礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

正しく強く伸びて行く(生活社・日本叢書)

2020-12-21 01:53:08 | コラムと名言

◎正しく強く伸びて行く(生活社・日本叢書)

 昨日の話の続きである。日本叢書の第五四冊、潁原退蔵著『明惠上人』は、本文とは別に、「表紙・ウラ表紙」が付いている。その紙質は、本文よりは、少しだけ良い。
 表紙は黒赤の二色刷りである。赤色の子持ち罫で囲まれた中に、次の文字がある。

 日 本 叢 書 五四
 明 惠 上 人  潁 原 退 蔵
          生 活 社 刊

 表紙見返しに、次のような言葉がある。改行は、原文のまま。

  わ れ わ れ を 生 み 育 て て く れ
た 日 本 こ の 日 本 の よ い と こ ろ
を も つ と よ く 知 り、  良 く な い
と こ ろ は お 互 い に 反 省 し、  す
ぐ れ た も の の 数 々 を し つ か り
と 身 に つ け、  ど ん な と き に も
ゆ る が ず ひ る ま ず、  正 し く 強
く 伸 び て 行 く、  も と と な り 力
と な る、  そ ん な 本 を つ く り た
い。

 日本叢書が発刊された当初は、「大きく強く伸びて行く」だったが、ここでは「正しく強く伸びて行く」となっている。いつから、そう変わったのかは、まだ確認していない。
 このあとの本文一ページ目に当たるところに「扉」があって、カットの下に、「明惠上人」、左下に小さく、(カット 児島善三郎)とある。
 本文三二ページ目のところには、昨日、紹介したように、既刊の一覧が載っている。
 ウラ表紙見返しには、近刊予告が載っている。この紹介は、次回。

*このブログの人気記事 2020・12・21(10位の千坂兵部は久しぶり)

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「日本叢書」第1冊から第53冊までのタイトル

2020-12-20 01:23:41 | コラムと名言

◎「日本叢書」第1冊から第53冊までのタイトル

 だいぶ前のことになるが、当ブログで、「日本叢書」第一冊から第三一冊までのタイトルを紹介したことがある(2013・5・2)。
 今、机上に、日本叢書の第五四冊がある。潁原退蔵(えばら・たいぞう)著『明惠上人(みょうえしょうにん)』である。一九四六年(昭和二一)三月二〇日発行、定価一円五〇銭。
 本文三二ページで、表紙・ウラ表紙を入れると三六ページ。本文三二ページ目のところに、既刊の一覧が載っている。本日は、これを紹介してみたい。
 
1 霜柱と凍上     中谷宇吉郎 
2 血液型       古畑 種基 
3 郡司成忠大尉    高木  卓 
4 雨ニモ負ケズ    谷川 徹三 
5 寒さと人間     柳  壮一
6 すまひの伝統    岸田日出刀 
7 芭蕉と紀行文    小宮 豊隆 
8 四季の気象     荒川 秀俊 
9 日月明し      亀井勝一郎
10 散り散らず     船橋 聖一
11 桜田門外      田中 英光
12 科学の芽生え    中谷宇吉郎
13 万葉時代の社会と思想 阿部 次郎
14 万葉人の生活    阿部 次郎 
15 赤門回顧      入澤 達吉
16 模糊集       松枝 茂夫
17 独創について    緒方 富雄他
18 茶の美学      谷川 徹三
19 若菜頌       栃内 吉彦
20 長安汲古      石田幹之助
21 山荘記       野上弥生子
22 若き学徒に告ぐ   富塚  清
23 若き女性に告ぐ   富塚  清
24 寸歩抄       川田  順
25 山嶺の気      堀口 大学
26 山ざと集      室生 犀星
27 鎌倉文化      呉  文炳
28 菅原道真      上司 小剣
29 抒情詩抄      西条 八十 
30 ぎりしあの小説   呉  茂一
31 日本文化発展のかたちについて 木村素衛
32 愛国心について   田中美知太郎
33 続山荘記      野上弥生子
34 明治回顧      大類  伸
35 浮世絵全盛時代   高橋誠一郎
36 これやこの     久保田万太郎
37 世界民の立場    恒藤  恭
38 夢日記       藤森 成吉
39 女性新訓      大森 洪太
40 読書について    谷川 徹三
41 農の理法      寺尾  博
42 ウエルズと世界主義 土居 光知
43 始皇帝其他     加藤  繁
44 歴史を学ぶ     原  随園
45 考へるといふこと  谷川 徹三
46 日本労働運動の序幕と展望 平野義太郎  
47 鏡花縁の話     松枝 茂夫
48 ざくろの花     桑原 武夫
49 万葉集より     佐佐木信綱
50 麦刈の月      尾崎 喜八
51 日本の英学     福原麟太郎
52 パスカルの観た人間 後藤 末雄
53 関ケ原夜話     尾崎 士郎

*このブログの人気記事 2020・12・20(8位に極めて珍しいものが入っています)

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雪は氷の粒と水分と空気からなる(中谷宇吉郎)

2020-12-19 03:11:11 | コラムと名言

◎雪は氷の粒と水分と空気からなる(中谷宇吉郎)

 中谷宇吉郎『霜柱と凍上』から、「雪と戦争」という文章を紹介している。本日は、その三回目(最後)。

 雪の性質は気温によつて著るしく異る。内地のやうな湿雪と北海道の粉雪とでは、その力学的性質が全く別のものとなつてしまふ。いはんや樺太〈カラフト〉へ行けばその機械的処理といふ点では雪の概念をすつかり変へなければならない。
 その上雪質〈セキシツ〉は気温ばかりでなく風によつても著るしい変化を受ける。風速は凍死や凍傷の問題において重要な要素となる所謂体感温度にも著るしく効いて来るが、この方は大分沢山の研究があつて、大体の見当はついてゐる。しかし雪質に及ぼす風の影響は、まだ余り無いやうである。雪質の問題が片付かねば、雪上機動の問題は少くも科学的には永久に片付かないであらう。
 雪といふものは、一般には氷の粒と水分と空気との雑つた〈マザッタ〉ものである。この三者の割合の差によつて、その性質は千差万別となる。非常に寒い時には水分はないが、寒さの度によつて、氷の粒同士の附着力が異るので、同じ粉雪といつてもやはり色々な性質の差が出て来る。
 粉雪の力学的性質といふものが、既に未解決の問題であるのに、雪には砂や一般の粉とちがつて、圧縮されるといふ厄介な性質がある。従つて雪による各種障碍の科学的解決を本当にやらうと思へば、何十年といふ年月を要するであらう。しかし科学的研究の有難味〈アリガタミ〉は、一年でも二年でもやればやつただけの効果がある点にある。
 飛行場の圧雪の問題や、橇の問題などが、今日どの程度まで解決されてゐるかは分らないが、我が国においてなされた粉雪が固まる機構の物理的研究や橇滑走の理論が、何等かの程 度までその役に立つてゐることは十分想像されるであらう。飛行機となると、寒さの問題はもはや北方とか冬とかといふことも無関係になる。高い所は何時でも寒いからである。アメリカが高々度飛行に移る前に、着氷の研究に厖大な施設をし金をかけたのは当然のことである。しかし現在アメリカ空軍で採用してゐるグツドリツジ式除氷法は、大型機にしかつけられないといふ欠点がある。これに対して我が国でも勿論研究は為されてゐる。雪や寒さの研究は、困難ではあるがさう恐れるべきものでもない。そして本式にさへ進めば、やればやつただけの効果の挙がるものなのである。(北海道帝国大学教授。理学博士・低温研究所員)

 中谷宇吉郎著『霜柱と凍上』は、生活社の「日本叢書」の第一冊である。「日本叢書」については、以前、このブログで、「叢書刊行の趣旨」にあたるものを紹介したことがある。その時は、その第二冊、古畑種基著『血液型』の三二ページにあったものを紹介したが、ここで改めて、『霜柱と凍上』の三二ページから引用しておこう(改行は原文のまま)。

 われわれを生み育ててく
れた日本 この日本のよい
ところをもつとよく知り 
良くないところはお互いに
反省し すぐれたものの数
々をしつかりと身につけ 
どんなときにも ゆるがず
ひるまず 大きく強く伸び
て行く もととなり力とな
る そんな本をつくりたい

 七行目の「どんなときにも」という言葉は重い。発行者は、すでに「敗戦」を意識していた見るのが妥当であろう。

*このブログの人気記事 2020・12・19(なぜか1位に穂積八束)

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寒地作戦と積雪地作戦を混同してはいけない(中谷宇吉郎)

2020-12-18 01:15:22 | コラムと名言

◎寒地作戦と積雪地作戦を混同してはいけない(中谷宇吉郎)

 中谷宇吉郎『霜柱と凍上』から、「雪と戦争」という文章を紹介している。本日は、その二回目。

 その点について、一番大切なことは、寒地作戦と積雪地作戦とを混同しないことである。この両者は同じ北方作戦ではあるが、その性質は根本的に異るのである。もしこの両者を混同する人があれば、それは同じ南方作戦だからと言つて、密林作戦と沙漠作戦とを一緒にするやうなものである。
 非常に寒い雪の少い満洲と、寒くて雪の多い樺太と、雪は多いが暖い千島とでは、まづ生活様式から全然異るべきである。いはんやそれ等の土地で機動をなし、各種の施設をし色々な機械を使ふ場合には、その準備に著しい差異のあるべきは当然である。寒さと雪とは別の問題である。寒さによる障碍も勿論困難な各種の問題を提出するが、雪による障碍はそれとは全然質の異つたものである。
 二三の例を挙げれば、厳寒地の装備は十分防寒的でなければならないが、積雪地ではむしろ軽装である必要がある。厳寒地の飛行場では凍上の問題さへ解決しておけばよいが、積雪地では、それよりも除雪の問題が致命的である。或は車輪で飛ぶか橇〈ソリ〉によるかといふ恐らく作戦範囲をすら決定すべき問題がある。機動及び輸送についてみても厳寒地では油の問題と鉄の低温性とさへ解決すれば略〈ホボ〉すむ話であるが、積雪地では雪上運搬の機械化といふ新しい問題に遭遇する。雪上自動車にしてもプロペラ橇にしても、なかなか一朝一夕に片付く問題ではない。
 ところで我が国の場合に一番厄介なことは、寒さも雪の量も広い範囲に亘つて変化してゐることである。前に挙げた北満と樺太と千島との例について、先づ寒さを比較してみよう。「理科年表」から、十二月、一月、二月の三箇月の平均気温を拾つてみると、樺太の敷香〈シスカ〉は零下一四・九度、千島の紗那〈シャナ〉では零下四・九度、北満の斉斉哈爾〈チチハル〉では零下一八・一度である。この同じ三箇月の平均気温が、ベルリンでは〇・四度、モスクワでは零下八・七度に過ぎない。僅か九度の気温の差が、精鋭無比のドイツの科学化軍隊にあれだけの惨澹たる苦戦を嘗め〈ナメ〉させたのである。
 我が北辺防備の問題を広い眼でみれば、千島から北満にかけて、気温の上で既にベルリン、モスクワの二倍近い幅がある。更に積雪量の目安として、降水量を同じ表からみると、紗那の一箇月八三ミリに対し、斉斉哈爾は僅か三ミリに過ぎない。積雪量から言つても気温から言つても、これだけの広い幅がある。この両者が色々な割合で混じて来る場合のことを考へてみると、その対策の困難さも思ひ知られるであらう。【以下、次回】

*このブログの人気記事 2020・12・18(10位に珍しいものが入っています)

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中谷宇吉郎の「雪と戦争」(1945)を読む

2020-12-17 01:59:00 | コラムと名言

◎中谷宇吉郎の「雪と戦争」(1945)を読む

 一九四五年(昭和二〇)四月に、生活社が刊行を開始した「日本叢書」というシリーズがある。
 その第一冊は、中谷宇吉郎(なかや・うきちろう)の『霜柱と凍上』である。全三二ページ、定価五〇銭。
 その二九ページから三一ページにかけて、「雪と戦争」と題する短い文章が載っている。本日はこれを紹介してみよう。内容から見て、一九四五年(昭和二〇)の初めごろに書かれた文章ではないかと思われる。

雪 と 戦 争

 今年の冬は何十年振りの大雪であつた。寒さも勿論厳しくて、平均気温を見ても、十二月のうちに既に昨年の最低気温を突破した所も沢山ある。
 今年は雪が何故多かつたかといふことは、二三の気象学者にきいてみたが、本当のことはよく分らないらしい。もちろん北極地方から出て来る冷い大気の異常現象によるには違ひ ないが、その方面の気象がよく分らないめであらう。北半球の比較的高緯度に近い地方の冬の気候条件は、結局は北極の気象を究めなければ分らない。
 ソヴイエート政府は早くからその点に着目して北極の気象の研究には随分力を入れてゐる。昭和十二年〔一九三七〕五月、ソ連の政府はパパーニン外三名の学者を飛行機で北極に運んだのである。四台の飛行機は北極の浮氷の上に着陸し、これ等四人の学者が一年間北極の氷の上で生活し、気象の観測と通報とを完全に続け得るだけの衣食住の資料と研究用具とを無事届けて帰つて来た。その飛行機が無事任務を終つてモスコーに帰還した日から十二日目に、蘆溝橋事件が起きたのである。
 雪、氷、低温に関するソ連の研究は、この時に始つたものではない。レーニンが政権を得た直後、また国内では到る処で白系軍との戦〈タタカイ〉が続いてゐた頃、先づ作つたものは、北極並に低温科学一般に関する研究であつた。大正九年〔一九二〇〕の尼港〈ニコウ〉事件〔ニコラエフスク事件〕といへば旧い〈フルイ〉昔の話であるが、その前年〔一九一九〕ぐらゐから既に低温の研究が国策として始められてゐたのである。盟邦ドイツが今日の苦境に陥つた主な原因は、ソ連の低温の克服によるシベリア開発を見落したこともその一つであらう。勿論直接には雪と氷の世界ではドイツが世界に誇る科学兵器も殆ど無力であつたことに帰する。
 今年のやうな大雪の年に、もし北方で大規模な戦闘が行はれたとしたら、どういふ問題が起るかといふことも一応考へておく必要がある。【以下、次回】

 中谷宇吉郎は、こういう遠回しな言い方によって、ソヴィエト連邦が、厳冬期に日本の北辺に侵入してくる可能性を示唆しているのである。

*このブログの人気記事 2020・12・17(10位の吉本隆明は久しぶり)

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