学問空間

「『増鏡』を読む会」、第9回は2月22日(土)、テーマは「上西門院とその周辺」です。

『新後撰集』の謎

2008-07-16 | 日本文学
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年 7月16日(水)23時29分11秒

小川氏の本と並行して、井上宗雄氏の『人物叢書 京極為兼』(吉川弘文館、2006)を少しずつ読んでいるのですが、この本で『新後撰集』は次のように紹介されています。

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 正安三年(一三〇一)に為世が後宇多院から下命された勅撰集は、約二年を経て嘉元元年十二月十九日に奏覧された。『新後撰集』である。
 歌人の入集数を見ると(算用数字で示す)、定家32、俊成29、為家・為氏28、実兼27首、御子左四代と権門とが上位を占める。亀山院25、伏見院・後宇多院20首、撰者為世11、源承8、定為・為道7、為藤・慶融6、為世女為子5首。京極・冷泉家では為兼・為教女
子9、為教・為相4、阿仏尼1首。
 為兼は上に述べたように、撰者父子(為氏・為世)の数が過分で、自己の入集数の少ないことの非を幾条かの理由を挙げてアピールしている。客観的に見て、為世、為兼・為子らの歌数は妥当と思われるが、為兼としては強力に自己の立場を鮮明にしておくことが絶対に必要なことであったのである。(p135)
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永仁六年(1298)正月、為兼は六波羅に捕縛され、同三月佐渡に配流。七月伏見天皇譲位。後伏見践祚。二年半後の正安三年(1301)正月に関東の意向で後伏見天皇がわずか14歳で譲位。後二条天皇践祚、後宇多院政開始、という具合に、この時期、公家社会では目まぐるしい変動があるわけですが、このような状況で正安三年十一月に下された後宇多院の勅撰集撰集の下命は、ある意味、大覚寺統の勝利宣言ともいえますね。
そして、嘉元元年(1303)閏四月に為兼が赦されて帰京。嘉元元年から翌年にかけて伏見院三十首が詠まれ(p126)、このうちの一首「我世にはあつめぬ和歌の浦千鳥むなしき名をやあとに残さん」が『新後撰集』に入集するんですね。
この歌は『増鏡』巻十二のタイトルにもなっているので、昔からちょっと気になっているのですが、これは「在位中に撰集を果たしえなかった痛恨の歌」(p138)であるのは明らかで、井上氏も言われているように、何で為世はこんな歌を『新後撰集』に入れたんですかね。
もちろん、存命中の上皇の歌を、本人が希望もしないのに勝手に入れることは考えられないですから、伏見院自身が選んで為世に出した候補作の中から為世が選んだはずですね。
伏見院が、内心ではどうせ採りはしないだろうと思ってイヤミを籠めて送ったら、為世がイヤミ返しであっさり受け容れて、ザマーミロと舌を出しているのでしょうか。
だとしたら、伏見院も為世も、お互い随分ひねくれた性格の持ち主ですね。

http://www015.upp.so-net.ne.jp/gofukakusa/genbun-masu11-gonijotenno-sokui.htm
http://www015.upp.so-net.ne.jp/gofukakusa/genbun-masu12-gyokuyoshu.htm
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『武士はなぜ歌を詠むか』

2008-07-16 | 日本文学
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2008年 7月16日(水)00時12分48秒

>筆綾丸さん
武士論についての歴史学の近時の成果をすべて踏まえた上で、「武士とは何か」という問題について、国文学の立場から鋭く問いかけた著作ですね。
歴史学者による書評が楽しみです。

>尊氏
小川氏の最終的評価は、「尊氏の歌風は各所でふれてきたが、基本的に二条派の教えに忠実な、穏やかなもの」「上級武家の教養の域を出なかった」とのことですが(p127)、素人目にはいささか厳しすぎるような感じもします。

http://www.asahi-net.or.jp/~SG2H-ymst/yamatouta/sennin/takauji.html
(千人万首)

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禅僧夢窓疎石は、慈悲深く、勇敢で、物惜しみをしないと尊氏の人柄を称えたが(梅松論)、これは育ちが良くて人に乗じられやすいということでもある。同母弟直義は有能怜悧であり、執事の高師直も好んで悪役を引き受けた。かれらと比較すれば、尊氏は、混乱する状況にひきずられ続けた、いささか冴えない英雄であった。(p80)
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この点も個人的には賛成しがたいものがありますが、史料解釈の問題ではなく、基本的な人間観の違いでしょうね。

http://homepage1.nifty.com/sira/baisyouron/baisyou50.html
(芝蘭堂)
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