姉から唐突なLINEが来た。
「シロちゃん、佐野ピーって知ってったっけ?」
脳内記憶から、私の知る「佐野」さんを捻りだす。
父の会社に佐野さんという、ちょっと変わった人がいたけど、姉は知らないだろう。
中学高校時代の吹奏楽部の佐野さんなら、同じ吹奏楽部だった姉でも知っているが、私たちは佐野ブーと呼んでいた。姉たちの学年内では佐野ピーだったのか?
「吹奏楽の佐野ブーなら知ってる」
その佐野ブーがどうしたというんだ。
とても勉強ができる子で、浜松医大にいったはず。
すると意外な答えが返って来た。
「板金屋さんの佐野さんは知らないか」
板金?
「お父さんの知り合いで車のチョイ傷なんかでウチはすごくお世話になってるんだけどね。人のいいおじいさん」
板金。板金・・・・・佐野板金!
そういえば昔、車の傷を直しに父と行ったことがあった。
その佐野さんが、突然亡くなってしまったのだそうだ。
「94だから長生きしたんだけど、この前まで元気に仕事していたから驚いちゃって。お風呂で突然死らしいよ。とてもいいおじいさんだったから寂しい。昨日、〇〇(義兄)さんとお通夜に行ってきた」
私は顔も覚えていないけど、姉は父が亡くなったあともずっとお世話になっていたのだな。
そのおじいさんが「佐野ピー」だとは。
佐野ピーと親しく呼ばれるような人柄だったんだろうなあ。
それにしても、この前置きも何もない唐突な会話の始め方は遺伝だろう。
頭の中でダラダラと考えていることを、突然、目の前の相手に聞いたりするのは私の悪い癖。
姉も、好きだった佐野ピーが亡くなって、そうだ、シロちゃんにも教えなけりゃ、と思い、いや待てよ、佐野ピーのこと知ってるかな、知ってるよね、一応聞いてみよう。
という前置きが頭の中であったのだと推測。
みんなに愛された佐野ピーは、アッチで父に会っているだろうか。