原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

組織論における「パワー」概念

2007年11月19日 | 学問・研究
 組織論に「パワー」という概念がある。この場合の「パワー」とは、個人ないし集団が相互に行使するあらゆる種類の影響を意味する。 Max Weber は、「パワーとは行為者が社会関係の中で抵抗を排除してでも、それが依拠する基盤が何であれ、自己の意思を貫徹する立場にある可能性である。」と定義している。 Blau は、このWeber の定義を拡張して「パワーとは、定期的に与える報酬を差し止める形態をとろうと、罰の形態をとうろと、脅かすことで抵抗を排除してでも、人々あるいは集団がその意思を他者に強いる能力である。」としている。
 「パワー」を一種の心理的力として、個人間の相互作用におけるその潜在性の側面を強調する立場もある。French=Raven は「パワーとは与えられたシステム内で集団ないし他人に影響を与える潜在的な能力である。」と定義する。
 「パワー」の定義は多様であるがこれらの定義に一致していることは、パワー現象は二人あるいはそれ以上の人々の相互作用という複数の状況のみに生起することであり、社会的行為者間の関係においてのみ意味のある概念であるとしていることである。

 上記のFrench=Raven は、潜在力としての「パワー」を“報償的パワー”、“強制的パワー”、“正当的パワー”、“同一的パワー”、“専門的パワー”の5類型に細分化した。この「パワーの5類型」は学説としては認められていないようだが、興味深い考え方であるのでここで紹介しよう。
 例えば、この「パワーの5類型」を教師の生徒に対する教育指導に当てはめてみると、“報償的パワー”とは生徒に対する正の評価の付与、“強制的パワー”とは同じく負の評価、処罰の付与、“正当的パワー”とは教師の地位、権限の行使による指導、“同一的パワー”とは教師の人格による生徒との信頼関係の確立、“専門的パワー”とは生徒への学術指導等専門的情報の提供、以上のように操作化できると思われる。
 これらのうち、いかなる「パワー」がいかに行使されるかは組織目標達成に決定的影響を与える。しかしながら、最適な「パワー」の分布と行使は組織環境や組織構造の影響を受ける。すなわち、上記の教師の例の場合、教師の行使する「パワー」は結果的に所属する学校の校風創出に影響を与えるであろうし、逆にその学校の教育理念は教師が行使するべき「パワー」を決定するであろう。
 教師の資質としての理想型は、これら五つの「パワー」をバランスよく備え、条件適合的にそれらの「パワー」を行使し得ることであろう。しかし、そのような理想型の人材は存在し得るすべはなく、ひとりひとりがいずれかの「パワー」を偏在させているのが現実であろう。そこで、組織はそれら偏った人材をバランスよく確保することにより組織全体の均衡を保ち、組織目標達成を可能とするのであろう。学校現場における多様な人材の確保は、多様な個性をもつ生徒への対応という点でも有効である。ただ、組織が確固たる理念や風土を既に創り上げている場合においては、組織成員個々人のもつ資質や信条との間に齟齬が生じ、両者の間にコンフリクトが発生し、組織からの逸脱を企てる成員も生じるであろう。

 以上、原左都子自身の教員経験も交えつつ私論を展開したエッセイである。

 さて、皆さんはいかなる「パワー」をお持ちでしょうか? あなたがお持ちのその「パワー」が周囲に影響を及ぼし、世界をも動かしているのかもしれませんね。
 

 参考文献 : 野中郁次郎他著「組織現象の理論と測定」1989年
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