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映画「エンドロールのつづき」:お母さん手作りのインド料理がお腹を鳴らすことは請け合える

ラストシーンで映画の歴史を形作ってきた名監督の名前が列挙される。ベルイマンやキューブリックなど世界中のあらゆる映画監督が挙げるであろう名匠が居並ぶ中,日本の映画監督として黒澤,小津と並んで「砂の女」や「他人の顔」を撮った勅使河原宏の名前が出てくる。世界に名を知られた日本人監督ということであれば老舗の映画祭で名を馳せた今村やフランソワ・トリュフォーも絶賛したという山中,更には再評価が進んでいる成瀬らが挙げられるのではという当方の勝手な予想を裏切って,1960年代半ばにATGを牽引した俊英でありながらも今となっては国内でも忘れ去られている状態に近い草月流三代目家元の名が挙がったのはサプライズだった。けれどもインドの田園風景を捉えた野外ショットに象徴される構図に凝った本作の画面づくりを反芻してみると,そうかと落ちるものもあった。本作の主人公である映画に恋した少年がそのまま成長して監督になったというパン・ナリンのシネフィルぶりが伺える幕切れが,本作最高のクライマックスかもしれない。

家族で行った超満員の映画館で観た,歌あり踊りあり,勿論アクションもありのインド映画に魅せられた9歳の少年サマイは,学校をさぼって映画館に忍び込むうちに映写技師ファザルと知り合いとなる。母さんが作ってくれる弁当(ガチ印度料理!)と引き換えに映写室から映画を観るうちに,サマイには「映画で観る人を喜ばせたい」という気持ちが芽生えきて,サマイは仲間と共にあることを始める。けれどもインドの片田舎にも新しい時代の波は押し寄せて来る。フィルムによる上映からデジタル上映に代わっていく中で,サマイにも旅立ちの時がやってくる。

フライヤーには「現代版『ニュー・シネマ・パラダイス』だ」という評が載っているが,まさにそのまんま。冒頭に記した通り,インド郊外の魅力溢れる風景と共に,映画に魅入られた少年の姿がヴィヴィッドに描かれている。ファザルとの間に成立する共犯関係と友情の描写も過不足なく,サマイを心配する教師の姿も実に頼もしい。二桁数字のかけ算を暗記している(都市伝説らしいが)とは思えないやんちゃな子供たちの様子も楽しく,アカデミー賞のインド作品候補になったというのも頷ける出来だ。
ただすべてにおいて予定調和の世界に終始する行儀の良さが,物足りない。「RRR」にあった予定調和を突き崩すとんでもないパワーを凌ぐものが,計算された構図からは伝わってこない。廃棄フィルムから作られたブレスレットの輝きが,お母さんの作るスパイスの効いた料理の吸引力に負けたことがすべて。「砂の女」を観直してみようかな,という気にはなったけれども。
★★
(★★★★★が最高)
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