太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

「LION」

2023-03-29 08:03:59 | 勝手な映画感想
映画を観て泣いたのは久しぶりだ。
夫が泣いているのをみたのは、もっと久しぶり。
悲しい涙は好きじゃないが、感動の涙なら泣くのもいい。


「LION」は2017年公開のドキュメンタリー映画だ。
DVDのカバーを見ると恋愛ものに見えるけれど、そうではない。


インドの片田舎に住む、母親と、息子二人と娘一人の貧しい母子家庭。
母親は石を運んで生計をたてている。
長男グッドゥが汽車に乗って仕事に行くのに、次男サルーはどうしても着いていくと言い張る。
グッドゥは16歳ぐらいで、サルーは5歳。
幼すぎるからダメだと言うグッドゥに、サルーはすがりついて、渋々連れていくことにする。
目的地に着いても、サルーは眠くて起き上がれず、仕方なしに駅のベンチにサルーを寝かせたまま、「この場所を絶対に離れるな」と言い置いてグッドゥは仕事に行く。
夜中に目が覚めたサルーは、グッドゥを探して誰もいない駅のホームを歩き回り、ふと乗ってみた止まっていた無人の汽車が走り出した。
汽車は延々と走り続け、カルカッタでようやく停車した。
人でごった返すカルカッタに、5歳のサルーは一人きりで放り出された。
紆余曲折あって、サルーはオーストラリアの夫婦の養子となる。


これは、サルー本人が書いた本を映画にしたもの。
いろいろ書きたいけど、ネタバレになってしまうのでやめておく。
インドでは年間8万人の子供が行方不明になっているのだという。サルーはまだ40歳ぐらいで、この話もそう昔のことではない。
警官が、サルーに母親の名前を聞く場面がある。
「お母さんの名前は?」
「ママ」
住んでいた町の名前を言っても、誰も知らない。ずっとあとになって、耳で聞いて覚えた町の名前と、本当の名前が微妙に違っていたことに気づく。
5歳の子供が母親の名前を知らなくても、住んでいる町の名前を正しく言えなくても、無理はないと思う。


なんという人生だろう。
サルーを養子にしたオーストラリア人の夫婦。
世界には助けを必要としている子供たちがたくさんいて、彼らは自分たちの子供をもつことよりも、そういう子供を育てることを選んだ。
養母は、サルーが家に来た最初の日、お風呂に入っているサルーに向かって、彼のわからない英語で話しかける。

「あなたはとてもとても辛いことを体験して、ここに来たのよね。
いつか、あなたの準備ができたら、あなたに何が起きたのかを全部私に話してね。私はいつだってそれを待ってる」

私の身近にも、人種の違う子供たちを育てている人たちがいるけれども、私などには到底想像も及ばぬ種類の愛を持つ人たち。
養母はもう一人、インドから子供を養子にするのだが、彼はトラウマから精神が不安定な難しい子供だった。
無償の愛、というけれど、私にそんなものがあるのだろうかと思ってしまう。