「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2006・07・20

2006-07-20 08:10:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、石原吉郎(1915-1977)著「望郷と海」の冒頭にある「陸軟風」と題した詩です。

  陸から海へぬける風を
  陸軟風とよぶとき
  それは約束であって
  もはや言葉ではない
  だが 樹をながれ
  砂をわたるもののけはいが
  汀(みぎわ)に到って
  憎悪の記憶をこえるなら
  もはや風とよんでも
  それはいいだろう
  盗賊のみが処理する空間を
  一団となってかけぬける
  しろくかがやく
  あしうらのようなものを
  望郷とよんでも
  それはいいだろう
  しろくかがやく
  怒りのようなものを
  望郷とよんでも
  それはいいだろう    〈陸軟風〉

   (山田太一編「生きるかなしみ」ちくま文庫 所収)
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