山吹

茶店より洩れくる声や濃山吹

バラ科の落葉低木。山野や渓流沿いに自生。四～五月頃、濃い黄色に五弁花をたくさんつける。園芸種に八重山吹、山吹とは別種だが白い四弁花をつける白山吹などがある。丘の麓に茶店があった。地元の客らしく、大きな声で話しているのが聞こえてきた。曇空に八重山吹が咲き始めていた。

　








山吹や小さきリュックの幼き児


　

紫華鬘（むらさきけまん）

飛鳥なる丘の紫華鬘かな

ケシ科の越年草。平地や山麓の日陰のやや湿ったところに自生。華鬘は仏殿の欄間などの装飾具のこと。四～六月、茎の上部に紅紫色ときに白色の筒状の花を総状につける。華鬘草とは別種。甘樫丘を登るとき、道端に紫華鬘が咲いているのを見つけた。歴史ある地での華鬘草から飛鳥時代の昔へと思いを馳せた。

　




紫華鬘女らの声賑やかに


　

霞

垣間見し二上山の霞みをり

春は水蒸気が立ち込めることが多く、山野など遠くのものがぼんやりと霞んではっきり見えない様子をいう。また、霞には横に筋をひいたように棚引くものもある。「草霞む」などと体言について用いられることもある。甘樫丘を歩いていると、木の間から二上山が霞んで見えた。≪うつそみの人なる我れや明日よりは 二上山を弟背（いろせ）と我が見む (大津皇子の姉）≫のあの二上山であった。

　




カンバスに霞める山と畝傍山


　

落花

甘樫丘（あまかしのおか）の落花を浴びにけり

散る花のことであるが、特に桜の花についていう。桜は花期が短く、散り際が美しいので、古くから日本人に愛されてきた。奈良県の飛鳥を歩いた。先ず、蘇我蝦夷・入鹿父子の邸宅があったとされる甘樫丘に登った。展望台からは大和三山や明日香村などが見渡せた。円形の展望台には太い桜が囲むように植えられ、風が吹くとはらはらと花が散るのであった。

　






寄り添へる若き夫婦へ落花かな


　

木蓮

木蓮に風あるそぞろ歩きかな

モクレン科の落葉低木。中国原産。古くから日本に渡来し、観賞用に栽培。三～四月頃、葉に先立って枝の先に暗紅紫色の六弁花を上向きにつける。花の形が蓮に似ていることからこの名がある。木蓮が咲くとよく風が吹く。その風に吹かれながらのそぞろ歩きは楽しいものである。

　






木蓮や一方ならぬ母の恩