カリフォルニアからシュートメの親友が来ることになっており、
彼女が到着する土曜日の夜、カイルアのレストランを予約してあった。
土曜日、仕事から帰宅し、予約に間に合うように急いで支度をしようとしていると、夫が言った。
「急がなくていいよ。両親は先に出かけたし、ローリー(シュートメの親友)はいないから」
「え、ローリー、来なかったの?」
「来たよ。来て、荷物も降ろした。でもそのあとで、ママと喧嘩になって、ママは怒りにまかせて車に乗ってすごいスピードで出かけちゃうし、ローリーは、カリフォルニアに帰ったのかどうか、ここにはいない」
「なんだよ、それ・・・」
「まったくワケがわかんない。あの人(シュートメ)は精神科を受けたほうがいいと思う。
何があったか知らないけど、僕は何も聞かないし、知りたくもない」
ローリーは20年前までハワイに住んでいて、シュートメとは45年来の親友だ。
頻繁に連絡をとりあい、会いに行ったり、会いに来たりもしていて、家族ぐるみの友人だ。
レストランの予約の時間に少し遅れて行くと、義両親は既にテーブルについており、にこやかに手を振っている。
「さあ、何を食べましょうね」
まるで何もなかったかのように、平和に食事が続く。
そこにローリーがいないことに、誰も何も言わない。
私の心の中では、「なんなの、これ、いったいなんだっての」という思いが渦巻いている。
とうとう最後までローリーの「ロ」の字も出ないまま、食事を終えた。
誰も何も気づかないようなふりをしている、この不自然さといったらどうだろう。
ローリーは、どうしているのだろうか。
ホテルでもとったのだろうか。
一人で、どんな気持ちでいるのだろうか。
お口直しに、レストランから見えた素敵な満月。
この日の満月は、見るのが眩しいほどだった。