歩く・見る・食べる・そして少し考える・・・

近所を歩く、遠くの町を歩く、見たこと食べたこと、感じたことを思いつくままに・・・。おじさんのひとりごと

東京物語 ③ 暑い盛りに何故上京?

2013年02月08日 | 映画の話し
昨日の続きです。

今日は曇り空、北風が風音を響きかせ、とても寒いです。

今日も炬燵に入り、『東京物語』のお話をします。

それで、老夫婦は長男の家に着き、長男夫婦と、二人の孫と、美容師の長女と、次男の元嫁と、みんなで、夕食に“すき焼き”のご馳走を頂くのです。「東京家族」でも“すき焼き”だったと思います。

すき焼きは、あの頃から、今でも、ずっと、ずっと、高価で、めったに、食べられない、ご馳走なのです。

ところで、わたくし、ずっと、ずっと、30代の頃まで、すき焼きは豚肉とばかり思っていました。私が育った家では、高価な牛肉は絶対に出て来ませんでした。すき焼きの“牛肉”で世間を知りました。

でも、いまでも、我が家ではすき焼きは“豚バラ”です。豚は何と云っても、脂身が旨いのです。

それで、夕食の“すき焼き”ですが、みんなで食べるシーンは無いのです。家族の物語です、一緒に同じ釜、同じ鍋を、つついて家族なのです。

家族のドラマは“飯喰いドラマ”と云われたりします、それでも、ここでは食事シーンが、無いのです。これは、何故? 食事のシーンは他でも出てくるのです。小津が食事シーンを嫌っていた訳ではありません。

老夫婦、長男夫婦、孫二人、長女、元嫁、合計で8名です。狭い部屋で8名の食事シーンは、各自の配置、各自のセリフ毎にカメラ位置を変えたり、映像的にいろいろと、ややこしくなるので、それで、入れなかったと思うのです。うん、たぶん、間違い無い。

そして、夕食後、老夫婦は二階に上がり、


トミが、『こかぁ~、東京のどの辺でしや~』


『端のほうよ・・・・』


二人は、ほとんど東京の地図は頭に入っていないのです。1953年ですから、遠い尾道で暮らしている老夫婦に、そういう知識が無くても自然です。

でも、これと同じシーンで、同じ会話が、2012年の「東京家族」にもありました。二人は長男の診療所の、場所も、住所も、位置関係も、まったく知らないのは不自然です。

2012年では、1953年よりも、情報は、ずっと、ずっと、手に入れ易いのです。それに周吉は教師で、定年退職して10年も経っていません。

年寄りと云うものは、住所が判れば地図で先ず確かめるものです。暇なのです、余計な心配をするものです。上京前に、東京のどの辺りか位置を確認します。そう云うものです。

それで、場面が転換し、羊雲が映し出されます。季節は秋に入ろうとしています。食後のシーンから、ずっと、遠くから祭り囃子が聞こえています。


これまで、作品を三度ほど観ていますが、季節については、まったく、考えたことが有りませんでした。会話のなかで、暑い、暑い、と云うセリフが度々でてきます。

それと、冒頭で孫の長男が中学から帰って来るシーンがあり、夏休みは終わって少し経った、9月も終わる頃の設定と思われます。

でも、しかし、です。9月の終わりで、まだ、まだ、暑いのです。考えて見ると、こんな時期に、尾道から夜行列車に揺られて東京まで老夫婦が旅行をする?これって、何か、不自然です。

長距離の旅行でしたら、気候の良い、春か秋だと思うのです。暑さは老人には堪えるのです。それでも、この時期を選んだ理由があるの? でも、しかし、それらしいセリフはありません。

ホントに何故?この時期?なのです。母親のトミが旅行から帰って直ぐに亡くなると云う設定から、それなりに暑い季節の旅行が、死期を早めたとした理由付け?

それなりに体調が悪ければ、旅行には出ないし、旅行に行ける元気があって、旅行後に直ぐに亡くなるのは不自然。

でも、スートリー的には、旅行後に直ぐに亡くなる方が、筋書的にはドラマチックなので、暑い最中の旅行が死期を早めたとして、まだ暑さが残る季節が選ばれた。

何かとても、そんな気がしてきました。多少と云うか、かなりと云うか、不自然であっても、これは、トミを旅行後に死なせる筋書き上選ばれた季節だったのです。

因みに「東京家族」の“平山とみこ”は、上京中に亡くなり、季節は、服装的に見て、“年寄りには肌寒い季節”の設定になっています。

「東京家族」は“九分九厘”『東京物語』なのですが、母親が亡くなった場所は異なるのです。これって、山田さんも、いくら何でも不自然として、季節と亡くなる場所を変えたのかも?

と、云う、ことで、本日は、これまで誰もが疑問に思わず?だれもが指摘してこなかった?『東京物語』の“不自然な上京季節”についての、“重箱の隅的”なお話でした。


それでは、また。


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