目がさえて眠れず。ラジオをつける。NHK深夜便。藤沢周平の「海鳴り」が朗読されていた。紙問屋として功なった小野屋新兵衛が「俺の人生はこれでよかったのかな」と酒をやりながら同業と話しているくだりである。ビジネスで成功し、財もなしたが、妻との関係は冷え切り、跡継ぎの息子は遊び呆けてこころもとない。
藤沢作品との出会いはNHK金曜時代劇で「蝉しぐれ」を見たときからであったと思う。海坂藩下級武士の牧文四郎とおさななじみの隣家の娘おふくなどが主役の時代劇。理不尽な時代に翻弄されながら軸足をしっかりもっていきてゆく物語、水野真紀のたおやかで凛とした風情が最終章の蝉しぐれで男心を劇的にくすぐる。爾来、出張のたびに文庫本を買い求め書棚には直木賞の「暗殺の年輪」ほか44冊が並んでいる。団塊世代の心情をがちっと掴んだ藤沢時代劇をむさぼり読んだものだ。
で「海鳴り」上下巻再読。ビジネスで激烈な戦いのなかにある男にとってやすらぎはやはり心身共に和合する女との出会いである。新兵衛は同業のおかみ、おこうと300両を携えてすべてを捨てて江戸を出奔する。主張する女性、見返りを求めない奉仕など?の女性が増えた昨今、ないものねだりの男のロマンか。男の幸せをどのレベルで妥協すべきなのか。家もあり、特段の病気もなく、いくばくかの貯金もあり、趣味もある。幸せと思え!はい、そうですね・・・80まであと15年、ほんとにいいの?