キリンフィルハーモニーの団員向けメルマガに3回シリーズで寄稿した拙作エッセイ2回目。
今日がその発行日でした。
今回もそのままこちらでも載せちゃいます。
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第2回 「プロオケとアマオケ」
学生時代には、若さ溢れる熱意と本番の爆発力によって、時にプロを上回ることができると勘違いしていた。
今から考えると何とも恥ずかしい話しだが、当時は自分たちの演奏テープ(カセットテープ。(笑) 時代を感じるでしょ?)を聴きながら、「おっ、この演奏ってN響よりいいんじゃない。」などと無邪気にはしゃいでいたものだ。
そんなオヤジにとって、最初のプロオケとの接点は、学生時代に出演した当時のNHKの人気音楽番組「音楽の広場」だった。
101ストリングス(注1)の再現企画で101人の弦楽器奏者を揃えるにあたり、恐らくNHKの予算の都合だろうが、東フィルで不足する人数を補うために、当時NHKの後ろ盾でユネスコの傘下にあった青少年音楽世界連合日本支部(注2)に所属する大学(音大ではない)オケのメンバーで構成するジュネス・ミュジカル・オーケストラの弦楽器メンバーが加わった。
収録の日。まずリハーサルだったのだが、学生メンバー何人かが遅刻をした。
東フィルメンバーは、学生がバラバラと集まり始めた集合時間には、全員が既に席について楽器を弾き、譜読みとウォーミングアップを終えていた。そして本番収録終了後、仲間と談笑しながらのんびりと片付けをする学生の傍から、東フィルの団員が早々に片付けを済ませてスタジオから消えていった。
その後の話を聞くと東フィルのメンバーからは学生と一緒に演奏するのは二度と御免だと不評だったらしい。
そう、演奏技量の差よりも演奏することへの姿勢の差を思い知らされたのだった。
この番組で黒柳徹子さんと司会をしていた作曲家の故 芥川也寸志先生は、「アマチュア音楽は音楽の本道である」と、自らもアマチュアオーケストラの新交響楽団を率い、関西ではオヤジが所属していた芦屋交響楽団を指導するなどアマチュア音楽へ意欲的に関わっておられたが、団員に対しては好きでやっているからこその厳しさを要求された。
練習時間に本来の仕事で遅刻したり、欠席することは仕方無いことだが、練習前に誰が休み、ソロ楽器であれば代吹きを立てていて当たり前、遅刻の場合は何時頃に来る予定なのか、インスペクターがそれらの全体像を示せないと練習を始めなかったそうだ。
音楽とは皆で楽しむもの。だから稼ぎとは無関係に打ち込めるアマチュアが取り組む音楽こそ本来の道という考え方。それは一方で音楽に関してはプロではないかもしれないが、仕事を持つ社会人としてプロである人たちが、誰にも強制されずに「好き」で自主的な活動をしている以上、音楽に真摯に向かい合い、組織であるオーケストラの規律・運営をしっかりとやるのが当たり前ということであった。
さて、2年目のキリンフィルはどうだろうか?
もう一つ、プロを思い知ったエピソード。
先日、キリングループ提供のテレビ番組「ソロモン流」で陳健一さんが言っていた。「プロフェッショナルとは、どんな時でも全力を尽くす。」
この難しさを実感したのが今から約20年前のことだった。
当時、オヤジは芦屋交響楽団に所属していた。
細かな経緯は覚えていないが、同じ会場で土曜日の夜と日曜日の午後の2日連続してベートーヴェンの第9交響曲を演奏するという機会があった。異なるのは合唱団のみ。
しかも、演奏場所はホームグランドである阪神間からは微妙に距離のある姫路市だったので、団員ほぼ全員が泊まりがけだった。
結果として大きな事故なく、2つの演奏会を終えることができたのだが、やはり日曜の午後の演奏は前日の域に達していなかったことを、オヤジはもとより団員の多くが痛切に感じていた。
当時、指揮をしていただいた松尾葉子先生が、リハーサルの時に日曜日が勝負とおっしゃっていたが、土曜日の夜の演奏会後の宴会で緩んだ緊張感と意識の集中を、我々は再び同じレベルまでは高められなかったのだ。
アマオケは大概定期演奏会レベルであれば年2回程度。演奏会までに数ヶ月の練習の長いプロセスがあり、1度の演奏会で全てを燃焼し尽くす。
しかし、プロオケはそういうわけにはいかない。様々な演奏機会を均すと3~4日に1回は本番があるのではないだろうか。練習も3日程度で仕上げ、その都度、全力を尽くしてお金を払って来場されるお客様に満足を提供しなければならないのだ。
この違いを少し乱暴に言えば、日常と脱日常の違いだと思う。
日常のレベルで日々のこととして好きで努力をし続けて時に計り知れない才能があるプロと、そもそも競おうとすることが全くナンセンスなのだと今ははっきりと解る。
とはいえ、オヤジは芥川先生が大事にされた「アマチュア音楽は音楽の本道である」という精神の真髄である音楽に対する思いと姿勢は、プロもアマも区別は無いと思うのだ。(続く)
注1)101本の弦楽器を中心に、管・打楽器が加わった総勢140人にもおよぶ世界最大の大編成オーケストラ。
ロンドン交響楽団、ハンブルグ交響楽団などの欧州一流どころのオーケストラのコンサート・マスターも多数参加。
クラシックで鍛えられた緻密でゆるぎのないストリングス・アンサンブルを繊細で華麗なムード・ミュージックとしてアレンジするのが101ストリングス・オーケストラの魅力。(Ongen Netより)
注2)ジュネスの愛称でも知られている。
ユネスコ傘下のen:Jeunesses_Musicales_Internationalの日本支部として1961年に発足。 2001年7月8日「第74回 青少年音楽祭」を最後に活動を停止した。(Wikipediaより)