世は密かに「町中華」ブーム。
BS-TBSの「町中華で飲ろうぜ!」と言う番組が火付け役。
先日には、この番組とコラボしたベビースターラーメンもなんてのも売り出されてますね。
そして最近では、札幌中心部にも昭和の雰囲気を漂わせた、町中華テイストを売りにしたお店もオープンしてたりします。
そんな中。
どう考えても、本当に昭和から営業してたんだろうなと言う「黒帯」クラスの町中華が、札幌二条市場近くにありまして。
ずーっと、気になってて…
でも、どーしても、入れない。
オーラが半端ない。
それはもう、敷居が逆の意味で高い。
お店がもう本当に街に馴染みすぎてて、自分の様な若輩者が図々しく入り込んじゃいけないんじゃないかと。
地元の方々のオアシスに、他所者がズケズケと乗り込んじゃいけないんじゃないかと。
実際、毎回恐る恐るお店を覗き込むと、カウンターのみの席は大抵びっしり。
お昼時をずらしてもびっしり。
きっと殆ど馴染み客ばかり。
何となくお店の中をチラチラ見つつも、踏ん切りがつかずにお店の前を素通りする、という事が何度も続きました。
しかし。
ある日、同じようにビクビクしながら(する必要はあんまり無いはずなんですが。)、お店を覗き込むと…
入り口側の席が丸々空いてる!
よぉし、今だ!
と、意を決して乗り込むことができました。
ネットの数少ない情報によれば、ご夫婦で営んでると思しき、こちらのお店。
その日は、女将さん…とお呼びして良いかも分かりませんが、奥様…なのかも未確認ですが、とにかく「お母さん」が優しく迎えてくださいました。
お昼過ぎだったからか、厨房に立っていたのはお一人でしたね。
カウンターの他の席には、親子連れと若いお兄さん、自分と同年代くらいの方の3組。
横にいた親子連れは、お父さんと小学生くらいの男の子。
男の子は食べ盛りなんでしょうね。
麺を食べ終えた丼に頭を突っ込んで、ひたすらレンゲでスープを啜っている。
お父さんは「飲み過ぎたら太るし塩分取り過ぎだから、もう飲むな」と。
しかし、男の子は止まらない。何度言われても止まらない。
「だって美味しいんだもん」と、言い訳をしつつ飲むのをやめない。
カウンターの中の女将さんは「嬉しいねぇ、そう言ってくれると。いいから飲み干しな。」とか言ってて、横でお父さんは苦笑い。スープをひたすら飲み続ける男の子を横目に、女将さんと二条市場界隈の昔の街並みの話をしてる。
やがて、満足げな顔で席を立った男の子とお父さんと入れ替わる様に、また大学生くらいの若い男性が来店。
その彼がカウンターに座ると、挨拶もなしに女将さんはいきなり「いつ帰って来たの?」と話しかけて、彼のプライベートを知らなければ無理な会話が続く。
奥のお客さんは、注文した品を黙々と食べて「置いておくよ」と、お代をちょっきりカウンターの上に置き、その横に食器を置いてサッと帰る。
……。
…こんな、まさに昭和のテレビドラマのワンシーンのような光景を、いきなり見せつけられる訳ですよ。
そりゃ、怯みますよ。いい意味で、ですが。
そして思い出した様に、女将さんの目線が自分に。
「あ、じゃあ、餃子と…カツカレーを。」
と、告げつつも自分の中では迷いが。
壁のメニューを見ても、ビールはもちろん、コーラなどの飲み物の類もない。
でも、餃子にはビールだし、カツカレーにもビールだよなぁ…お願いしたらビールくらいは出るのかなぁ…町中華に普通は酒あると思うんだけどなぁ…
そんな感じでモヤモヤしつつ、様子を見ることに。
けれど、店内をキョロキョロしてみても、そもそもビールの気配が無い。
あるのはセルフの水のみ…なのかな、コレは…
と、思いを巡らせてるうちに登場。
手づくり感溢れる餃子です。
コレを受け取りつつ、再び意を決して「あの…ビールなんてありますかね…?」と、女将さんに聞くと…
「もー、何だい、それならもっと早く言わないと!!餃子焼いてるうちに言えば良いのに。」
「あー、…はい…」
「そこのコンビニで早く買っておいで!!!!」
「…………えっ……?!!!」
個人的に衝撃が走る(笑)。
「餃子冷めるから、早く行っておいで!」
「あの、ここって…酒の持ち込みできるんですか?」
「置いてないのよ。だから、飲みたい時はそこのコンビニで買ってきて自由に飲んで良いから。ほら、行っておいで。」
狐につままれる、とはこのことか。
呆気に取られて状況を飲み込み切れないまま、コンビニへ向かい…
こうです(笑)。
ついに、「餃子とビール」のコンビが成立。
…まさかの持ち込み自由(笑)。
まぁ、もちろん節度を持って、でしょうけど。
お店で出来立ての餃子を口にして、そこへ…自分でさっき買ってきた缶ビールを流し込む。
初めての体験(笑)。
「美味しそうに飲むねぇ。やっぱり餃子を食べながら飲みたいもんなんだねぇ。」
と、女将さんが珍しそうに言うのですが、いやいや酒持ち込み自由な町中華の方がどう考えても珍しいですよね?!…と心の中でツッコミを入れる。
「いやぁ、こんな経験、今まで生きてきた中で初めてですよ。」と、告げると、
「そうかい?そんなもんかねぇ。初めてってかい。」
「初体験ですね(笑)。」
「そうかい、いやぁ、初体験かい。」
なんて会話をしつつ、何故か女将さんは嬉しそう。
「色んなお店行きましたけど、お店来てコンビニで缶ビール買って持ち込んで飲むなんて、そんな事ありませんもん。」
「そうなんだねぇ。初めてかい…。」
と、相変わらず何故か嬉しそうな女将さんの前では、カウンターに座ってる常連さんが何となく笑ってる。
この衝撃的な展開。
聞けば、お店に来る酔客が多過ぎたのが原因だと。
確かに、近くには昼下がりから安く飲める大衆酒場もありますしね。
散々酔っ払って、締めのラーメンを食べに来る酔客が、そのままカウンターで寝込んでしまう事が多く、その対処に困った結果の決断が「酒を置かない」という事らしく。
でも、飲みたいなら今回のように持ち込んでもらっても構わないと。
「酒で利益だそうなんて考えないし、美味しく料理を食べてもらえれば、もうそれだけでいいのよ。」
と、豪快に笑いながら語る女将さんは、まるでジブリのアニメに出てくるキャラクターの如く。「ラピュタ」の「ドーラ」のような豪快さと懐の深さを感じます。そりゃ、酒の持ち込み自由なんだから、懐は深いですよね(笑)。
やがて、カツカレーと思しきものの作成に入る女将さん。
カウンターの横に座ったお兄さんは「トンカツ定食」を頼んでたので、一気にトンカツを揚げる算段か。
冷蔵庫からは、豚ロースの塊が出現。
注文ごとに豚肉を手切りしては、衣を付けて揚げていると言うことですね。丁寧。
今度は大きなタッパーを出し、中のカレールーを鍋へ入れて温める。
昔ながらのカレーの香りが店内に漂い始めた頃に、奥の炊飯ジャーから大きめの皿にご飯をワシワシと盛る。
ザクッ!と、音を立てつつ、まな板の上で揚げたてのトンカツを切ったらご飯に載せ、湯気の立ち上るカレールーをたっぷりとかける。
はい、来ました。
この艶。真っ赤な福神漬けも輝かしい。
ルー自体にも、豚肉の薄切りや玉ねぎがたっぷり。
カレー好きな子供も大人も、皆がうっとりする様な、そんな昔ながらのカレーですよ。泣けてくる。
コレを掻っ込む幸せは…ご想像のとおり。
もちろん、合間に缶ビールも流し込む(笑)。
実は、店構えは町中華ですが、メニュー的には定食も多く。
隣でお兄さんが食べてたトンカツ定食や、「生姜焼き定食」なんて魅惑のメニューもありました。
次はソレ狙いですね。
帰り際、女将さんが「次にまたここに来るなら、最初から缶ビール買ってくるんだよ。」と。
「次は、抜かりなく準備してから伺います。」と申し上げつつ頭を下げると、また女将さんはドーラの様に豪快に笑うのでした。