学問空間

「『増鏡』を読む会」、第9回は2月22日(土)、テーマは「上西門院とその周辺」です。

「会員の結婚についても矢内原の許可が必要」

2017-06-25 | 将基面貴巳『言論抑圧-矢内原事件の構図』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2017年 6月25日(日)10時37分52秒

結婚つながりで、ちょっと気になったエピソードを『矢内原忠雄 戦争と知識人の使命』から引用してみます。(p139以下)

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 雑誌『嘉信』とならぶ、もうひとつの軸が「自由ヶ丘集会」である。矢内原のもっとも身近にいたのが、その会員たちである。会員数は三七年には二〇人あまりで、その後もすこしずつ増加している。
 矢内原によれば、自由ヶ丘集会は「家庭集会」であり、「誠実を誓つた同志の集り」である。矢内原はその会員を「養子、養女」、みずからを「父」とみなしている。そのため、会員はたがいに「兄弟姉妹の家庭的関係」にあるとされる。会員の結婚についても矢内原の許可が必要であり、矢内原がしばしば仲介し、世話をしている。
 会員の資格としては、かなりきびしい条件が設けられていた。まず、矢内原が「思ふ存分叱り得る」よう、基本的には矢内原よりも一〇歳以上年下の者に限る、とされる。そして、矢内原と生死をともにする覚悟があること、本人の意思だけでなく両親の許諾があることなどが求められた。
 警察による監視がつづいていたため、矢内原の発言などが漏れる危険を防ぐために、出席者は外部に対しては秘密を守ることとされた。また、同じ理由から傍聴などは許されなかった。三七年秋には矢内原が講師を務めた聖書講習会の出席者が警察に取り調べを受けていた。そのため、矢内原の集会の会員であることは警察の監視対象になる可能性が高かった。
 集会は厳格な秩序のもとでおこなわれた。定刻になると玄関は閉ざされ、一分でも遅れたら入ることができなかった。無届欠席は認められず、やむなく欠席するときには事前に届けを出すこととされた。
 集会のプログラムは讃美歌、聖書朗読、祈祷、聖句暗唱、聖書講義といったものであった。司会は矢内原が次週の担当者を指名した。矢内原は聖書講義について次のように書いている。「私の聖書講義は、預言者イザヤが教(おしえ)を弟子の中に「閉ぢこめる」と言つた気概を以て行はれた。私は若い人々の胸を切り開いて、その中に聖言を押しこんで、私亡き後において私の志を受けつがせようと期待したのであつた」。
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矢内原忠雄が筆禍により東京帝国大学を辞職したのは1937年(昭和12)ですから、そういう時代背景を考えると秘密結社並みの厳しい運営が必要だったのも理解できない訳ではありませんが、「会員の結婚についても矢内原の許可が必要」みたいな統制の仕方は、正直、ちょっと気味が悪いですね。
矢内原は若い頃はそれなりにユーモアを解する人だったそうで、長男の伊作が生まれたときには、伊作を抱いて「おはつにおめにかかります。不肖ながら私があなたの父親です。どうかよろしく」と挨拶して周囲の人を笑わせるようなこともあったそうです。(p37)
しかし、

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 矢内原は、満洲事変以後の状況に危機感を抱くなかで、みずからの使命を強く意識するようになっている。同時に、次第に矢内原の性格として、その厳格さが目立つようになる。それ以前の矢内原は、生真面目ではあるが、おだやかでユーモラスな人物であった。しかしこのころから、矢内原は信仰上の弟子や家族に対して厳格な態度で接するようになり、家庭の食卓でも私語を許さなくなる。
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そうですね。(p109)
林健太郎だったか、『矢内原忠雄全集』の月報で、戦後、東大教養学部長時代の矢内原が些細なことでブルブル手を震わせながら激怒する姿を描いていて、正直、私などはそれを読んで一種の狂人ではないかと思ったりもしました。
コメント
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黒木為楨と黒木三次

2017-06-25 | 将基面貴巳『言論抑圧-矢内原事件の構図』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2017年 6月25日(日)09時57分32秒

>筆綾丸さん
>昨今の岩波新書には抵抗がありますが、

私も岩波の『科学』が「幸福の科学」並みのオカルト雑誌と化して以降、一円たりとも岩波の利益に貢献しないように心掛けているのですが、『矢内原忠雄 戦争と知識人の使命』は、矢内原忠雄について自分が見落としていた側面があったかな、と思ってついつい購入してしまいました。
岩波も社会不安を煽ってセコく儲けていますが、火事場泥棒的な出版物を見て、泉下の岩波茂雄が泣いているのではないかと思います。

『科学』2017年7月号「特集 被曝影響と甲状腺がん」

>柏会の黒木三次が日比谷大神宮で神前結婚式を挙げて内村鑑三の逆鱗に触れた

ウィキペディアを見たら、黒木伯爵家の御曹司・黒木三次の結婚相手は松方公爵家の令嬢なんですね。
内村鑑三の逆鱗は大変だったでしょうが、それに配慮して結婚式を中止したら父親の猛将・黒木為楨が激怒したはずで、日露戦争の英雄に怒られるよりは内村鑑三の逆鱗を我慢する方がマシだったでしょうね。
黒木為楨の長男が三次のような内省的人物であることはちょっと不思議な感じもしますが、年齢は40歳離れていますね。

黒木為楨(1844-1923)
黒木三次(1884-1944)

『矢内原忠雄 戦争と知識人の使命』には、矢内原の神戸中学校時代のエピソードとして、「忠雄は、修身科の教師・島地雷夢の授業に魅了されている。雷夢は浄土真宗本願寺派の僧侶・島地黙雷の息子であったが、クリスチャンとして知られていた」(p8)とありますが、黒木為楨と三次の父子関係は、西本願寺の猛将ともいうべき島地黙雷とその三男・島地雷夢(1879-1914)の宗教対立を連想させます。
こちらも年齢差が41歳と、かなり離れていますね。

島地黙雷(1838-1911)
掲示板「日本人の宗教と宗教心」内、「地黙雷上人と子息の雷夢の往復書簡(現代語訳)」

※筆綾丸さんの下記二つの投稿へのレスです。

マンガ「ゴルゴ13×外務省」 2017/06/23(金) 13:00:35
小太郎さん
昨今の岩波新書には抵抗がありますが、タレ目の神童に倣い、「なるべく」読むようにします。

http://www.anzen.mofa.go.jp/anzen_info/golgo13xgaimusho.html
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【あらすじ】
この数年,テロが中東や北アフリカのみならず,欧米やアジアに拡散し,今や在外邦人もテロの標的になっている。 このような状況下,外務大臣は在外邦人の安全対策のためにデューク東郷(ゴルゴ13)に協力を要請。 ゴルゴは大臣の命を受け,世界各国の在外邦人に対して,「最低限必要な安全対策」を指南するための任務を開始した・・・。
※このマニュアルの劇画部分はフィクションであり,実在する人物,地名,団体とは一切関係ありません。
※一話ごとに、能化領事局長が5分間の動画で解説します。安全対策講座としても利用してください。
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北朝鮮のミサイル発射が続き、緊張が高まった頃(現在も同じですが)、中国東北地方の在留邦人から次のような話を聞きました。瀋陽総領事館から、デューク東郷に邦人保護をお願いしました、という正式メールが届いたので、たちの悪いジョークだと思いました、と。(吉田茂は戦前の奉天総領事でした)
魂消たことに、ホームページによれば、外務省は本気なんですね。戦前の奉天総領事の孫でゴルゴ13愛好家の某副総理肝煎りの広報なのかどうか、ほんとにおバカな連中ですね。日本は大丈夫なんだろうか。思想や善悪を問わず、金銭的な折り合いがつけば殺人を請け負うスナイパーに対して、外務省は独裁者の暗殺を依頼したのだろうな、きっと。朗報を待ちたいと思います。デューク東郷の顔であの国に潜入するのは相当難しい、と思うとともに、あの独裁者も案外ゴルゴ13のファンかもしれない、という気もします。
こんなマニュアルがあろうがなかろうが、テロに遭遇して死ぬ確率は変わらない、たぶん。標題「ゴルゴ13×外務省」の「×」は、ふつう「vs.(versus=against)」を意味するはずで、外務省はゴルゴ13の知恵を借りてマニュアルを作成したのだから、「×」はないだろう、と思いますけどね。もしかすると、たんに小学生並の頭にすぎず、「×」は掛け算だから両者を掛け合わせれば鬼に金棒だ、とでも考えているのだろうか。
能化領事局長はなんとも貧相な顔で、こんな人では、かえって不安に駆られます。英語版はさすがに恥ずかしくて作れないだろうな(対象は日本人だから不要ですが)。
最初の注意書き(※)に、「なお、日本国外務省はちゃんと実在します、念のため。」という尚書きを加えたほうがいいですね。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/269407.html
NHKはNHKで、おバカな解説までしていますね。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9A%87%E5%A4%AA%E5%AD%90
サウジアラビアの「皇太子」と報道されていますが、国王は皇帝ではないから、「王太子」のほうがいいのかな、という気はしますね。どうでもいいことですが。

ゴルゴ13と金色のトビ 2017/06/23(金) 14:49:02
http://www.bbc.com/news/world-us-canada-40372403
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E9%B5%84%E5%8B%B2%E7%AB%A0
デューク東郷顔負けの新記録樹立。
従来の記録は L115A3 long range rifle 使用の2,475m(2009年)、今回は McMillan TAC-50 rifle 使用の 3,540mで、ターゲット到達までの所要時間は約10秒、つまり弾丸の平均スピードはほぼ音速と同じということですね。このスナイパーがカナダの特殊部隊所属のカナダ人だ、というのは意外です。
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The source described the difficultly of the shot, which required the shooter to account for wind, ballistics, and even the Earth's curvature.
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風向き、弾道(放物線)、地球の曲率などを計算する必要があるので、コンピュータ制御でないとすれば(The sniper worked in tandem with an observer という表現から、二人一組の純粋な人力のようですが)、ほとんど神業の領域ですね。神に誇れる仕事かどうかは難しい問題ですが、金鵄勲章くらいには値しますね。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%9D%E6%92%83%E6%B3%A2
物理学だけでなく、イラクの温湿度もわかりませんが、弾丸の初速が音速を超えているとすれば、ささやかながらも(蚊の鳴くような?)ソニックブームが発生した、ということになるのだろうか。

https://en.wikipedia.org/wiki/McMillan_Tac-50
性能は Muzzle velocity 805 m/s とあるから、初速は超音速ですね。当然ですが。

追記
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%A4%A7%E7%A5%9E%E5%AE%AE
『矢内原忠雄 戦争と知識人の使命』を、ちょっと立ち読みしました。
「国体論的ナショナリズム 神の国 vs.キリスト教ナショナリズム 神の国」という帯文は面白いのですが、柏会の黒木三次が日比谷大神宮で神前結婚式を挙げて内村鑑三の逆鱗に触れたのに、矢内原忠雄はなぜ金沢で神道式の神前結婚式を挙げたのか、思想的には結構重い問題のはずで、赤江達也氏にはもっと掘り下げてほしかったと思い、買うのはやめて酒代に充てました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/95%E3%83%B6%E6%9D%A1%E3%81%AE%E8%AB%96%E9%A1%8C
矢内原が結婚した1917年は、ルターが「95 Thesen」を発表してから、ちょうど400年目にあたる年なんですね。
コメント
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