アフガン・イラク・北朝鮮と日本

黙って野垂れ死ぬな やられたらやり返せ 万国のプレカリアート団結せよ!

死神の正体4―ルサンチマンに凝り固まった「蟻の兵隊」

2008年11月17日 18時42分15秒 | 麻生政権で自民終了
私は「蟻の兵隊」だった―中国に残された日本兵 (岩波ジュニア新書 (537))
奥村 和一,酒井 誠
岩波書店

このアイテムの詳細を見る


 こんな、もう都市伝説やオカルト話のレベルでしかない、幼稚な田母神の物言いにばかり、いつまでも構ってはいられないので、そろそろまとめます。

■死神トシオ(田母神・前航空幕僚長)言説のウソ:

(1)「アジア太平洋戦争は自存自衛の戦いで、侵略戦争ではなかった」「日米開戦はコミンテルン(ソ連)の罠」というウソ:

 「自衛戦争」たら「開戦は陰謀」たらいう物言いは、自ら起こした侵略戦争の責任を、被侵略国側に転嫁する、盗人猛々しい議論でしかない。中国革命や抗日戦争を、単にソ連の工作によるものだとするもので、ただの陰謀史観でしかない。その裏にある歴史の進歩を見ずに、単に一握りの陰謀家によって歴史が作られるとする、余りにも人を小バカにした議論である。しかもその根拠というのが、出所不明の怪文書や、右翼の北一輝やヒトラーも「社会主義」(但し、それはあくまでも国家社会主義であって、ソ連の共産主義とは無関係なのだが)を主張したからソ連の手先だとする、全くいい加減なものでしかない。
 事実は、「嵌められた」のでも何でもない。第一次大戦後の、植民地・半植民地諸国における近代化・民族独立運動の進展や、欧米における労働運動・人権・民主主義・戦争違法化の進展という、20世紀の歴史の大局を、ひとり日本だけが読めずに、絶対主義的天皇制の下、世界大恐慌後の不況の中で、日露戦争当時の旧態依然たる感覚のまま、アジアを引き続き軍事的に支配しようとして、帝国主義の侵略戦争に打って出ただけの事。それは、アジアの民族解放運動を押さえつけ、歴史の進歩に抗う戦いでしか無く、その結果、数千万人のアジア人と三百万人の日本人が戦争の犠牲となって終わった。そんなに日本の敗戦が癪に障るのなら、国の進路を危めた当時の指導者にこそ、その怒りをぶつけるべきであろう。

(2)「日本の朝鮮・台湾支配は、植民地でも搾取でもなく、近代化を目指した善政だった」というウソ:

 上記の主張の根拠というのが、「鉄道敷設・学校建設で近代化を図り人口も増えた」とか、「朝鮮人の国会議員や軍人もいたではないか」とか、「日本の進出を喜んだアジアの指導者・知識人もいたではないか」とかいうものだが、そんなものは「木を見て森を見ず」の類でしかない。
 「鉄道敷設・学校建設」は、偏に植民地支配を円滑に進める為のもの。近代化も、偏に植民地化=資本主義化であった事に因るもので、それまでの封建支配が植民地的搾取に置き換わっただけの事。人口増も、日本でも江戸から明治へと時代が下るに従い人口が増えた事と同じで、その事が直接善政の証には一切ならない。
 「朝鮮人の国会議員や軍人」は、いずれも日本の傀儡でしかなかった。被植民地民族の中に本国の下僕を育成し、以って同化政策の道具としたのは、洋の東西を問わず、植民地統治の常套手段であった。
 「アジアの指導者・知識人」が「日本の進出を喜んだ」のも初めだけで、やがて日本も、人種の肌が黄色いだけで、やっている事は欧米帝国主義と同じか、人権後進国であった分だけ更に野蛮ですらある事を知るに及び、やがて日本・欧米双方の帝国主義を駆逐して、真の独立を目指すようになる。中国の孫文・魯迅・周恩来、インドのネルー、ベトナムのホーチミン、インドネシアのスカルノ等々、皆然り。
 第二次大戦後にアジア各国が相次いで独立を達成出来たのは、偏にその為である。戦時中の日本の東南アジア進出は、単に戦争遂行の為の天然資源略奪が目的であった。当時日本が唱えた「大東亜共栄圏」なる主張は、その略奪目的を糊塗する為に、終戦間近になってから、俄かに言い出したものでしかない。

■「村山談話に沿った政府の公式見解に反する事は一切言えないのか?」というウソ:

 田母神の言動が、文民統制や公務員の憲法遵守義務に違反している事は勿論だが、それ以前に、言っている事が上記に見られる如くトンデモな事が、そもそもの大問題なのだ。欧米では、ナチスやファシズム、人種差別を肯定する発言は、社会的指弾を浴び、場合によっては刑事罰の対象にすらなる。「一切言えない」どころか、日本は逆に甘すぎるのだ。
 自衛隊そのものが、朝鮮戦争を機に、GHQが当初の民主化政策を放棄して、日本を「反共の砦」にする為に創設されたものであり、内部の体質はもう旧日本軍そのものだ。内部にセクハラ・パワハラが蔓延り、自殺者が多いのも、偏にその為。その中で、田母神自身が自衛隊幹部・幕僚学校長として、隊内で散々自身のイデオロギーを部下に強要しておきながら、外に向かっては被害者ヅラするとは、もう言語道断と言う他ない。

■「国を愛するのがいけない事か?」というウソ:

 「国を愛するがいけない」のではなくて、憲法9条改悪や集団的自衛権認知といった自己のイデオロギー正当化を、「愛国」やら「憂国」やらと言った主観的な言葉で誤魔化すな、という事。
 「どれが愛国か」なんてものは、人によって千差万別。政府御用や体制擁護、大勢順応を「愛国」的態度と履き違えている輩もおれば、国を愛するが故に、国の誤った進路を是正しようと頑張っている人も居る。私に言わせれば、国の進路を危め多くの戦争犠牲者を生み出した戦前の軍国主義ファシストこそが非国民であり、逆に田母神が「コミンテルンの手先」と貶めてやまない戦前非合法時代の共産党員こそが、身を挺してその誤りを正そうとした愛国者に他ならない。

■参院への参考人招致の拙さ:

 この間の参院外交防衛委員会での田母神参考人招致に至る流れを見ると、「トカゲの尻尾切り」が目的だったのではないかという気がしてならない。与党サイドは、今後一層、日米同盟の下で、アフガン・イラク派兵や集団的自衛権の認知、やがては憲法9条改悪に突き進もうとしている矢先に、田母神にこんなヘマをやらかされる事になった。それも偏に、田母神みたいな人間を、今まで散々泳がせ甘やかせてきた事の、ツケが回ってきた結果にしか過ぎないのだが。とまれ、このままでは余りにも拙いので、「臭い物に蓋」宜しく、ひとり田母神だけをスケープゴートに仕立て上げて、「トカゲの尻尾切り」を図る事となった。
 本来はそれに止まらず、田母神の息の根を止めるべくして追及に立った筈の野党も、結果的にそれに乗せられてしまったのではないか。その結果、フジ産経グループに、田母神を英雄に仕立て上げる余地を与えてしまったように感じる。
 「参考人招致を田母神の自己宣伝、独演会の場にしてはならない」と言うのであれば、尚更のこと、相手にとりあえず喋らせる事で、論理の矛盾をさらけ出させてから、業者との癒着や利益供与と共に、田母神言説の論理の粗雑さや矛盾についても、もっと徹底的に炙り出して追及し、最低限、旧軍の残滓を自衛隊から一掃して民主化を図ってこそ、初めて文民統制や軍縮、「人間の安全保障」(単に軍事力で国家だけ守れたらそれで好しとするのではなく、諍いの原因となる貧困や不平等の解消によって個人の人権確立が図られなければならないとする考え)へと歩を進める事が可能になるのではないか。

■ルサンチマンに凝り固まった「蟻の兵隊」

 以上、田母神言説について一通り批判を加えてきました。私が、彼の言説を読んで真っ先に思い起こしたのが、映画「蟻の兵隊」のストーリーです。この映画は、第二次大戦後も、当時の日本軍現地司令官と当地の国民党軍閥との裏取引によって、一方的に中国の山西省に残留させられて、その後に続く共産党軍との内戦の駒として散々利用された挙句に、戦後の日本政府から「勝手に現地に居残った」として見捨てられ、軍籍も抹消されて補償の埒外に置かれた旧軍人たちの事を取り上げたものです。拙ブログでも関連エントリーを既にアップしています。
 「大日本帝国の夢をもう一度」として、60年以上前に一度は歯向かった米国に、今度はその下僕として、再び侵略の銃を取る。そのブッシュの「テロとの戦い」そのものが、今や米本国においてすら否定されつつあるというのに。そんな、自己中心的な過去のルサンチマン(嫉妬心・復讐心)に凝り固まった「蟻の兵隊」。その犠牲になるのは、今も昔も、現地の人民であり、無益な戦争に駆り出された名も無き庶民です。

(関連エントリー)
・死神の正体1―戦争・格差社会の推進者
 http://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/2f2fa77b1690348b3e2937761b345a94
・400円カップラーメンと300万円ネトウヨ投稿
 http://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/08cd6d198db4deeb77cd9db8bc9024ac
・死神の正体2―ブッシュ・ネオコンの残滓
 http://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/81acd1389f067507489d3aaa19e69fd1
・死神の正体3―軍事利権まみれのエセ愛国者
 http://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/e8b0a41e2997235d837bac699fe6a43c
・田母神も靴を投げつけられたら良かったのに
 http://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/44acc3b9c7bf7034250259517fb2f163
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 死神の正体3―軍事利権まみれ... | トップ | 元祖・猫カフェ続編 キー子... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

麻生政権で自民終了」カテゴリの最新記事