)
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