投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2017年 6月21日(水)10時14分23秒
松澤克行氏「近世の公家社会」の続きです。
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このように、この間の天皇・公家などに関する研究は、国家史的関心と政治史的視点から主にアプローチされてきた。そのため、彼等の生活・活動の場である公家社会そのものに対する関心は必ずしも高くはなかった。そうした雰囲気は、この間にこの分野の研究を牽引した一人である藤田覚の、「あまり天皇や公家に共感を覚えないからかもしれないが、いまでも朝廷の仕組みや公家社会についてはよくわからないし、関心は薄い。それより、近世の政治史にとって天皇と朝廷はどのような意味を持つ存在であったのか、朝幕関係の変化は政治史全体とどのようにかかわるのか、という問題関心を重視して研究してきた」という述懐からも窺うことができよう。【後略】
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藤田氏の文章は『近世政治史と天皇』(吉川弘文館、1999)の「あとがき」からの引用ですが、この文章の直ぐ後に次のような記述があります。(p315)
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かつてある編集者から、「あなたは天皇万歳主義者ですか」と聞かれたことがある。心外だったが、江戸時代の天皇や朝廷の研究成果は、使いようによってはどのようにも使える怖い面をもっている。よほどきちんとした問題意識と研究史の位置づけをしないと危ないなと思った経験がある。「寝た子を起こすことはない」とおっしゃった近世史研究者もおられたが、本当に「寝た子」だったのか疑問が残る。【後略】
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藤田氏は歴史学研究会委員長も勤めたそうですから(2007~2010)、「ある編集者」や「『寝た子を起こすことはない』とおっしゃった近世史研究者」も、おそらく歴研周辺にいるイデオロギー色の強い、些か古風な人々なのでしょうが、藤田氏自身の文章からも、百姓一揆の研究でもしているのが似合いそうな少々古くさい雰囲気が感じられます。
そういう人が公家社会の研究をするのは、やはり無理がありますね。
藤田氏のような「前代からの名残で存在しているにしか過ぎない『臍の緒』」的研究者ではなく、新しい世代の研究者に期待したいと思います。
なお、「臍の緒」発言の林基氏は1914年生まれで、ウィキペディアによれば「中高生時代既に英・独・仏各語に通暁していたが、通交史研究に当たってはオランダ語やポルトガル語、スペイン語も学んだ」というすごい語学力の持ち主ですが、そういう人が日本近世史の研究をしていたというのは宝の持ち腐れのような感じがしないでもないですね。
さすがに現在の歴研では革命の実現可能性を語る人はいないでしょうが、本気で革命を目ざしていた世代の日本史研究者は、語学力に限れば、今どきの日本史研究者を凌ぐ人がけっこう多いですね。
ま、「大日本帝国の贅沢品」であった旧制高校の世代だから、というだけの理由かもしれませんが。
革命的語学力
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/779badc5bafbcac08b7f6b32c5b29177
林基(はやし・もとい、1914-2010)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9E%97%E5%9F%BA
松澤克行氏「近世の公家社会」の続きです。
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このように、この間の天皇・公家などに関する研究は、国家史的関心と政治史的視点から主にアプローチされてきた。そのため、彼等の生活・活動の場である公家社会そのものに対する関心は必ずしも高くはなかった。そうした雰囲気は、この間にこの分野の研究を牽引した一人である藤田覚の、「あまり天皇や公家に共感を覚えないからかもしれないが、いまでも朝廷の仕組みや公家社会についてはよくわからないし、関心は薄い。それより、近世の政治史にとって天皇と朝廷はどのような意味を持つ存在であったのか、朝幕関係の変化は政治史全体とどのようにかかわるのか、という問題関心を重視して研究してきた」という述懐からも窺うことができよう。【後略】
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藤田氏の文章は『近世政治史と天皇』(吉川弘文館、1999)の「あとがき」からの引用ですが、この文章の直ぐ後に次のような記述があります。(p315)
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かつてある編集者から、「あなたは天皇万歳主義者ですか」と聞かれたことがある。心外だったが、江戸時代の天皇や朝廷の研究成果は、使いようによってはどのようにも使える怖い面をもっている。よほどきちんとした問題意識と研究史の位置づけをしないと危ないなと思った経験がある。「寝た子を起こすことはない」とおっしゃった近世史研究者もおられたが、本当に「寝た子」だったのか疑問が残る。【後略】
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藤田氏は歴史学研究会委員長も勤めたそうですから(2007~2010)、「ある編集者」や「『寝た子を起こすことはない』とおっしゃった近世史研究者」も、おそらく歴研周辺にいるイデオロギー色の強い、些か古風な人々なのでしょうが、藤田氏自身の文章からも、百姓一揆の研究でもしているのが似合いそうな少々古くさい雰囲気が感じられます。
そういう人が公家社会の研究をするのは、やはり無理がありますね。
藤田氏のような「前代からの名残で存在しているにしか過ぎない『臍の緒』」的研究者ではなく、新しい世代の研究者に期待したいと思います。
なお、「臍の緒」発言の林基氏は1914年生まれで、ウィキペディアによれば「中高生時代既に英・独・仏各語に通暁していたが、通交史研究に当たってはオランダ語やポルトガル語、スペイン語も学んだ」というすごい語学力の持ち主ですが、そういう人が日本近世史の研究をしていたというのは宝の持ち腐れのような感じがしないでもないですね。
さすがに現在の歴研では革命の実現可能性を語る人はいないでしょうが、本気で革命を目ざしていた世代の日本史研究者は、語学力に限れば、今どきの日本史研究者を凌ぐ人がけっこう多いですね。
ま、「大日本帝国の贅沢品」であった旧制高校の世代だから、というだけの理由かもしれませんが。
革命的語学力
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/779badc5bafbcac08b7f6b32c5b29177
林基(はやし・もとい、1914-2010)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9E%97%E5%9F%BA