劇中で「ワインスタインは彼を嫌っているスコセッシと打ち合わせだ」という内容の台詞が出てくる。暴力を人間の性のひとつとして描いた巨匠が,果たして「ギャング・オブ・ニューヨーク」や「アビエイター」で組んだ大物プロデューサーの何を嫌ったのか。「ハーヴェイ・シザーハンズ」とも呼ばれた身勝手な編集癖だったのか。本作で間接的に描かれているワインスタインの醜悪な人間性に対する本能的な嫌悪感だったのか。映画の筋には直接関係のない台詞ながら,そこから長年に亘ってハーヴェイ・ワインスタインと組んでいたクエンティン・タランティーノを筆頭とする何人もの監督の名前が浮かんできては,数多くの傑作の裏側に何があったのだろうかと邪推が広がってしまい実に困った。「#MeToo」運動の発端となったニューヨーク・タイムズ紙の記事が書かれるまでの記者たちを描いた「SHE SAID その名を暴け」は,オスカーに輝いた「スポットライト 世紀のスクープ」とは違った角度から,ジャーナリズムを支える真摯な人々の奮闘をヴィヴィッドに描いた秀作だ。
監督のマリア・シュラーダーは「アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド」で知られるが,NETFLIXの「アンオーソドックス」の方が彼女の資質をダイレクトに表現し得た代表作と呼ばれるに相応しいだろう。見合いで結婚した夫との厳格なユダヤ教に基づく生活から逃れてベルリンに渡った女性の姿を描いたミニ・シリーズは,緊迫感に溢れた展開で女性が置かれている過酷な現実を鋭く抉りだしてみせた。本作における二人の女性記者ミーガンとジョーイが,スクープを確かなものにするために繰り返す取材と家庭生活のバランスを取ろうと悩む姿は,その延長上にあるからこその重みを獲得している。被害に遭った女性に会っては,証言を拒まれる。その果てしない繰り返しが次第に画面に熱を運び,やがて「勇気」という名の出口から噴出するエネルギーは,理不尽な圧力に悩むすべての弱者の背中を押す力へと昇華していく。
記事として公表するに際して,内容を補完する証言を重視するのが編集トップではなく記者の方,というエピソードや,歴史的な公表が紙面の印刷ではなく,ウェブ版によるものだったという事実も興味深いが,アシュレイ・ジャッド本人の出演だけは,作品自体を少し違った角度にターンさせてしまったのでは,という違和感が残った。
そうした点を踏まえても,日本のメディアでの露出の少なさが残念に思える力作だ。
★★★★
(★★★★★が最高)
監督のマリア・シュラーダーは「アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド」で知られるが,NETFLIXの「アンオーソドックス」の方が彼女の資質をダイレクトに表現し得た代表作と呼ばれるに相応しいだろう。見合いで結婚した夫との厳格なユダヤ教に基づく生活から逃れてベルリンに渡った女性の姿を描いたミニ・シリーズは,緊迫感に溢れた展開で女性が置かれている過酷な現実を鋭く抉りだしてみせた。本作における二人の女性記者ミーガンとジョーイが,スクープを確かなものにするために繰り返す取材と家庭生活のバランスを取ろうと悩む姿は,その延長上にあるからこその重みを獲得している。被害に遭った女性に会っては,証言を拒まれる。その果てしない繰り返しが次第に画面に熱を運び,やがて「勇気」という名の出口から噴出するエネルギーは,理不尽な圧力に悩むすべての弱者の背中を押す力へと昇華していく。
記事として公表するに際して,内容を補完する証言を重視するのが編集トップではなく記者の方,というエピソードや,歴史的な公表が紙面の印刷ではなく,ウェブ版によるものだったという事実も興味深いが,アシュレイ・ジャッド本人の出演だけは,作品自体を少し違った角度にターンさせてしまったのでは,という違和感が残った。
そうした点を踏まえても,日本のメディアでの露出の少なさが残念に思える力作だ。
★★★★
(★★★★★が最高)