のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

嗤う伊右衛門/京極夏彦

2008年07月13日 17時37分49秒 | 読書歴
51.嗤う伊右衛門/京極夏彦
■ストーリ
 幽晦との境界が破れている。内部の薄明が昏黒に洩れている。
 ならばそこから夜が染みて来る。生まれてこのかた笑ったこともない
 生真面目な浪人、伊右衛門。疱瘡を病み、顔崩れても凛として正しさを
 失わない女、岩。「四谷怪談」が今、極限の愛の物語へと昇華する。

■感想 ☆☆☆☆
 不器用な男と不器用な女の愛の物語。
 読み終わって、人間が理解しあい、愛し合うことの難しさを思って
 切なくなった。当たり前のことだが、人間はみな異なる。その異なる
 人間同士がお互いを理解し、お互いの気持ちを伝え合うことは
 所詮、不可能なのだ。それでも、理解したい、気持ちを知りたい
 と思ってしまうのが愛情なのだろう。

 思えば思うほどすれ違ってしまう。思い合い、思い遣り合うことが
 ふたりの距離をどんどん遠ざける。その切なさが人間らしくて
 四谷怪談というおどろおどろしい物語の原型を見事に忘れることが
 できた。思いは言葉にしなければ伝わらない。けれども言葉にしても
 伝わるかどうかは分からない。それでも、誰かを愛さずにいられないし
 愛して傷ついたり傷つけられたりして生きてしまう。お岩さんと
 伊右衛門を身近に感じることができた一冊。
 機会があれば、本家本元の怪談としての四谷怪談を再読したい。

 日本語の美しさ、日本人の心情の細やかさ、そして日本人であれば
 説明されずともなんとなく理解できる愚かだけれど、いとおしい
 武士道精神の凛とした美しさ。そういったものを余すことなく
 楽しめる作品だった。

死神の精度/伊坂幸太郎

2008年07月13日 16時15分24秒 | 読書歴
50.死神の精度/伊坂幸太郎
■ストーリ
 「俺が仕事をするといつも雨が降るんだ。」
 クールで少しズレている死神が出会った6つの物語。
 音楽をこよなく愛し、素手で人間に触れることができない死神は
 一週間の調査のうちに、対象者の死に可否判断を行い、可と
 判断された人は8日目に死ぬ。

■感想 ☆☆☆☆
 千葉という死神が見た6人の人生。ぱっとしない若い女性から
 やくざに老女に殺人犯。業種様々な人たちが予期せぬ死を
 迎える(かもしれない)日までの一週間を描いた連作短編集。

 密室殺人事件風の物語あり、恋愛小説風の物語あり、
 ロードノベル風の物語に人間ドラマ風、サスペンス風と
 物語の形態も様々。一冊で様々な物語を楽しむことができる。

 「人間に興味はない。仕事だからだ。」
 とクールに言い放つ死神が人間に関わり、人間の暖かい一面を
 さらりと見せてくれる。勿論、死神はどんな人間と関わっても
 人間に対して興味を持ち始めることはない。けれども、彼を見ていると
 彼が人間に思い入れも期待もしていないからこそ、人間の予期せぬ面を
 見ることができるのではないか、と思えてくる。

 小難しいことは何も考える必要はない。一編一編を楽しみながら
 読み進めていくと、最後にちょっとした感動を味わうことができる。

オーデュボンの祈り/伊坂幸太郎

2008年07月13日 15時58分43秒 | 読書歴
49.オーデュボンの祈り/伊坂幸太郎
■ストーリ
 コンビニ強盗に失敗した伊藤は、警察に追われる途中で意識を失い、
 見知らぬ島で目を覚ます。仙台沖に浮かぶその島は150年もの間、
 外部との交流を持たない孤島だという。そこで人間たちに崇拝されて
 いるのは、言葉を話し、未来を予知するというカカシ「優午」だった。
 しかしある夜、何者かによって優午が「殺害」される。
 なぜカカシは、自分の死を予測できなかったのか。
 「オーデュボンの話を聞きなさい」という優午からの最後の
 メッセージを手掛かりに、伊藤は、その死の真相に迫っていく。

■感想 ☆☆☆
 未だに「ハズレ」に出会ったことがない伊坂作品。
 文庫本を見かけるたびに買ってしまう作家だ。
 その伊坂さんのデビュー作。デビュー作だからなのか、
 単に私の好みではなかったのか、いつもほどの魅力を感じなかった。
 しかし、デビュー作にして、既に伊坂らしさ満載となっている
 作品で、そこに感嘆した。

嘘つきの画家や体重300キロのウサギ、島の規律として殺人を
 繰り返す男「桜」。そして、島でもっとも信頼されているカカシ
 優午。ファンタジー作品と言われても仕方がないような不思議な
 設定の登場人物たちが住むこの島は、不条理な世界だ。
 その世界にまったくもって「普通の」現実世界から連れてこられた
 伊藤がふたつの世界をつなぎ合わせていく。
 読みながら展開も結末もまったく予測がつかず、この作品に
 作者はどういった結末を与えるのかを必死で考えながら読み進めた。
 早く「結末」が知りたい、と思いながら、必死で読み進めたが
 読み終えて、不思議な読後感を味わった。

 謎がとけてすっきりしたような、謎は依然として残ったままで
 狐につままれたような、そんな相反する感情を抱え、呆然とした。
 結末は与えられる。作品で唯一、まがまがしい存在感を放つ警察官に
 与えられる結末を読んだときには、鳥肌が立つほど爽快感を味わった。
 しかし、釈然としない思いがどうしても残ってしまう。
 殺された優午は戻ってこない。彼が殺された理由がとても人間らしく
 同時に、人間を超越したものっぽい。

 小説をジャンルわけすることの難しさを思わされる一冊。

花も嵐も―女優・田中絹代の生涯

2008年07月13日 15時37分58秒 | 読書歴
48.花も嵐も―女優・田中絹代の生涯
■内容
 『愛染かつら』『西鶴一代女』『雨月物語』など数々の名作に出演、
 「大女優」の名をほしいままにした銀幕のスター・田中絹代。
 清純派から演技派へと脱皮し、後には老いと戦いながらも死ぬまで
 演じ続けた絹代の凄絶な生涯は、激動の昭和史そのものだった。
 独身をつらぬき「映画と結婚した」絹代の生涯を精緻に描いた
 評伝小説の労作。

■感想 ☆☆☆☆*
 身近なテレビタレントが親しまれている現代とは対照的に
 銀幕のスタアが庶民に夢を与えていた時代。
 「庶民的」な芸能人に人気が集まる現代でさえ、テレビや雑誌で
 活躍している芸能人たちと「一般人」の間には隔たりがあるように
 感じる。隔たりがあるから、芸能人に憧れるのだろう。
 しかし、映画草創期。
 女優や役者は憧れられ、庶民に夢を与えながらも、
 かたぎの仕事ではないと蔑まれていた。
 そして、映画の栄光期。
 女優や役者は名実共に「スタア」となり、庶民の憧れとなる。
 その時代を映画と共に生き、映画に人生を捧げた田中絹代という
 生き様に魅せられた。

 すべてをかけて、ガムシャラに生き、女優として多くの男性や女性に
 愛された田中絹代。お嬢さん女優と言われながら「美人ではないが」
 という修飾詞をつけられ続けた田中絹代。名実共に「演技派女優」と
 なり、海外の映画賞を多く受賞した田中絹代。一転、週刊誌や
 映画界に総すかんをくらい、「老いぼれ」と批判された田中絹代。
 家族の愛情に飢え、家族にすべてを捧げ、死ぬまで兄弟姉妹を
 支え続けた田中絹代。

 「田中絹代」という女優の名前は知っていたが、
 彼女の出演している映画も彼女の演技も見たことがなかった。
 何が代表作なのかも知らなかった。それでも名前を知っている。
 それほど、名が残っている偉大な女優。映画界への貢献者。

 スタアと呼ばれた人たちがいかに多くの犠牲を払っていたか
 スタアであり続けるために、どれほどの努力を捧げていたのか
 スタアと呼ばれ、多くの人に羨ましがられながらも、どれだけ
 孤独と戦っていたのか、そういったことがつぶさに描かれている
 評伝だった。人生はプラスマイナスゼロ。プラスが大きければ
 大きいほど、マイナスも大きい。結局のところ、人生の終始決算は
 みな平等、という私の常日頃の思いを裏づけするような内容だった。

 毅然とした態度で、自分の仕事に誇りを持ち、そして役者という仕事に
 人生を賭けるほどの魅力を感じていた田中絹代。「お嬢さん女優」と
 言われていた彼女の男らしい生き様は、時代を感じさせないかっこよさ
 がある。だからこそ、彼女は今も名をとどめているのだろうと思った。

Around40

2008年07月13日 01時43分27秒 | 日常生活
■Around40~注文の多いオンナたち
■のりぞう的2008年度春クール1位
■金曜22時フジテレビ放送
■出演:天海祐希、藤木直人、大塚寧々、松下由樹、筒井道隆

■ストーリ
 緒方聡子は39歳の独身精神科医。仕事にはやりがいを感じていて、
 一緒に遊ぶ親友もいる。しかし、親友はある日、仕事に行き詰まりを
 感じて、突然、結婚してしまう。もうひとりの親友は既に結婚して
 家庭を築いており、「孤独」を感じるようになる聡子。そんなある日、
 彼女の病院に、エコに異様なまでに執着する男、岡村恵太朗が心理
 カウンセラーとして働き始める。

■感想
 最近、ドラマで見かけるたびにワタクシのツボを刺激する役を
 演じている藤木さんに惹かれて見始めたこのドラマ。
 当初はまったく期待していなかったのに、終わってみれば一番楽しんで
 見ていたドラマになっていました。
 ワタクシ、まだアラサー世代だというのに、なぜかアラフォー世代の
 登場人物たちの言葉にいちいち共感してしまいました。
 世代に関係なく、女性って同じようなことで悩んでいるんじゃないかな。

 社会変化に伴い、女性は色々な生き方を選択することができるように
 なったけれど、色々と選べるからこそ、迷いも増えるんじゃないかな。

 主役の天海姐さんは、今回もかっこいい役でした。
 自分の仕事に誇りを持って働いているオトナのオンナ。
 「後で後悔するかどうかより、今、後悔しない道を選びたいの。」
 最終回で彼女が放った言葉の爽快さに胸がすっとしました。

 でも、なんといっても好きだったのは藤木さん。
 最近、見かけるドラマ、見かけるドラマで、ワタクシ好みの役。
 今回もかっこよかったなー。
 思わず「年下の男性もいいかも」と思いそうになりましたもの。
 ・・・藤木さんは、年上だっつーに。
 欲や地位とは無関係の筒井さんも素敵でした。
 誠実そうな外見にぴったり。

 ちょっぴり駆け足のストーリ展開で、駆け足故に、
 話はあっさりと解決していきます。時には
 「え?!そんな説得で、あっさり解決?!」
 と思ってしまう箇所も。
 それでも主要登場人物4名はひとりひとり丁寧に描かれていて、
 いつのまにか4人のことを自分の友人を見守るような親近感をで
 見守っていたドラマでした。
 なんか好きだなー、と思っていたら、脚本家が橋部敦子さん。
 そりゃ好きなはずだ。納得。