年始は、おだやかでぬくかった四万十も、
1月半ばを過ぎると大気の冷え込みがグンときびしくなった。
大寒の日には、この冬2回目の積雪に。
雪化粧をした四万十川を、冷たく激しい北西風が雪煙を巻きあげて吹きぬけてゆく。
朝、夕の気温は氷点下になりました。
スキマだらけの我が家は、うすら寒い。
部屋の中に2人用の小さなテントを張った僕は、テントにもぐり、羽毛のシュラフにくるまった。
そしてキャンプ用のガスストーブで湯をわかし、お茶を飲みながらマンガを読んだ。
テント内の小さな空間はすぐにぬくもるし、部屋の中でキャンプ気分も味わえる。
ただ、テントから抜けだすのが非常におっくうになりますが・・・。
10何年も前。
初めて自分のテントと羽毛のシュラフ(冬用)を手に入れたときも、
うれしくて部屋の中でテント生活をして、母親にあきられたことがある。
テントは代替わりしたけど、羽毛のシュラフはまだ現役だ。
コテンパンに使いこんだシュラフの生地は、色褪せゴワゴワで羽毛もだいぶ抜けて、
へたってしまっているけど、冬の夜の星空の下でも、このシュラフで充分に寝られる。
買った当時は値段がメチャ高かったけど、「やはり野外道具はタフでなければ」と思うのでした。
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家中キャンプ 南国土佐にも雪がふるのだ
寒さが一段落した1月末のある日。真冬の四万十川上流をカヤックで下る。
ヌクヌクした家を出て、ヒリヒリした時間を過ごし、生きてる手ごたえを感じたくなったのだ。
我が家から車で1時間ほど上流へ(約45キロほど上流)。そこは、十和村上流、通称三島の瀬があるところ。
カヤックで下る7~8キロの間に、2~3級(水量により3~3、5級)の瀬が8~9ヵ所ある。
(以前この区間では、カャックのフリースタイル(ロデオ)の大会が行われたコトも)。
僕は、水があたたかい季節に何度か下ったコトがあるが、真冬に下るのは初めてだ。
最もこんな時期に、ソロでここを下る物好きはまずいないだろう(良い子は真似しないでね)。
もっと下流の、瀬が少ないコースも考えたが、ヒリヒリするような時間を感じたかった。
ゴール地点に自転車を置き、川の下見をしながら、スタート地点の三島の沈下橋へ。
しょっぱなの200メータ区間に、2級、2、5級、2、5級の瀬が白波を立てている。
水量は少なめで瀬にパワーはなさそうだが「沈」はしたくないなぁ。*沈:転覆すること
気温13~14度。水温8度。西風。
水に手を着けると15秒ほどで指先がしびれ、痛く、ガマンが出来なくなる。
「ロールに失敗したらどうしよう・・・」
沈脱したら5分以内に水から上がらないと、体が動かなくなりそうだ。
「ヤバイよ!やめとけば・・・」もう1人の自分がささやく。
ココロの中で弱気の虫がザワザワと騒いだ。
ドライスーツはない・・・。下着は、カヌー用の長袖シャツ&パンツ。
その上に、半そでのウエットスーツ、フリース。アウターは、上下のレインウェア。
レインウェアの足首、袖口、胴回り、首周りを布テープで巻いて水の浸入を防ぐようにした。
なんともカッコ悪いが仕方ない。じっくりとストレッチをした後、カャックに乗りこんだ。
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よい子は真似しないでね 初っ端の瀬 うーむ・・・
久しぶりのパドリング。沈をおそれドキドキするココロ。
緊張と、ぎゅうぎゅうに締めつけたライフジャケット(PFD)のおかげで、
漕ぎはじめてしばらくたっても、体がスムースに動かない、呼吸も妙にくるしい。
「えーいっ、ままよ!いくぞ!」
覚悟をきめ、速く流れる水流にカヤックを滑らせ、JR予土線鉄橋下の瀬に突入した。
「どおりゃーっ!」2級左カーブの瀬。
瀬の中で梶がきくようにしっかり漕いだつもりが、思ったよりも強い流れに艇をもってかれてしまった。
「ゴツン」艇の横腹が、岩にヒットしてバランスを崩す「オットット・・・」。
「落ちついて、水をつかまえろ!」と自分に声をかけ、次の2、5級の瀬に突っこむ。
ドドドッ!白波がデッキに落ちてくる。水飛沫をカラダいっぱいに浴びる。
「よっ!よっ!よっ!」リズムをとり、波頭をブレードでしっかり捕まえながら下ってゆく。
水の冷たさはまったく感じない。全神経を瀬に集中してるからだろう。アドレナリン、全開!
水温が高いときであれば、カヤックを瀬の巻き返しの波にのせたり
流れから出たり入ったりして、瀬で遊んで行くのだけど、本日はその余裕はナシ。ひたすら真面目に漕ぐ。
「ふぇー」瀬の終わりのとろばにカヤックを入れ一息ついた。
カラダが軽い。先程までの緊張がうそのように。
呼吸が苦しかったのは、布のテープで首周りをきつく締めていたからだった。
「バカだねぇー」僕はテープをはがした。
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ほっと一息 空も水も青いのだ
コース中盤の2、5級の瀬をブジ漕ぎ抜けると川の流れはおだやかになった。
川の流れの中に突き出している無数の岩。どの岩も先端が侵食されなめらかに丸みを帯びている。
岩を縫うようにカャックは進む。水の中をのぞくが、魚の姿スガタは見えず。
この低い水温では、魚はほとんど動かず、深いところでじっとしてるのだろう。
少し先でカモたちがさわいでる。ウが目の前を横切っていった。
周囲の山々の日陰は、まだうっすらと雪化粧をしている。
岸辺の落葉樹は、すっぴんで(すっかり葉を落として冬芽で)春を待っている。
冬の深く澄んだ空、浅く澄んだ川は、どちらもキッパリと青が濃い。風はキッチリと冷たい。
トロ場のスローな流れに身をまかせた僕は、カヤックの上でのけぞって冬ブルーの空をながめた。
ヤッホーッ!!今、このイカシタ時間はジブンだけのもの。
なんとも言えない充足と開放感!!胸の奥まで清々しくなってゆくようだ。
そして思う。ああ、そうか、ビールを積んでくればよかった、と。
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大材の瀬 ジュージツのひととき
瀬は真面目に漕ぎ、それ以外は景色を愛でながらのんびりと下る。
流れが狭まり、「ゴーッ」前方からイチダンと大きな瀬音が聞こえてきた。
大材の瀬だ。流れの真ん中、やや右側に大きな岩がある。しっかり漕いで、大岩の左側を通過。
下り始めて約1時間、もうすぐゴールだ。空を見あげて、ほっと安堵の息をついた。
真冬の瀬に突入した今回の川下り。
水も風もひやい冬の川は、カラダをすっかり凍えさせたけど、
手ごたえのあるヒリヒリした時間に —豊穣な孤独に― ココロは、じわじわとぬくもっていった。
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