「信じられない。」
こちらのお店のランチ時の光景を知る方は、口を揃えてこう言うのです。
逆に僕は、夜の営業時の光景しか知らないので、その言葉に困惑するのです。
何が違うかは…まずはこちらのお店のお料理をご紹介してから。
札幌テレビ塔からも程近い、「創成川イースト」と呼ばれるエリア。
そこに町中華「天坊」はあります。
最初は、ランチ時に何度か入ろうと試みたんです。
でも、何度行っても満席。
諦めて、18時からの夜営業の時間帯に行くと…すんなり入れました。
カウンターに座り、まずは瓶ビール。町中華と言えば瓶ビール。
そして、つまみに選んだのは…
麻婆豆腐。
オーダーしたらご主人が、山椒の利かせ具合の好みを聞いて下さいました。
麻婆豆腐のみ食べるなら、山椒で痺れまくりながらの瓶ビールってのも最高なんですが、他にも味わいたいので、ちょっと軽めにして頂きました。
少し甘めの味付けで、ご飯にもお酒にも合う。「あぁ、町中華の麻婆豆腐だな」としみじみ。
そして目の前でダイナミックに鍋を振るう、ご主人の姿がカッコいい。
鍋の音がロックバンドのドラムの様に響く。これぞ町中華の醍醐味ですよ。
チャーシューをお願いすると、鍋で軽く炒めてから出して下さいました。
このひと手間が嬉しい。下には千切りキャベツや白髪ネギがたっぷりなのも嬉しい。
常温と炒めたもののハーフ&ハーフ、なんてのも快く作って下さいます。
メンマも炒めてくれます。やはり風味が増すので、僕は炒めたメンマの方が好きですね。七味マヨがこれまた有り難い。
ザーサイは最初から冷たいものと、炒めたものが半分ずつ出てきました。
これは納得。両者では味わいが全く違います。
餃子は薄皮タイプ。
特に、つまみには薄皮の方が良いですね。パリッとした焼き目から芳ばしい香りが。噛めば肉汁。
最初は、お酢に胡椒をたっぷり振りかけたもので食べてたのですが…
「これも試してみて下さい」と、自家製の調味料が。おろしニンニクに日本酒を混ぜて寝かせたものらしく。これを酢に溶かしつつ、頂く。
コレが今まで味わったことのない調味料で、生ニンニクの強烈さが丸くなりつつも、旨味と風味が増している。
コレは効きます(笑)。
さらに。
さらに。
「餃子はこういう食べた方もあるんですよ」と、徐に目の前でマヨネーズに豆板醤と甜麺醤を混ぜて出して下さいました。
コレまた初体験。どれも馴染みの調味料ですが、この組み合わせは想像だにせず。
そして確かに、餃子に合う。
この時は餃子を二皿、お願いしたのですが、三種類の味わい方を体験できました。
そして、僕の知り合いのお一人が熱烈に推していた…
そして、僕の知り合いのお一人が熱烈に推していた…
醤油チャーシュー麺。
まさに、町中華のご馳走。
この時も、ラーメンに載せる直前にチャーシューをサッと鍋で炒めていました。
一切の手抜き無しです。
ご飯も一緒に頼んで、スープを纏ったチャーシューを数枚載せれば、極上のチャーシュー丼。
唐揚げもサクサク。
そして胸肉を使ってるので、食べるとあっさり。それでいて肉汁が溢れ出す。
沢山の千切りキャベツに、マヨネーズが添えられるのも素敵。
こうなると…
チャーハンも食べたくなりますよね。
適度なパラパラ感としっとり感が共存するチャーハン。お見事。
コレを作っていただいてる間の、ご主人の見事な鍋振り姿は、相変わらずカッコいい。その技術の塊のようなチャーハンです。
色々定食類もあるのですが…
そのおかずだけを「つまみ」としてオーダーする事も可能。これは回鍋肉ですね。
快く応じて下さいます。
実はメニューにある回鍋肉単品よりも、「定食のおかずのみ」の回鍋肉の方が、盛りが少なめなので、お酒のつまみにするならこっちの方が良いですよ、とご主人が教えてくださったんですね。
そしてとある日、気付けばお客も僕だけとなり、もう一本、ビールを飲みつつ何か食べたいなと思っていたら…
「ちょっとメニューには無いんですけどね」と言いつつ、納豆のパックを手にするご主人。
パックの横に箸で穴を開けて、そこから納豆に被さっているビニールシートを引き抜けば、綺麗に取れる…なんて「知恵袋」をご披露頂きながら(笑)、納豆のオムレツに中華の甘酢餡をかけた一品を出して下さいました。
コレも初めて食べるお料理。納豆に半熟の卵が絡み、さらに甘酢が絡む。こんなん、お酒にもご飯にも最高。魅惑の味です。
こちらのお店の「甘酢」も、他とはちょっと違う様に感じます。酸味、甘味、塩気、トロミ、旨味、それら塩梅が本当に程良い。
ある日は、気になってたコレもお願いしました。
生姜焼き定食のおかずのみ。
これももう、「これぞ生姜焼き」と言う味わいです。多くの人の「生姜焼き食べたい欲」(?)を満たすであろう、生姜焼きです。
さらには、某BSの番組では「黒帯」でしか許されないと言われるオーダーの仕方を。
天津丼の「アタマ」です。
天津丼のご飯抜きですね。ご飯の上だけ出してもらうので「アタマ」。
これまた、見事な火加減で仕上げられた具沢山な卵に、相変わらず見事な甘酢餡が絡む。
お酒が止まりませんでしたよ。
…さて。
今までお伝えしたのは「天坊」の夜の光景。
実は、あまりに居心地がよくて、しばらく通い詰めることになったんですね。
で、行けばご主人が手厚くおもてなしをして下さる。
次々と、色んな「味変」や色んな「裏メニュー」を出して下さる。
カウンター越しの会話も弾み、数回行くうちにお互いの個人情報のやり取りもしました(笑)。
そんな「夜」の光景を、「昼」しか行ったことの無い知り合いに話すと、皆、口を揃えて「信じられない」と。
僕の周りには結構な人数の「天坊」ファンが。しかも、多くは自らも飲食業に携わっている方。
そうなると、夜は行けないわけです。ご自身のお店もありますから。
なので、皆さんお昼を食べに伺う訳ですけど、「昼のご主人は殺気が凄くて、注文以外、話しかけられない」と。
なので、そんなお客と笑いながら楽しげに料理作って、しまいにはそんな「おもてなし」まであるなんて、想像できない、と。
その点について、ご主人に伺ったら「そりゃ、そうです」と。
いや、そりゃそうですよね(笑)。
ランチ時は「戦場」。沢山のオーダーを、同時進行で一気にお一人で捌く。孤独な闘いを毎日繰り広げている訳ですから、そりゃ、そうです。
誤解の無い様に申し上げるなら、いわゆる「塩対応」では無く、あくまでも仕事に徹してると言うことです。恐らく。
他のお店でも、お一人で料理なさってる所はそんな雰囲気ですよね。
昼間はきっと何かの修行の場の様な、多少、張り詰めた雰囲気なのでしょうか。
お昼に次々と間を開けず訪れるお客さんは、ご主人の料理を食べるために、短いお昼休みの時間を割いて訪れているので、それに全力で応えようとすると…そりゃ、やっぱりそう言う雰囲気にもなりますよね。
一方、昼の様にお客さんが一気に押し寄せる訳では無い、夜の営業の時は、ご主人もご自身をほんの少し解放してお客と共に楽しむ。
と、言うことなんでしょうね。
そんな訳で。
「昼」と「夜」の違いを確かめるべく、お昼時に今度行こうかな…とは思うんですが…
「夜」と同じ事を「昼」やろうとは、僕も思いませんし、客として「昼」の顔で行くべきと言いますか、背筋を伸ばして伺うべきと言いますか。
とりあえず。
少し滝に打たれて、精神を引き締めてから行くべきかもしれません(笑)。