太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

2015-11-26 21:02:30 | 日記
同僚が、車を買うためにお金を貯めているのだという。

中古のシビックに乗っているのだが、欲しい車があって、お昼を93セントのタコスにしてまで

貯金にはげんでいる。

「シビックだっていい車じゃないのさー」

と言ったけれど、私は彼の気持ちはわかる。



二十歳で免許をとって、最初の車はホンダの青いシビックだった。

学生のときに親がかりで免許をとる友人がほとんどだったけれど、

当時勤めていたテレビ局の近所に教習所があって、仕事のかたわら自分で免許をとった。

成人式の晴れ着を買うなら車のほうがいい、と親に言って買ったのがシビックだった。

頭金だけ出してもらったのだったか、全部なのかはもう忘れた。

着る機会のない晴れ着よりも、毎日乗れる車のほうがずーっといいに決まっているから

私の決断は正しかったと思う。


とても調子のいい車だったけれど、3年もしたらドアの内側の布がべらべらと剥がれてきた。

それが別にすごく不満というわけでもなかった。

でもある日、なぜか父と二人で出かけることがあって、国道沿いの車のディーラーに立ち寄った。

そこで見た1台の車に、私は心を奪われてしまった。


シトロエン。

それまで聞いたこともないメーカーだった。

真っ赤なシトロエンは、ちょうどシビックぐらいの大きさで、

「買って、買って」と私に呼びかけていた。

難点は左ハンドルで、ギアがオートマチックではないこと。

メーカーの人によれば、この先オートマチックが出ることはないという。

父に、この車が私を呼んでいる、と言うと、

「いい車だなー、買えば?」

とあっさり言った。

欲しい車を買いたい気持ちが、世界一わかるのは父だ。

保守的な祖父と、何度ちゃぶ台をひっくり返す勢いで喧嘩をしていたことか。

それに、私はもう仕事をしていたから、どうせ払ってゆくのは私であって

父には関係がない。

父は自分も運転席に座り、トランクをあけ、子供のようにはしゃいでいた。



で、私はその赤いシトロエンを買った。

月々の支払いは気が重かったけれど、毎日うれしくてたまらなかった。

左ハンドルも、左マニュアルシフトも、じきに慣れた。


でも、シビックのようにはいかなかった。

高速道路では、まだ左ハンドル用のチケットブースはなく、人が手渡ししていた。

チケットを受け取るには右側の窓をおろして、身を乗り出して受け取らねばならない。

ところが、時によって窓があかなくなる。

そうすると、一度降りて、歩いてチケットを受け取ることになる。


窓が開かないなんてのは日常で、

エアコンが壊れる。

ラジオが聞こえなくなる。

ちょっと遠出をしたときは、調子よく走っていたのが突然

「ぷすー」

といったまま動かなくなり、最寄のシトロエンに連絡して、お世話になった。




私のようなメカオンチは、ほんとはこういう車に乗るべきじゃない。

でも、乗りたいと思ったときに、若気の至りで買ってよかったと思う。

今はもう、そういうカッコだけの車に乗りたいとは思わなくなってしまった。


シトロエンには3年以上乗った。

そのあとは結婚して、相手の趣味で車を買った。

トヨタのマーク�から始まって、何台かトヨタに乗り、

離婚する数年前からベンツになって、家出をした私が乗ってきたベンツが、

そのまま慰謝料になった。(ていうか、勝手に売って慰謝料にしたんだけど)




今の車は、トヨタが北米向けに出しているブランドのサイオンで、

トヨタのBBが原型になっている。

白くて、お豆腐みたいでかわいいし、視界が広い。

久しぶりに、私がいいなと思う車に乗ったなあ、と思う。

出かけるたびに「サイオンちゃん、今日もよろしくー」と声をかける。



だから、同僚は彼が欲しい車を買えばいい、と思う。

ましてや2シートの車なんか、若いうちか、引退してからかしか買えない。

まだ20代だし、独身だし、お昼がタコスでも、ぜーんぜんなんてことない。

若さっていいなあ、と、こんなときは思う。






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