またまた、『世界一受けたい授業』の話だが…………
太宰治「走れメロス」のラストシーンを、
正確に知っている人は、案外多くないらしい。
――身代わりとして、
死刑台に置いてきた親友セリヌンティウスを救うため、
メロスは、ボロボロになりながら走り、期限ぎりぎりで間に合う。
そして、クライマックスを迎える。
メロス
「一度だけ、走るのをやめようとした(悪い夢を見た、と表現)
殴ってくれ。
殴ってくれなければ、抱擁する資格などない」
セリヌンティウス
「俺も殴ってくれ。一度だけちらりと君を疑った」――
いうまでもなく、
何回読み返しても感動するのが、このシーンである。
が、現実世界では、
「相手を疑ったことを暴露なんかしたら、相手に悪い」
と、闇から闇に葬ってしまう場面のほうが多いかもしれない。
信頼している人に対して、
――自分は悪い夢をみてしまった――ことを懺悔するほど、
恐ろしいこともないから、当然ともいえる。
現実に、
悪い夢を見たことさえ懺悔しあい、殴り合えるような
断金の契りを結べたら、なんとファンタスティックであろうか……
(おまけ)
「はしれメロス」は、たしか
――メロスは激怒した。
で始まり、
勇者は、ひどく赤面した。――
で終わる、
という呼応のような形になっている所もおもしろい。